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91_従者と使者と全力遁走



 ネリー達が彼らを発見出来たのは、ある種の幸運に依る処が大きかった。



 『勇者の剣』には標準仕様として組み込まれている能動探知(ソナー)、そしてそれを始めとする各種探知魔法。使用に至る手順や手軽さ等々に差はあれど、根本的な仕組みや効果はさして変わらない。

 『生命力や魔力の分布を知覚する』、あるいは『脅威度の高い存在の方向を察知する』等が主な用途であるが、大筋として『魔力を拡散させる』ことによって周囲の状況を探るところは同じである。


 使用者の魔力を広く薄く放出し、それが揺らいだ地点――主に『魔力』が存在する地点を知覚することで、存在を認識する。




 その特性から……周囲一帯の魔力が搔き乱されている場所では。


 魔力により引き起こされた、天災規模の破壊の地点等では……




 それら探知魔法の精度は、著しく低下する。






 ………………………





 時は少々(さかのぼ)り……

 異形の大鷲が今まさに『破壊』を振り撒こうとしていた、一方その頃。




 ネリー達は歪んだ天井点検扉(ハッチ)に難儀し、ああでもないこうでもないと突破の手段を画策していた。先程から断続的に伝わってくる地響きともとれる異音に、愛すべき少女と(わか)たれたネリーは焦燥感を増すばかりであった。



 そんな最中(さなか)


 突如として響き始めた轟音……腹の底に響くような不吉な音は、次第に地響きを伴いながら騒々しさを増していった。



 「ネリーさま!!」 

 「ああもう畜生! 何だッてんだ!!」


 どうやって扉をぶち破ろうかと画策していた彼女であったが、アイネスの声に我に返る。苛立ち紛れに点検扉を殴りつけ、その痛みに顔を(しか)めるとともに……焦りで塗り潰されていた意識が微かに平静を取り戻す。

 周囲の音と振動と……悪寒。並々ならぬ焦燥感に急き立てられるように梯子を下る。

 背中にしがみつく人鳥の少女、その温もりと小さな膨らみに意識を割いて心を落ち着かせつつ……しかしながら背後の彼女が小さく震えているのに遅まきながら気が付いた。



 空翔ける魔物『人鳥ハルピュイア』、しかも魔法を操る彼女は……魔力の流れに敏感である。

 その彼女が震えている。――恐れている。

 精神(こころ)の深いところで繋がるシアから伝わってくるのは、まぎれもない恐怖と不安。


 最愛の半身がこんなにも怯えているのに……自分は何をしていたのだ。後悔は一瞬、これ以上この子を怖がらせるわけにはいかない。(シア)を安心させるためにもネリーは行動に移った。




 梯子を降りきる頃には、既に異様な振動さえもが加わり始めていた。今までの低く重い不審な音に加えて、突如として更に硬質な異音が遺跡内部に響き渡る。


 地響きのような音から、どこか金属質なものをも含む異音へ。



 それはまるで岩肌を削りながら……金属の(・・・)通路を(・・・)粉砕する(・・・・)ような(・・・)……






 「ちょ……!? 待っ……!! 待!!」

 「ぴゅい……ぴゅいー!! ぴゅいー!!」

 「ネリー様!! こちらへ!! 早く!!」



 怯え震えるシアをかかえ、身体強化を纏い床を駆けるネリー。

 ときをほぼ同じくして、頭上の点検扉ハッチ――アレほど開放に難儀していたソレが――けたたましい音を立てて弾け飛び、狭い縦穴を耳障りな音と共に落下する。

 そしてその後を追うのは金属製の通路さえも引き千切り削り潰す、どう見てもヤバい破壊の渦。


 引き伸ばされた感覚の中、視界の端でその絶望的な光景を捉えながら……逃れるために必死で駆ける。

 目指すのはすぐそこ、つい先ほどノートの目の前でぽっかりと開いた扉の向こう。恐らくは安全であろうが、深部は完全に未開拓、安全性も不確かなそこ(・・)へ……むを得ないとばかりに駆け込む一行。

 先行偵察用の木葉木菟ルーアを先頭に、アーロンソ以下獣人(セリアンスロープ)部隊は既に扉の奥――横穴へと退避している。


 「加速付与アトラ・マーダ在れ(イル)!! 嬢ちゃん走れ!!」

 「あああ恩に着るゥゥ!!」


 テオドラの補助魔法による後押しを得、崩落に急き立てられるように横穴へと飛び込む。とりあえずは安全が確保されている(筈の)比較的浅い層、扉からまっすぐ延びる通路を直進して最初の角を曲がる。


 「ネリーさま!」「ネリー殿! 此方こちらへ!」

 「ッ、済まねぇ!!」

 「多重設置防壁スタブ・ヴーンバリエ!! 在れ(イル)!!」


 シアを抱えたネリーがアイネスの隣、アンヘリノの陰に隠れるように身を屈めると同時。周囲に敷設された手のひら大の鉄杭――テオドラの魔力が込められた防壁触媒が共振し、七人が身を隠せる防護結界を形成する。

 その直後。ほんの数瞬前に駆け抜けた通路を暴風と共に瓦礫が飛び交い、金属製の壁や床……そしてテオドラの防壁に遠慮なく衝撃を与えていく。



 「きゃあああ!!」「む……」

 「あ……ッぶね! 逆かよ!?」


 爆発のような風圧が押し寄せたかと思えば、今度は『引き』の暴風。前後からの狂風に立て続けに煽られ踏鞴たたらを踏むアイネスをアンヘリノが支える。

 人の頭ほどの大きな破片が容易く吸い寄せられる程の負圧。壁となるアンヘリノが居なければアイネスはおろか……ネリーさえも、胸に抱くシアごと持って行かれていたかもしれない。






 瓦礫と暴風が押し寄せ、そして引き上げて暫し。ようやく静けさを取り戻した通路内を……恐る恐るといった面持ちで見回す一同。


 件の『破壊』そのものは、角を曲がった此処までは届かなかったようだ。

 一行を守るように身構える大男と魔法防壁の補助もあり……一行はなんとか事なきを得た。



 先程まで『これでもか』と鳴り響いていた周囲の轟音も、ぱったりと止んでいる。……とりあえずの危機は乗り越えたらしい。

 なかば茫然とした面持ちでへたり込むネリーであったが……感覚器官が集中し、微細な風の流れさえも感じ取るその耳に微かな違和感を覚えた。

 カラカラに乾いた口の中、唾液を呑み込み、おっかなびっくりと角の先――先ほど自分達が逃れて来た方へとひょっこり顔を出し……そして即座に凍りついた。




 その目に飛び込んできたのは


 地下通路では――山の地中に潜っている通路では、絶対にあり得ない光景。




 脇目も振らず一目散に逃げてきた通路。壁や天井のがらも造作もロクに見る余裕は無かったが、それでもこの光景は絶対に有り得ないと断言出来る。……そんな光景。






 地中深くである筈の通路は、今や眩い陽の光(・・・)で満たされ。


 重々しい黒鉄色に縁取られていた通路は、その途中からぷっつりと途切れ。





 旧文明の遺跡、金属の通路が……途中で無くなっていた。

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