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第卅一話〜鏑矢は鳴る〜

 ……聖神皇帝視点


 天授七年、九月。

 三万もの兵と八百を数える軍船は遂に一堂に会し、東征の用意が出来た。現在、彼等と船は皆三山浦──地形が似ているのでこう呼んでいる──に集合している。将兵鼓舞の為に自ら発破を掛ける事とした。


「陛下、そろそろです」


「うむ。東征兵諸君、注目せよ」


 集合場所でばらばらに(たむろ)していた兵士が、皆一斉にこちらを向く。少し気分が良い。


「さて、諸君等は東征軍が一員である。目標は此方より東方、海上に浮かぶ小国である。諸君等の目的はこの東夷を攻め落とし、その夷王を朕が面前に生きたまま連れ帰る事にある。諸君等にとりて夷狄など鎧袖一触で勝利出来るだろうが、気を抜く事無くこれを達成して欲しい」


 此方を見つめる兵士の目には力強い意志──或いは意思──が宿っていた。喜ばしい傾向である。


「……諸君等が諦めぬ限り、正義は我等にあろう。今、朕が命ずる。東征軍は皆軍船へ乗り込み、東方へ向け進撃せよ」


 夫々の、肯定を示す返事が響き渡った後、彼等は決められた軍船に順調に乗船し、用意の出来た船から抜錨して行った。

 朕は全ての船の抜錨を見届け、勝利を確信しつつ長安への帰路についた。


 ……京職視点


 源闢五年、菊月廿一日。

 海岸に築かれた石塁は眼を見張る物がある。さしもの周兵も、これを超えるのは至難の技だろう。

 大小合わせて二百六艘の軍船も過不足なく用意され、乗船予定の兵達も一騎当千の精鋭と言えるまでに訓練を重ねた。

 新兵装も試験が行われ、実用に足る物が量産出来た。現在それらは、作戦通りに使えるよう小壺に入れており、それを小型船一艘につき十個搭載している。

 現在、漁師の協力を得て兵を一人乗せ、偵察を担ってもらっている。敵を見つけ次第、彼の持つ例の藁人形を以て報告を受けるのである。ところで、そろそろこの藁人形にも名前を付けねばなるまいか。


「うむ、〈遠話機〉などどうだろうか。中々良いと思うが」


「それを決めるのは貴方でも、ましてや私でもありませんよ、京職殿」


「しかし、これを作ったのは陰陽頭殿、貴方であろう」


「どう呼ぶかは陛下の御判断次第です。まあ、こんな事で宸襟を煩わせる訳にもいかんのは、とても良く分かるのですが……」


「それもそうだな。ほれ、早速掛かってきたぞ。此方京職、京職、応答せよ」


『此方偵察、よく聞こえます。海上に敵影有り。京職様から見て(みずのえ)方向(北北西微北)、到達予想時刻は約一辰刻(二時間)後』


「うむ、報告御苦労。合流まで其処で待機せよ。以上」


「ささ、出陣の下命を」


「無論よ。総員、配置に付け!」


 二百六の船に分乗せる千四百人は既に用意が済んでおり、自分と陰陽頭も大船の一つに乗船する。


「よし。全船抜錨、出航せよ!」


 防衛を担う我等は遂に陸を離れた。

 会敵予定は二刻(一時間)後、北方海域である。


 …………


 会敵予定海域。

 陰陽頭に遠見の術を使ってもらい、近距離の索敵を行なっていた。


「陰陽頭殿、敵は見えるか」


「ばっちり見えますよ。この分だと……半刻(十五分)もしないうちに接敵するやもしれませんね。方角はここから見て(いぬい)方向(北西)でしょうか」


「相分かった。総員、兵装用意!」


 密集していた小舟が散開し、搭載していた壺の中身を海に撒いていく。これぞ今回の新兵器、奥の手である。

 今の所は順調である。広範囲にそれを撒き、自分達はそれに掛からないよう一里半(約八百米)ほど離れる。後は敵が引っかかるのを待つだけだ。


「おお、おお、おお、来ましたよ来ましたよ、敵軍船のお出ましですよ」


「よし、総員退避、予定行動に移れ!」


 やって来たのは大小合わせ此方の何倍もあるような軍船群である。無論、これだけの数も想定済み。実行に移す。


「火矢を(つが)えよ!」


 乗船していた兵が各々弩の火矢を番え、発射の命令を今か今かと待っている。前にも同じような戦法を採用したと思うが、これが最適解だと考えているので問題は無い。司令が届かない時の為、自身でも鏑矢を番えておく。


「……全船、圏内入りしました。放つべきです」


「よし、火矢、放て!」


 指示を出すと同時に鏑矢を放つ。

 煌々と輝く火矢は、己が燃やすべき目標へ向かって過たず飛んで行った。

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