表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/106

第卅六話〜凱旋〜

 ……京職視点


 皇宮の門は一切が開け放たれていた。どうやら本当に降伏するようである。


「……やはり、どこからどう見ても……」


「……長安の宮殿ですね、これは……」


 もう、相手が何者かはなんとなく分かっているが、直接会うまで断定は出来ない。狄仁傑なる者の後を付いて行く。


「お待たせしました。此処が陛下の御住まい、太極宮で御座います……ああ、貴方方はご存知でしたね」


「……周王は何処に居りましょうか。時間稼ぎは悪手ですよ」


「中に居ります。用意がありますので暫しお待ちを……」


 そう言い残して彼は建物内に入って行った。いよいよ対面である。先に兵に指示を出しておく。


「さて。諸君ら五十人は此処を包囲、もとい、これを守衛せよ」


「承りました」


 五十の兵は各自散開し、配置に付いた。丁度その時、狄仁傑が我等を呼びに戻って来た。


「お待たせしました。陛下は中でお待ちです」


 …………


 本来は生活の場であろう部屋は、臨時の謁見室となっていた。困窮する中で成る可く煌びやかな装飾を施し、即席の玉座を用意してある。其処には、一人の女性が堂々と、しかしあまり芳しくないように見える様相で座っていた。飽くまでも勝者は此方側なので、礼儀は最低限とする。


「良くぞここまで参った。朕はこの周を治めし皇帝、聖神皇帝である」


「お初に御目に掛かります。大和陰陽頭、賀茂晴明と申します」


「同じく大和将軍、遮那王である」


 皇帝を名乗る人物が女性であり、国号は漢風である事を考えれば、相手の正体は最早明瞭である。陰陽頭が先に動いた。


「早速ですが、本題に入ります。全面的に降伏してくださいますね、皇帝陛下……いえ、武照(・・)殿」


 どうやら相手には大変衝撃的な出来事であったようだ。無論言ってもいない本名が知られていたら、しかもそれが先程までの敵であったら、その驚きも当然である。


「……貴様、何故その名を……」


「簡単な事です。狄仁傑なる人物を臣下とする人間は間違い無く我々の主上(おかみ)と同類の方でしょう。その上で周と言う漢風の国号を用い、女性でありながら皇帝を名乗る人物となると、私は一人しか知りません。其れこそが貴女の正体。後世において悪名高き女性の帝位簒奪者、己を弥勒の生まれ変わりとする元道士。何か、間違いはありますか」


 彼女……武照(ブショウ)は言葉を失っていた。少し言葉を掛けても反応しない。どうやら、今日中の会談は難しそうである。


「狄仁傑殿、後日改めて会談を行いたい。よろしいかな」


「……敗者たる私達に拒否権があると思われますか」


「全く思わんな。それと、武照が君の他に召喚した者がいれば、一人残らず呼び戻せ。これも拒否権は無いぞ」


「……一人は南方で、もう一人は北方で土地を治めております。其方から使者を発して呼ばれるのがよろしいでしょう。勅令書を後でお渡しします」


「成る程、左すれば貴殿の逃亡も阻止できるな。そのようにしよう。では」


「次は恐らく、主上も参られるでしょう。狄仁傑殿、用意に怠りの無いようにお願いしますよ」


 それだけ言い残して、この太極宮を後にする。長安の外に転移陣を構え直さなければならない。と言うのも、侵攻の際に一度外のそれを無力化しているからである。


「急いで主上に奏聞(そうもん)せねばならんな。個人用の転移陣は作れるか」


「では、行幸用の者の試験序でにやりましょう。敵はもう来ませんから堂々と置けますね」


「そうだな、そうしよう」


 こうして直ぐに陣が組まれ、京職は幾らかの部下を連れて信楽宮へ戻った。


 …………


 送り出されてから数ヶ月。そろそろ年を越すかと言った頃合いに帰還した。


「京職、只今帰還仕った」


「おお、京職様、よくぞ戻られました。大極殿で陛下がお待ちです」


 出迎えてくれた太政大臣の指示通り大極殿へ向かうと、果たして其処には主上が高御座におわして居た。


「不肖源京職義経、只今帰還仕りました」


「うむ、よくぞ帰って来た。先ずは詳細を報告せよ。勝ったか、負けたか」


「一から順に御説明申し上げます」


 こうして主上は、本戦闘の詳細とその結果、則ち我々の勝利を知ったのである。


「……大筋、相分かった。となると、後の予定は……」


「御存知の通り、長安行幸で御座います」


「そうだったな。では、急ぎ用意しよう。卿も疾う用意せよ」


「承りました。失礼します」


 大極殿から退出する。主上の行幸あって、初めて周の制圧は達成されるのだ。元々そう予定されている。

 自分も急いで正装を着なければならない。

本話もお読み頂き有難う御座います。

評価や御感想など、このサイトやツイッターでもお待ちしております。


さて、やっと敵の正体が分かりました。

聖神皇帝とは本人の自称であり、現代日本では武則天或いは則天武后で知られております。

周とは、武則天統治時代に彼女が付けた国号でありますが、後世においては武周と呼ばれ、古代国家の周と区別されます。詳しくは手ずからお調べ頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ