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第四十五話〜一矢〜

 ……押領使視点


 此処から一里も無いところに都城の様なものが見える。恐らく彼処こそが彼等の国の都であろう。市街を取り囲む羅城の内、その最奥には一際大きな建物が見える。周囲からも浮いた様な建築様式と彩色から見れば、間違いなく社の類であろう。

 粘土や藁を混ぜて固めた建材を用いたその羅城は、一見すると非常に脆そうだ。然し乍ら情報によれば、建材に用いるだけの十分な強度は備えているらしい。


「押領使、壁の前に敵が群がっているぞ」


「背水の陣で挑むのでしょう。先よりも重装備です」


 先程の侵攻戦よりも戦車を多く用意している様である。弓兵や雑兵の数も桁違いで、断固として壁を破らせないとする覚悟が伺える。城壁から指示を出す、金銀の煌びやかなる人物が指揮官であろう。ともすれば国王自身かも知れない。


「あの数とぶつかるのは流石に御免被るけど」


「私もそう思いますとも、殿下。なので此処は裏道を……」


 ……王の視点


「陛下、準備が整いました」


「うむ。あれを此処に」


 渡されたのは(Eme-dan)道具(Lalartu)の一つで、これを通して自身の声を大きくするものである。我の自信作の一つでもある。


「さて、勇敢なる戦士諸君、注目せよ」


 大きな声を出さずとも全員に声が届く。誠に楽のできる逸品である。夥しい数の兵が此方を向く。


「敵の卑劣なる兵器により、少数だけでは歯が立たなかった。だが、今は圧倒的な物量に恵まれている。イナンナ神の加護も、このウルクの周辺ならば諸君らの頭に遍く降り注ごう。かかる状況にあって、どうして我等が負けようか。最早我等は勝利を掴んだも同然である」


「「「「勝利を我等に! 栄光を我等に!」」」」


 響き渡る兵の鬨の声。何千何万もの兵が一斉に上げるそれは、天にも届く勢いだ。


「戦の行く末は諸君らの働きに掛かっている。諸君ら勇敢なる戦士こそが、このウルクを守る壁たるのだ。諸君ら勇敢なる戦士こそが、敵に仇為す剣たるのだ。諸君ら勇敢なる戦士こそが、我と神の威光たるのだ」


 言葉を切り、兵を見渡す。士気は最高潮となり、熱気が此方にまで伝わってくる。


「さあ、諸君。時は来た。我等の敵は目前にある。諸君らの働きを天に示せ」


「「「「イナンナ神万歳! ウルク市万歳! (Lugal)万歳!」」」」


 ……押領使視点


 敵の喊声が此処まで響いて来る。聞く限り、彼こそが王なのであろう。あれだけの統率力を誇る人物は、知る中でも殆ど稀である。主上でさえもたもすれば彼の王に追いつかれるとも知れない。

 はっきり言ってあんな数の統率された軍と真面にぶつかっては、此方の被害が余りにも大きすぎる。後方からの増兵が望めない状態での損耗は命取りとなる。結局、殿下と同じく、そんな物は御免被る。此処は一つ、戦の邪道を走る。


「弓矢を此処に」


「はっ、此方に」


 弓矢を受け取り、矢を番え、構える。

 弦を引き絞り、狙いを定める。

 先には、只一人の目標。


「……南無天照皇大神宮。請当王此矢、請当王此矢、請当王此矢……」


 指の力が抜かれた。

 矢は放たれた。

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