第四十三話〜義経と曹操夢の共演〜
……押領使視点
海を渡り、大興帥に挨拶した後に曹操が待っている南方へ向かう。名義上は殿下が将軍であるが、まだ元服して直ぐの殿下だけでは戦の指揮は難しいだろう。
「押領使、ここがあの曹操とか言うやつのいる場所か」
「ええ、もう間も無くすれば彼の構える陣が見えてくる頃合いかと」
殿下の問いに答えていく。此処までの間、殿下は様々なことを質問されたが、飽く迄もそれは座学でも学べる範囲。斯様な経験は実際に直面せねば分からない。
「分かった。あいつは山の上に陣取ったんだな」
「山頂に元々あった城を利用しているのでしょう。あまり高い山では御座いませんが、前線はもっと麓になるはずです」
山に陣を敷くのは手段の一つだ。攻め上がる敵からすれば攻め難い地形であり、此方からすれば逆に守り易い地形である。包囲されてしまうと兵糧攻めの憂き目に遭うという欠点もあるが、今回は背後も自軍で固めた為、この心配は無いはずだ。
「城の門が見えてきたな。誰か門前にいるぞ」
「……見えました。恐らく曹操でしょう」
門前で待ち構えていたのは、他でもない曹操自身であった。簡素ながらも重厚感ある石造門を背景に仁王立ちで入口を塞いでいる。
「曹操殿、自らお出迎えとは如何なされた」
「なに、陛下の皇子がやって来ると聞いてな。一目見ようとこうして待っていたのだ」
あまりにも安直な理由である。これでも軍の統括を任じられているのだから人は見かけによらないものである。
「はあ……。まあ良いか、さて、此方に御坐すが春宮にして征討将軍、基親王殿下に在らせられる」
「うむ、お前が曹操だな。春宮の基だ。よろしく頼む」
「南方の軍を統括しております、曹操と申します。殿下に於かれましては本日も御機嫌麗しく……」
「あー、堅苦しい挨拶はいらん。中で現状を知らせよ」
「承りました。門兵、開門!」
「了解。かいもーん!」
分厚い木製の扉が開き、更に道を塞いでいた鉄柵も上がった。曹操の案内で中へ進み、広い部屋で現状を聞くこととした。
…………
「さて、数ある情報網によりますれば、敵は数日内に此方へやって来ると思われます」
「規模は判明しているのか」
「それがですね殿下、其処が問題なのです」
「曹操殿、あまり勿体ぶらずに」
「良いではないか。まあいい、敵の規模や構成は既に把握しております故、実は殿下のやる事は殆ど無いのです」
それを聞いた殿下は目を光らせた。普段から何もしたくないと公言して憚らぬ殿下の心には、さぞ素晴らしい言葉であろう。
「そうか、それは良かった。解散」
「しませんからね。殿下には指揮官としての責務があります」
「…………えー」
「殿下は将軍です。征討軍の纏め役です。御役目は果たさねばなりません。曹操殿、続きを」
「……あ、ああ。実は敵は、我等のように騎馬を用いる事はしないのです。奴等は戦車を使います」
「戦車と言うと、馬に牽かせるあれか」
「その通りです、殿下。さて、そして此方にもこれに対抗し得る新兵器が御座います」
唐土の新兵器と聞き、聞いたことのある噂話の一つが浮かんできた。あの時はまさかと思ったが……
「……あれか。大興帥から認可されたのか」
「ああ、なんとか間に合ったさ。その口ぶりだと、使い方は知っているな」
「存在を耳に挟んだ程度だ。後で教えてもらう」
「……押領使、その兵器とやらはなんなんだ。聞いたこともないぞ」
「では殿下も、後で使い方をご覧になりますか」
「ああ。……面白い物か」
「とても派手で御座います」
曹操が殿下の好奇心に火を付けた。その上、油まで撒いていった。こうなると殿下は止まらない。
「そうかそうか。後でと言わず、今見せよ」
「殿下、今はその時ではありません。先ずは作戦を聞くべきです。さあ曹操殿、続きを」
これ以上は埒があかないので、強引にぶった切って続きを促す。
「では、此度の作戦をお伝えします。兵器の御披露目はその後に。では先ず……」
その日は敵もやって来なかったので、そのまま城で過ごす事になった。
余談ではあるが。新兵器の派手さに、殿下は大層心を奪われたご様子である。
此処までお読み頂き有難う御座います。
評価感想その他諸々、お待ちしております。




