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第五十一話〜NEW KANWA!〜

 ……三宝とは報連相也


「八咫烏、疾う報告なさい」


「はい只今」


 前回に比べれば柔らかな、それでもなお(いかめ)しい顔つきの皇祖神と、皇祖神に呼ばれてばたばたとやって来た八咫烏。


「イナンナ神には連絡しましたね」


「勿論ですとも。〈先に伝えてくれてありがと〉と伝言も頂きました」


「うん、今回はよくできましたね。次は砂漠の太陽神の下へ行きなさい」


「了解。では後ほど」


 そう言って勢い良く飛び出す三つ足烏。


「……そういえば大洋の四神からはまだ何も聞いてませんね。忙しいのでしょうか……」


 ここで言う四神との関わりは、イナンナ神と同時期に起こっていた。八咫烏は西へ行ったので、自ら東へ赴いて連絡したのである。


 聖武天皇との関連は、また別のお話。


 ……皇后の一日


 辰一刻(午前七時)にやっと目を覚ました人物がいた。源闢令に規定された聖武天皇の皇后、壱与である。


「……今日も今日とて何もなし。暇ね……」


 既に齢三十を数える壱与であるが、その見目麗しき事四方へ響き、未だ衰える事を知らない。嫡男は東宮として立派に役目を果たしているし、手許で育てている皇子二人と皇女二人も健やかで障りない。

 さりとて、その四人の養育は殆ど乳母や女房がやっているのでやはり暇であることに変わりはない。聖武天皇からは時々歌を、大学寮の人間からは定期的に大和言葉を教えてもらっているが、今日はどちらもない。


「……久し振りに料理でもしてみようかしら……」


 そう思い立つと、壱与は御付きの女官を数人連れて車に乗り、朝堂院へ向けて進めさせた。


「……と言うわけで、料理をしに来たのです」


「いや殿下、殿下は御料理なさる立場では御座いませんでしょうに」


 朝堂院、内膳司(うちのかしわでのつかさ)庁舎内、料理所。

 臣下に下賜する宴会料理を作る大膳職(おおかしわでのつかさ)と違い、ここでは帝の日常的な食事を作り配膳する役所である。


「だって久々に首様に料理を作りたくて……」


「とは申しましても、それは我々の職掌であります。殿下におかれましては今一度お戻りを……」


 結局、一刻ほど問答した末に壱与は戻った。その事を聞いた聖武天皇が、壱与の為に一日だけ料理の勅許を下したのは内緒だ。


 ……西方食事情


「……何処を見渡しても麦、麦、麦ですねぇ。まあ元より気候が違うので想像してはいましたが。とは言え土地の肥沃さは目を見張るものがありますね……」


 于留狗周辺の畑を見て回る陰陽頭。唐土の時と同じく、食糧事情の調査に派遣されたのである。


「それにしても、先程食べた〈あかる〉なる焼き物は美味でした。併せて飲んだ麦酒も中々……」


 あかるとは、麦を粉にして蜜や塩、麦酒で捏ねて焼いた物である。麦酒は、彼等にとってとても大切なものである。彼等の神殿にも捧げられるものであり、貴重な嗜好品の一つとも言えよう。


「私でも記録でしか見なかった羊が沢山いますね。唐土にもあったようですが、此方の方がより発展した利用をしているように感じますねぇ。これは良い課税対象ですわぁ」


 彼等は羊をよく食べるし、乳や毛も多用する。生前の日本では羊毛製品は貴重であったし、抑も羊は海外からの使者が献上するようなもので、家畜化していなかった。


「さて、土産もどっさりもらいましたし、帰りますかね……」


 新しい土地と新しい食べ物がある限り、陰陽頭の巡行は終わらない……


 ……神殿宮にて


 時間は少し遡り、東宮の于留狗帰還。


「流石に船を使うと早いな」


「殿下、あれだけの速度は我等の官船でも出せませぬ。あの船は是非とも欲しいものですな」


「うむ、落ち着いた時にでも父上に頼んでみよう」


 東宮率いる征討軍一行は市内凱旋を終え、神殿宮へ戻って来ていた。兵達には休憩を与え、東宮は玉座に座っている。押領使は傍に侍していた。


「……しかし、静かだったな。沿道に人を見なかった」


「どうもあの王はそれなりに支持されていたのでしょう。これは後の統治が面倒ですな、殿下」


「全くだ……む」


 話している途中、東宮は侍女の一人が目に入った。自分達ともこの辺りの者とも違う肌色や顔つきは、同じ服に身を包んでいたとしても、侍女連中の中では目立っていた。


「……押領使、斯様な娘は、元々此処にいたかな」


「確認を取らねば分かりかねますが……殿下、一介の侍女如きに如何なされましたか」


「あ、いや、特に何と言うわけでは無いが……」


 そんな東宮の様子から、押領使は何かを察したのか、カマをかけに出た。


「左様ですか。しかし、御顔が赤い御様子ですがなぁ」


「……別室で休む。父上にはお前から報告しろ」


 そう言って東宮は下がってしまった。この段階で押領使の予想は確信に変わった。


「……そういえば、殿下もそんな年だったな。ふむ、全く月日は飛ぶ矢の如く過ぎていくものだ」


 ついこの間までうないだったのに、気が付けば冠下なんて結って、元服までなさって……

 親のような感想を抱いていた押領使だが、先程の東宮の言葉を思い返し、疑問が出て来た。


「確かにあの侍女、この辺りでも見ない顔つきであるな。……身辺調査が必要か」


 東宮の初恋は、果たして実るのか。待て次号。

本話もお読み頂き有難う御座います。四回目の閑話ですね。

次回からは新章が始まります。時間軸は少し戻って第四帖冒頭へ。西討と同時進行で東へ行きます。そうだね、多正面だね。


さて、壱与に対して役人が「殿下」と呼びかけています。現代から見れば違和感の塊でしょうが、実は養老令の中にある儀制令皇后条には、皇后への敬称を殿下とする旨が記載されています。難しいね。

うないとは、頸あたりで揃えた、子供の髪型です。元服すると冠下を結い、初冠を達成するのです。今まで過ごした年月は一瞬のようですね。過ぎる月日も一瞬でしょう。耶蘇の灌仏会なんて直ぐそこですよ。


待て次号とか書いたけど言及するのは第六帖になります。許して。

次回、またお会いしましょう。

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