表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/106

第卅三話〜目と鼻の先〜

 ……京職視点


 源闢五年、師走二十日。

 高麗国上陸から三ヶ月ほど経過した今、京職を筆頭とする千四百名は、人目につく事無く……あっても闇討……周の都へ続く大河へと達していた。

 周の民が〈黄河〉と呼ぶこの大河の上流、そこから更に別れたる運河を上ればそこには都があると言う。


「陰陽頭よ、これでは生前の唐土(もろこし)そのままでは無いか。この情報、確かに合っておろうな」


「ええ。こっそり現地民から聞き出しましたし、式神を先遣して確認しました。唐土の長安と同じ地理条件の場所に、奇しくも〈長安〉を名乗る都城が築かれている様です」


「ふぅむ……」


 場所が分かれば直ぐに向かえば良さそうなものだが、そうもいかない。

 先ずは都の形状、則ち防御体制である。変わりない集落程度であれば、設備は有っても木柵程度。ところが、都城ともなれば話は変わる。こんな少人数で巡らされた羅城を突破するのは至難の技であろう。

 そう、二つ目の問題はこの少人数である。本来はどこか都合の良い所で転移陣を敷き、大軍を呼び寄せる予定であった。しかし、相手が半要塞ともなれば、当然成る可くこれは近い方が良い。されど整備された条坊制では、斯様な土地を手に入れるのは難しいと思われる。


「まあ、先ずはこの川を上らねばなるまい」


「それが宜しいかと。何とか見つかりにくい経路を探しましょう」


 川を直接遡上すれば勿論早く着く。しかし、そんな事をすれば直ぐに見つかってしまうだろう。畢竟(ひっきょう)、川は道しるべ以上の意味を持たない。


「あとどれくらい掛かるだろうな」


「恐らくは半月、遅くとも一ヶ月かと思われます。今年は確か閏月が有ったはずなので年は越さないかと」


「ふむ、成る可く早く着きたいものだな。寒さが身に染みる様だ」


「全くです。軍団転移の際に防寒の類の道具も持たせましょう」


 彼等は川に沿って北上して行く。人目につかぬよう、出来る限り早く着けるよう。


 …………


 同年、閏師走三日。

 大凡陰陽頭の予想通りの時期に、彼等は長安を臨む迄の場所に辿り着いた。


「ふむ、あれが敵の都か。どこからどう見ても唐土の都だな」


「ええ、寸分違わず長安ですね。だとすれば都の構造は丸分かりで大助かりなのですが」


「違いない。彼処に丁度、羅城から死角になりそうな窪地があるぞ」


「……あれなら、そう、広さも良さそうですね。彼処に転移陣を敷きましょう」


「承知した。総員窪地まで前進、野営用意せよ」


 あっと言う間に窪地を確保し、転移陣が敷かれた。

 円の中に晴明九字を描き、周囲を呪言で囲ったものである。

 用意が出来ると、陰陽頭は藁人形を懐から取り出し、語り掛けた。


「……応答、応答……繋がりましたね。転移陣の用意が出来ましたが、其方は……出来ていますか。転移用意、軍を円内に並べなさい。……並べましたか、では後は此方から動かします」


 通話を終えると藁人形を仕舞い込み、印を結んで呪を唱え始めた。


「急急如律令。請接続源、請転移軍団……」


 俄かに陣は青白い光を放ち蓄え、それは直視出来ぬ程に強くなっていく。

 やがて光が収まると、其処には夥しい数の兵が待機していた。


「……成功したようですね。京職殿、引継ぎを」


「相分かった。諸君、所属を述べよ」


 先頭にいた兵の一人、恐らくは大毅だろう者が進み出て報告する。


「我等合計二万五千、宣下賜り閣下の直属と相成りました」


「分かった。では早速だが諸君らも野営の用意をせよ」


「承りました」


 呼び出された大軍と合わせ、実に二万六千四百もの兵が集結した。目標はただ一つ、都の制圧である。

 羅城に動きはない。どうやら此方には未だ気付いていない様である。


「閣下、どうやら奇襲は出来そうですな。どう動きますか」


「まあ慌てるな、考えておるわ」


 京職はこの後の動きを頭の中で演算し、可能だと結論付けた。

 三万の喪失を知らぬ皇帝は、敵の接近さえも知らずに体を休めていた。

お読み頂き有難う御座います。

評価御感想その他諸々、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ