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最終話〜勝満異世界流離奇譚〜

 其処は、何も無い空間であった。

 いや、厳密には「無」のみが存在する空間であり、今はこの空間に二人の人影があった。

 一人は冠を被り束帯を纏った、老紳士である。もう一人に目を向ければ、美しく清らかな何者かが後光を発しながら立って──訂正しよう、空中にいた。空中より男を見下ろす形で佇んでおり、如来の如き微笑を湛えていた。

 男はその人物を見ると表情を和らげ、静かに声を掛けた。


「皇祖神様、長きに亘り、お世話になり申した」


「よくぞ天命を全うしましたね。お疲れ様でした」


 言わずもがな、この男こそが聖武天皇であり、もう一人は天照大神である。


「皇祖神様、二つほどお尋ねしたい事がございます。先ずは、私が去った後の国についてです」


「良いでしょう。貴方が亡くなった後、皇位は問題無く貴方の息子に継がれました。貴方は都からほど近い(みささぎ)に埋葬され、新帝から〈聖源(しょうげん)天皇〉の諡号が贈られました。貴方の遺した国は、安泰ですよ」


「それを聞いて安心しました。して、二つ目ですが……」


「貴方があの世界へ送られた本当の理由、ですね。それもお教えしましょう」


 やはり神には敵わない。聖武天皇──いや、聖源天皇は皇祖神の話を聞くことにした。


 …………


 要約すると、こうである。

 本来聖武天皇の世界──以降は「甲」と表記──は無尽蔵に人間が増えるため、余剰な者をどうにかして処理する必要があった。その方法が、別の世界を作って其方に余剰人を送る方法である。増やした世界は、甲に存在する様々な神が自由に夫々を管理する手筈であった。

 ところが、管理する担当の手隙の神も少なくなり、近いうちに限界が訪れる事がはっきりしてきた。そのため、神々は新しい方式を採らざるを得なかった。


「それこそが、今回貴方を送った理由でもあります」


 その方法は、無管理の世界に人間を送り込み、管理者をその中から決定するというものである。今回はその第一弾として、試験的に行われたと言う。


「……と言うことは、私にあの世界を管理せよと、そう仰るのですか」


「理解が早くて助かります。やってくれますよね」


「……どうせ二度死んだ身です。やってやりましょう」



 世界を王化し恩恵を注いだ帝は、今ここに神の地位を手に入れた。


 そして、沙弥勝満の異世界流離(りゅうり)奇譚は終わりを告げた。この旅路は、どこか別の世界で与太話として読まれることだろう。












ここまでお読み頂き、誠に有難きことと存じます。作者の一条中納言従三位藤原朝臣公麿で御座います。

二年にも亘る本作も、この更新を以て遂に完結致しました。これだけの長きに亘ってやってこれたのは、読者の皆々様のお陰に他なりません。改めまして、深く御礼申し奉ります。

仔細は活動報告に譲るとして、今ここでは一度筆を置かせて頂きたく存じます。


またいつか、次の作品でお目にかかる機会を楽しみにしております。


   令和元年霜月中葉 私邸母屋にて記す

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