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第四十一話〜統合後の荒波〜

 唐土を治めて十年が経過した。

 基親王は、昨年正式に元服を迎えた。(もとどり)を整え冠を被ったその御姿に、聖武天皇は感激のあまり涙を流したと言う。史実に於いては、同名の皇子は生まれて一年を迎える事なく虚しくなってしまった。故に同名を冠した皇子の初冠(ういこうぶり)、それも春宮としてのそれは感慨深いものがあるだろう。

 唐土の改革を見ていこう。行政区分の面では、唐土の統治を円滑に行う為、武照体制に代わる行政構造が組み上げられた。唐土全体を西川道(さいせんどう)と名付け、これを廿の国に分けた。夫々の国司は科挙によってこれを採用し、郷里の国司に任じた。道の一元統治の為に長安城はこれを大興府(だいこうふ)と改名し、その長たる大興帥(だいこうのそち)として阿倍仲麻呂を召喚した。位階は従四位下である。曹操は南の、冒頓は北の地域で夫々特例で国司となり、一帯の軍を統率する。

 内政では、本土と同じ方式では支障が出ると判断され、税制面で改革が試みられた。兵役はこれを唐土に限り兵戸制とし、十戸に一戸を兵戸とした。兵戸制とは、永代兵役を担う家を農民とは別で定める方式であり、給与が支給された。史実に於いては魏で採用されている。納税面では、唐土統合によって貨幣制が浸透した為、国土全体で希望者は従来の租調に見合う額の銭納を許可した。無論、変わらず物納を希望しても問題ない。この改革は律令の改正が必要であったので、新たに「源闢格(げんびゃくきゃく)」と「源闢式(げんびゃくしき)」を制定した。律令制としては、これによって一応の完成を見たことになる。

 こうして一気に版図を拡大した大和は、遂にその国号を「日本」と変更した。代わって近江国は大和国に改名され、尚真は大和守となった。隼人国は河内国に、蝦夷国は山背(やましろ)国と夫々改名が行われた。

 名実共に日本となったこの国は、源闢十五年を迎えた。


 …………


 大興府(旧長安城)執務室。執務室内は物が少なく、壁や天井の装飾から其処が本来、武照の生活の場であった事が辛うじて分かる。その中で大興帥は、廿国から寄せられた案件を手早く捌いていく。そんな最中、伝令が扉を叩いた。


「大興帥様、冒頓殿から気になる報告が御座います」


「鍵は掛けていない。冒頓からの文を此方へ」


「はっ、此処に」


 紙を受け取り、開く。流暢な漢文で書かれているその文は、素人には余りにも難解である。然し、嘗て唐の官僚として働いていた大興帥にとって、こんなものは使役魔として以前の問題である。


「ふむ、ふむ、ふむ…………」


 文に曰く、西方に於ける軍事活動の活発化。米や麦を含む穀類の高騰、馬の買い占め。これらが示す内容と従来の情報を鑑み、彼は一つの結論に至った。

 その文の要約と自身の結論を簡潔に別の紙へ書き記し、署名捺印の後に伝令へ渡した。


「これを急ぎ陛下の御前へ持って行け」


「承りました。失礼致します」


 伝令は部屋を飛び出し、廊下を駆けて行った。彼は遠朝廷(とおのみかど)としての機能を持ったこの大興府の長ではあるが、彼自身には挙兵の権限はあまり持たされていない。外部からの侵略に対する防衛は出来るものの、それ以上の事は勅を聴かねばならない。今回はその可能性が高い為、早馬を発したのである。


「間に合ってくれれば良いのだが……。誰かある」


 廊下から衛士が一人入って来た。扉の前にいた者である。


「はっ、此方に」


「曹操、冒頓に伝令を出せ。この文を渡すように」


 そう言って簡単に命令を記した紙を二通渡す。一つは冒頓、一つは曹操宛である。


「直ちに届けさせます。失敬」


 衛士はすぐさま走り去って行き、駅使に手渡した。彼はこの後、飛駅(ひえき)として日当り三百里以上を疾駆するのである。


 西川道成立から十年。暗雲はすぐ其処に立ち込めていた。

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