第卅八話〜それから〜
……聖武天皇視点
状況は酷いものであった。
あまりにも過酷な課税、兵役。腐敗した行政。贅を尽くした宮殿その他諸々……
行宮たるこの城にて、まずは種々の改革を指示した。その目的は一重に、先王の残虐さを民に刻み込むことにある。徳の下にその幸福を享受する事を真に幸福であると思わせる事にある。
確実な統治の為、曹操と冒頓に夫々の民の掌握も指示した。北方の騎馬の民は戦略的にも重要であるし、南方の田畑は収穫が良いと聞く。何れも手元から零してはならない。
「……他に何か、指示すべき内容はあるか」
「ええ、後は陛下還幸後の管理者を決めねばなりますまい」
「それは後々送る。それまでは陰陽頭、卿が纏めよ」
「勅とあらばやらざるを得ませんが、本来の職掌を考えると、恐らく長くは続きませんよ」
「うむ、早いうちに送ろう。では、還幸の用意せよ」
こうして長安行幸は何事も無く幕を閉じた。これを以て周は名実共に大和の支配下となり、王土は大幅に拡大した。
異界建国記にもこの偉大なる功績が記された。以下にその文章を掲げる。
源闢五年……周王武照が降伏。冒頓、曹操が大和に合流して周は滅亡。
……武照視点
気が付けば、何もない部屋にいた。見覚えのある、殺風景な部屋だ。なぜ此処に……ああそうか、確か東夷の王に負けたのだったか。
「汝、何の所以を以て再来するや」
後ろから突如、何の前触れもなく声を掛けられた。聞くのも久しいその声の発生源を向けば、果たせるかな、あの老人であった。
「久しいな、翁殿。なに、現地で色々あってな」
「知らず。照会…………接触…………確認。汝、倭人に敗北せり。異論あるか」
「いいや、無い。無いが……改めて言われると、腹が立つな」
無論事実である故、否定は出来ない。老人は言葉を続ける。
「……汝、未だ贖罪終わらず。別地配流を以て贖罪とす」
「甘受しよう。次は、天寿を全うしてから会いたいものだ」
「然り。……用意、配流」
老人の宣言と共にまた意識が遠のく。次はどの様な者共と遭遇するだろうか。次こそは勝たねばならない。天子はこの世にただ一人のみだから。
…………
武照が去って暫くした後、狄仁傑が同じ空間にやって来た。
「……また此処か。天帝は何処や」
後ろから突然声が掛かる。
「此処に在り。汝、人に非ず。何故来たるか」
振り返れば、其処には老人が立っていた。武照を送り込んだ張本人、天帝である。
「其方におりましたか。その意地の悪さは変わりませんな。実は陛下と共に斬刑に処されましてね」
「知らず。照会…………接触…………確認。汝、使役魔として役目終えたり。帰還を命ず」
「そうでしょうな。全く、今回も疲れましたよ……」
「理解。帰還路、形成……完了。帰還せよ」
少し先に階段が作られた。此処を通れば元々いた所へ戻る事ができる。
「ええ、では。……出来れば二度と会いたくは無いのですが」
「不可。武照、既に転生せり。異能未だ健在。」
「また呼ばれるんですか。面倒ですが……仕方ありませんね。それでは、またお会いしましょう」
狄仁傑は、使役魔としての元の世界へ帰って行った。だいぶ疲れた様子ではあったが、それ以外の心境も垣間見える。
この二人は後に別の世界で周を再興するが、それはまた別の話である。
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次回、閑話です。




