表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/106

第廿九話〜異世界外交〜

 建国から五年で大和はその体制を揺るぎないものとし、律令体制を確実にした。抑も、揺るがす様な存在が同地に存在しなかった事もあるが……

 源闢二年の晩秋頃には待望の皇子(みこ)も誕生し、数えで三歳少しである。聖武天皇直々に「(モトイ)」と諱を贈られ、数えで二歳の時に立太子された。現在は内裏の建物の一つを住まいとしている。

 蝦夷族長は源闢四年を以て正式に蝦夷守とされ、蝦夷支配がより強化された。隼人国と蝦夷国には国衙(こくが)を建設し、これを政庁と定めた。国衙には国分社と国学が併設され、日本語(やまとことば)の教育と地方役人の生産を担う。

 信楽宮から隼人国、蝦夷国両国衙への街道は綺麗に整備がなされ、規定に従って駅伝制が確立されている。

 租庸調に関して述べれば、養老期のそれに比べて幾らか軽くなり、場合によっては庸が免除される事もある。例えば兵役を負った良民の家は全面的にこれらを免れることと定められた。


 大和は以上の様に発展を遂げた。最早「我が国は永遠に繁栄する」と宣下しても差し支えないだろうと思われていた。


 信楽宮、内裏にて。

「陛下、蝦夷守より緊急の敷奏(ふそう)が御座います」


 聖武天皇にそう伝えるは太政大臣。聖武天皇自身は政務を執りつつこれを聞いている。


「ふむ、朕に知らせる事があるか。述べよ」


「はっ。〈周の使節〉を名乗る一団が上陸し、此方へ向かっていると。報告のあった時間と移動速度を考えると……後二刻(一時間)ほどで羅城門に到るかと思われます」


「なんと、直ぐではないか。まあ報告を受けてから時間がないのは国土の狭き故。急ぎ用意せよ」


「承りました。直ぐにでも」


 指示を出した聖武天皇は来客を迎えるに相応しい格好へ召替えると、大極殿へ急いで向かった。


 同日、未二刻(約午後一時半)。

 聖武天皇は大極殿の高御座に、使節はそのはるか手前にて立っている。


「東国の国王陛下、拝謁叶いまして大変嬉しく思います。我等はこの国より西の周より参りまして、主上より国書を預かっております」

 先に話し始めたるは周の使節、これに直接対応するはやはり太政大臣である。


「……国書、頂こう。陛下に奉ずる故、暫し待たれよ」


 太政大臣は国書を受け取ると、それを聖武天皇の下へ届けた。扱いはあまり丁寧とは言えないが。

 聖武天皇は受け取った国書を開き、内容に目を通した。


 ──朕は貴国の西方に居を構え、即位以来数え切れないほどの蕃国を徳化して来た。卿らもこれに従い、徳の光を浴びるべきである。今からであれば快く歓迎するが、後光ある者に刃を向けるのは無礼である事は知っていると信じている。良い返事を期待する──


「……何たる無礼。返事待て……」


 一通り目を通した聖武天皇は簡単に返事を書き付けると、太政大臣へ渡した。

 太政大臣は国書と指令書とを見比べると、多少不安げな顔をしつつもこれを受け取った。


「では……」


 太政大臣は告げられた事を使節に伝え、実行する為に彼等へ近付いていった。


 …………


 帰り道に、彼等が……訂正しよう、彼が持っていたのは、一尺半(約四十五糎)の桐箱であった。箱を持つ男の顔は酷く青ざめている。羅城門からの見送りも当然太政大臣である。


「では、それを貴方方の主とやらに送り届けるように。決して意を違える事のなき様……」


「き、貴様……こんな事、直ぐに戦争に……!」


「陛下の宣下故、仕方なし。疾く去れ」


 使節は大変な怒りを周囲に撒きつつ、帰路についた。


「さて、陛下。かの使節殿が帰国すれば、周は直ぐに出兵するでしょう。勿論、策はあるのですよね」


「でなければ、あんな事はせんよ。彼奴等が周王に報告してから兵が来るまで、恐らく六日は掛かろう。ぐずぐずしてはおれんぞ。今から言う物を用意して京職(みさとづかさ)を呼べ」


「承りました。直ちに取り掛かりましょう」



 源闢五年、弥生十四日。新たな戦の火蓋が切られようとしていた。

本話もお読み頂き有難う御座います。

評価感想その他諸々、お待ちしております。

評価感想は下方より、ブクマお気に入りは上方よりどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ