第廿八話〜簒奪者の回想〜
其処には何も無かった。
強いて言えば「虚無」で満たされていた。
目の前にある玉座に座っているのは一人の老人。
「汝、有罪。暴政故なり」
老人はそれだけを告げ、次第に我の意識が遠のいた。
何を間違えたのか。為政の不徹底か。即位の手段か。それとも、一切の根底か。
次第に意識がはっきりしていく。そろそろ眼が覚めるのだろう。
また見ることとなったこの夢もまた終わる。また見る事もあろうが、直ぐにまた、同じように覚めるだろう。
さて、そろそろだな……
──何者かの視点
「…………か。……陛下」
「……うむ、また寝ていたか」
「ええ、また、で御座います。何かお変わりは御座いませんか」
「ああ、特に無い。待て、今勅令を下す故……」
考えるふりをして辺りを見回す。あの夢を見た後の習慣である。これで自身がはっきりする。
見慣れた部屋。見慣れた敷物。見慣れた臣下。見慣れた衣服。見慣れた手先。
「……おお、そうだ、思い出した。件の文字が出来上がった故、これを下々に知らしめよ」
「承りました。では、直ぐにでも」
これで良い。これで良いのだ。
初めて来た時はどうしようかと思ったが、住み慣れた都があり、人材が呼び出せる術があり、土地と民も手に入れた。暦もそのまま使えた。
兵は殆ど居なかったが、過去の著名な将軍や軍師を呼び出す事に成功した為、法に従って徴兵を行った。
土地はどうやら生きて居た時よりも広いらしい。その為、従来は十道三五〇州だったのを二倍にして対応している。但し、戸籍によれば人口は生前と殆ど変わらないようである。
その他諸々の内政は、我が忠臣たる狄仁傑の助言を受けつつ、使い慣れた形に整えた。
東にある州の刺史から受けた報告によれば、この国の東にも別の国があるらしい。既に国書は送らせたので、あとは返事を待つのみである。
この異国の地……いや、本来は無いはずの流刑地で建国したこの国は既にあの時を上回った。帝位を阻害する輩も居ない今、朕は真に為政者である。
時は天授七年。朕は聖神皇帝、この周こそ我が国である。
本話から新たに章分けが為されます。
つまり、今回から新天地です。やったね
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