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第五十二話〜大王、などではなく〜
彼は、裏切られて死んだ。
弟に裏切られ、部下に裏切られ、民に裏切られた。
先王はその種を作り、禁忌は首を絞め、神々は味方をしなかった。
彼はまた、大人しく死ぬことも許されず詰られた。
「大罪を犯したが故だ」農耕神はそう彼に説明し。
「汝の悲劇は皆因果応報」冥界神はそう彼に断言し。
「最早現世では償い切れず」生殖神はそう彼に通達し。
「異界にてこれを清めるべし」戦闘神はそう彼に宣言し。
彼はその母なる国から追放され、新たなる島に辿り着いた。
曲がりなりにも彼は母なる国の王である。彼は王として島を纏め上げ、周囲を従え、海を越えて威光を示した。
…………
「我が王、御報告を申し上げます。この地より遥か西方にて、急速に発展しつつある島を発見致しました」
「……ふむ。使節を送り、恭順させるか」
「では、そのように」
統治から十五年。彼は新たなる目標を見つけた。遥か西方のその島は、此方の威光を浴びる事無くこの世にあった。
「……これぞ神の思し召し。恭順の暁には、かの王の首を聖所に捧げようぞ」
彼の部下が伝えた島の名は日本。聖武天皇の知ろしめす土地である。




