第四十話〜英雄を祖に持つ者〜
彼は今、神殿の玉座に坐している。そこから部下へ事細かに指示を出す。彼の時代に於いては、王として当然の役目である。神殿の整備補修もまた王の役目であるし、都市の防衛も然りである。
然し乍ら、彼がこの役目を負うのは実に二度目である。少し回想に入ろう。
──回想──
我は何故、此処にいるか。記憶を辿る限り、確かに我は死んだはずだ。若返りの植物も使えていないから恐らく寿命で死んだはずだ。
人は皆、死んだら冥界へ行くはずである。我が直接行って見てきた訳ではないが、少なくとも見渡す限り何も──砂粒一つに至るまで──無い様な所が冥界だとは思わない。
「……ふむ。おい、エレシュキガル神は何処か!」
「残念、此処には姉様はいませんわ。代わりに、あんたの都市神ならいるわよ」
そう言って現れたのは、獅子を引き連れた女神。その顔は嫌でもはっきりと覚えている。
「なんだ、イナンナか。さっさと姉を出せ、姉を」
「冥界じゃないのにどうして姉様がいると思ってんのかしら。この分だと、此処にいる理由も分かってなさそうね」
相変わらずこの女は性格が悪い。こんなだから配偶者が軒並み碌な目に遭わんのだ。
「そうだ、抑も何故お前がいるんだ。我は死んだだろう」
そう問いかけると、目の前の此奴は勝ち誇ったような顔で宣言した。
「あんたには、罰として二度目の生が与えられたわ! やったわね!」
「要らん。返す」
「あんたのお友達の時もそうだったけど、これもう変えられないのよね。大体、あんたの行いを見たら相応の罰が与えられるでしょうよ」
全くの言い掛かりである。
「我が何をしたと。神殿も造っただろうが」
「そうねぇ、他神の友達を倒したり、私の求婚を断ったり、私の私物を壊したり……」
「大半が私怨ではないか。そんな理由で神罰が下るのか」
「うっさいわね。さっさと行きなさい! 後のことは向こうで聞いてね!」
そう言い残すと、彼奴は何処へともなく消えて行った。と同時に、床──我が立っているのだから床だろう──に穴が空き、自然の摂理が働いた。
「おのれイナンナ覚えておれよぉぉぉ……」
──終了──
こうしてこの王は再び地上へ降り立った。無論そこは、生前に治めた都市のあった場所では無いが、そんな事はどうでも良かった。彼は瞬く間に周囲を制圧し、「国土の王」と称されるようになった。
そして彼の目は、東を向いた。
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さて、本話から第四帖と相成ります。お楽しみに。




