第卅七話〜併合〜
……聖武天皇視点
源闢五年、閏師走五日。
長安行幸の用意は、即日完了した。抑も、行幸を前提にしていたのである意味当然のことであるが。
さて、陪従は総勢千五百人、行宮たる目的地は勿論、長安の皇宮である。この行幸を以て周の征伐は完了、王土となるのである。
「いよいよですな、陛下」
「うむ。京職よ、卿の働きは見事であった。さあ、行くぞ」
「仰せのままに。行列、前進」
島内の行幸であれば何とか牛車が使えたが、今回は転移陣を使うような距離であることを考慮して、御輿を用いることとした。やはりこの揺れにはあまり慣れない。
転移陣の中央に辿り着き、向こうに知らせる。向こう側には陰陽頭が居るから、何の問題もないだろう。
陣が光り出し、周囲の景色が歪んでいった。
…………
「……陛下、お加減は如何でしょうか」
「…………何故、卿は平気なのだ」
どうも転移とは、気分が悪くなる物らしい。強かに酒を飲んだ時よりも酷い酔いだ。
「臣は武人故。陛下、体調が優れぬなれば、暫し休まれますか」
「……いや、問題ない。朕は上に立つものなれば、弱った姿など見せられぬ」
「失礼致しました。では、列を進めます。前進」
転移陣は、長安から少し離れた所に敷かれていた。御輿に揺られて進んでいく。
「して、周王は武照であったか」
「ええ。恐らく、陛下も御存知かと」
「……武韋の禍、であったか。如何な者か、知っておるか」
「史実通りに女であり、陛下と同じように使役魔を召喚出来ます」
「ふむ。興味がある故、後で拝謁させよ」
「承りました。さあ、陛下、間も無く明徳門を潜ります」
目の前に見えてきたのは、長きに亘って唐土の都として機能していた長安の入口、明徳門。此処を抜ければ、信楽宮の二倍以上の幅を誇る朱雀大路が伸びている。一里以上ある大路を進んでいくと、その先には朱雀門が聳えている。朱雀門を潜れば、皇城に挟まれ幅の広い昭陽門街に出る。その先に昭陽門があり、大宮が佇んでいるのである。
…………
長安、太極宮。
本来武照が座っていた玉座には現在、聖武天皇が着座している。正面には、臨時で御簾を用意してある。脇には京職と陰陽頭が控え、いつ何時何であれ対処の出来る体制だ。
「陛下、間も無く武照殿がやって参ります」
「うむ。陰陽頭よ、彼奴は妖術にて危害を加えるか」
「特製の枷で捕縛しております故、恐らくないでしょう」
「相分かった。通せ」
幾重にも重なる扉の向こうから、一人の女が歩いてくる。文官と武人二人も共にいる。
「……武照、此処に参った。我が部下の狄仁傑、曹操、冒頓も同様である」
見るに、文官は恐らく狄仁傑である。二人いる武人の内、唐風の衣を纏っているのが曹操でもう一方が冒頓であろう。
中央にいる女こそが武照であるはずだ。京職の言ったことが正しければ、三人の部下は皆使役魔であろう。
「ふむ。そうだな……陰陽頭、良いか」
「陛下、何でしょうか」
あまり向こうには聞かれたくないので小声で話す。
「あの使役魔を朕が物に出来ぬか」
「……出来ないことでは御座いませんが、彼等の同意が必要です。少々お待ちを……」
すると陰陽頭は目を瞑り、黙り込んでしまった。
何をしているのか皆目見当もつかないが、頭の中で会話でもしているのだろうか。
「……お待たせしました。曹操殿、冒頓殿は同意を得られましたが、狄仁傑殿は断固として譲りませんでした。お二人だけで良ければ、契約を結びますが……」
「なら、それで良い。疾うせよ」
陰陽頭は彼等へ向き合い、宣言した。
「さて、使役魔の内お二人は契約を結びます。残るお一人は、武照殿についたままですが……」
「構いません。曹操と冒頓の契約はどうか早く」
「では、いきますよ……急急如律令、曹操譲主帝、冒頓譲主帝、武照退主……」
こうして、聖武天皇の使役魔に二人加わった。
…………
「……さて、武照殿。貴女は罰を受けなければなりませぬ。民を苦しめ、好き勝手扱った代償は重いですよ」
「…………」
「弁明無しとは潔い限りです。して、陛下、如何致しましょう」
前回もそうしたように、結論を書いた紙片を陰陽頭に手渡す。
「拝見致します…………まあ、そうなりますよね」
陰陽頭は武照へ向き直った。
「……武照殿、結果を言い渡します」
「…………何とでもせよ」
「そう言わずにお聞きください。──爾の為せる悪行の数々、看過し難し。又王土を汚さんとして之を攻むるは言語道断。よって謀叛を認め、斬刑とす。獄令決大辟条に基き、之を直ちに執行せよ──勿論、狄仁傑殿の結果も御座いますよ」
「……聞かせて頂きます」
「良い返事です。──武照の為しける悪行の数々の教唆、看過し難し。よって謀叛を認め、斬刑とす。獄令決大辟条に基き之を直ちに執行せよ──以上、纏めれば、お二人は共に斬刑となります」
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