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第十一話〜東奔西走なんのその〜

本話から第二帖が始まります。

どうぞごゆるりとお楽しみ下さい。

 近江国を統合し、年号を源闢に変更してから月の満ち欠けは二周ほどして、暦の上では新年を迎えた。

 源闢二年、朝賀の儀に於いて正式に〈大和〉の国号が決定した。それに伴い、大和周辺の勢力圏も把握した。

 大和の東側には〈イゾゥ=クック〉と名乗る勢力がいる。現地語で〈山の多い土地〉を意味する言葉であるが、聖武天皇はその語感から蝦夷国(えぞのくに)と呼称することにした。

 西側には〈ヘヤトゥ=クック〉なる勢力が存在し、〈大きく伸びた土地〉を示す。西向きに大きな半島が二本突き出しており、大隅や薩摩辺りが近い形をしているらしいのでこれを隼人国(はやとのくに)と命名した。

 北に目を転ずれば其処にはアトラニア大陸が存在しており、此方側に大きな半島が伸びている。蝦夷国はこの半島に近いため、少なくない交流があると言う。その国は〈コラ=コルグ〉、向こうの言語で〈細長い土地〉を表す。これは高麗国(こうらいのくに)と呼ぶことにした。

 さらにその向こうにも国があるようだが、此処ではまだ関係は無いので割愛する。

 さて、聖武天皇は近江国の次に統合する所を定めていた。


「卿等は、高麗国に近く要害の地たる蝦夷国と拡大の足掛かりに丁度良い隼人国の何れが良いと思うか」


 答えたのは太政大臣となった道真である。


「隼人国が良いでしょう。高麗国が如何な国か未だ分からぬ以上、其処と国交を持つ蝦夷国は強大な可能性があります故、隼人国を以て力とすべきです」

「私もその意見に賛同します。他と国交を持つ国を攻め滅ぼした場合、もう一方が取る方法は間違いなく開戦でしょう。現状では勧められませぬ」


 この兵部卿の意見に各省の大輔等も頷く。意見は纏まった様である。


「では、隼人国攻略を目標としよう。して、如何に陥すか」


 次は兵部卿が口を開いた。


「我が国も常備軍が増強されております。国境付近まで軍三万を進めた後、国使を派遣して先ずは対話を試みましょう。上手くいかなければ報告あり次第進軍します」

「それで行こう。国使には誰が良いか」


 辺りがしんと静まり返る。誰もやりたがらないようだが、そんな気はしていた。聖武天皇が悩んだところで、手を挙げる者が一人いた。


「適任が居ないのであれば、不肖この安倍晴明が国使として御役目を果たしましょう」

「しかし卿はもう老人ぞ。負担が大きかろう」

「使役魔故に問題は有りませぬ。無論殺されれば死にはしますが、そんな柔な体では御座いませぬ。どうか御安心下さい」

「……分かった、卿の言葉を信じよう。異論のある者は居ないか」


 誰もが黙り、静かに頷く。これで隼人国攻略の全てが決定した。


「では、安倍正四位下陰陽頭晴明は国軍三万と使節団を率いて隼人国に国使として行け。これは勅命である」

「承りました」

「兵部卿よ。兵の用意はどれくらい掛かるか」

「彼等は式では無く生身の人間故、七日ほど頂ければ完璧に用意して見せます」

「では、決行は七日後とする。各人、確実に準備を済ませよ」

「「「「御意」」」」


 大和の新方針が決定した。彼等は其れを達する為に動き、聖武天皇はそれが達せられる様にその地盤を整える。近江国を始め領土各地から兵が集められる。近江国とは違い、軍事的背景を以て統合するのである。そして恐らく、その力は牙を剥くだろう。

 聖武天皇は国書を作成する為に内裏へと戻り、兵部卿は兵卒招聘の為に近江国国司、尚真へと式を送った。


 ……尚真視点


 中央で新たな指針が決定した。各地の兵を招聘して隣国を攻め落とすのだと言う。近くの高台に造った生前の居城である首里城(すいぐすく)、その唐破風(からふぁーふー)一階の下庫理(しちゃぐい)で政務中であった尚真はその報せを聞き、やるべき事を考えた。先ずは兵の招集と送致だが、これは問題無いだろうから指示を出しておく。兵糧米も一緒に送っておこう。後は何かあっただろうか。


「国司様、(おおやけ)の陰陽頭から文が来ております」

「彼は兵と食糧以外に何か欲しい物でもあるのだろうか。どれ、読んでみよう」

「はっ、此方になります」


 文を開いて読んでみる。


 〈どうか貴殿の保有する鼓笛隊をお貸し願いたい。ある目的に良く合致するのです〉


「何が書いてありましたか」

「陰陽頭殿は鼓笛隊を使いたいそうだ。兵と一緒に送ってやれ」

「承りました。しかし、何に使うのでしょう」

「なぁに、私も昔やった手法だろうよ」


 そう、彼はあの方法を取るのであろう。則ち、隼人国入国に際して鼓笛隊による演奏をしつつ行進しようと言うのである。相手に印象付けるには効果的な事この上なかろう。実際、尚真も彼が王であった頃に、日本へ使いを送る時に鼓笛隊の御座楽を流しつつ歩かせたものである。

 朝廷は果たして平和裏に隼人国を統べられるのだろうか、それとも交戦するだろうか。

 結果が気になるのを何とか収めながら彼は政務を続けていった。

お読み頂き有難う御座います。


ここで少し単語の解説を。

唐破風とは、首里城正殿の琉球王国に於ける呼び方です。下庫裏とはその正殿の一階、国王の執務空間を示します。

知っておくと、今後便利かもしれません。

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