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79_彼等と少女と遠路の誘い

 ――獣人族(セリアンスロープ)


 人族の頭部に他生物の外的特徴を備えた、ヒト種のうち一種族である。



 獣人族の中で更に細かく細分化され、部族ごとに外観や特徴に差があるものの……総じて『人族よりも最大馬力に劣り』『魔法の扱いは長耳族(エルフ)に後塵を拝し』『しかしながら人族以上の敏捷性と魔力、長耳族以上の筋力を併せ持つ』といった傾向が強い。


 人族と長耳族、各々の得意分野には敵わないながら……極めて高い運動能力に由来する体術と、取り回しの良さに重きを置いた外界作用系魔法。こと『器用さ』の点においては、他の二種族よりも優れていた。


 そして獣人族(セリアンスロープ)は――リーベルタ王国の隣国、大山脈の向こう――フェブル・アリア公国に多く暮らしている。




 アーロンソを筆頭とする獣人部隊五名――退室している者を含め六名は、全員がフェブル・アリアの民のようだった。

 アイナリー自体が旅人や行商人を多く擁しているだけに……別段可笑しな点は無い。


 だが。

 そこに外国の勇者に対しての要請が為されると……面倒臭くなってくる。



 そも『勇者』という肩書きは国によって保証された一種の名誉称号であり、その名を授けた国に所属しているのが大前提である。そのため通常であれば国家間の外交によって派遣要請と見返りの調整が為され、その後に国王から勇者へと布令される。


 つまり彼らの頼みは……国家間の取り決めを無視した、非正規のもの。それを承知しながらも尚、非正規の要請をしなければならない理由が……アーロンソ達にはあった。




 「……恐らく、リーベルタの方々も御存じのことと思います。フェブル・アリアにおいても観測された……『魔王の目醒め』なる波動からこちら、各所で魔物たちの異常行動が報告されております」

 「んい………んい……」

 「この街アイナリーから国境たる大山脈を挟んだ……我が国(フェブル・アリア)の高原都市『マルシュ』。………この間の山岳街道が、夥しい数の魔物により封鎖されております」

 「んい……? …ま、もの……?」

 「……はい」



 苦々しい表情で俯くアーロンソを始め、獣人部隊の面々。

 見れば彼らの殆どは背の高い男達だったが、一人だけ小さな女の子が居ることに……目敏(めざと)くもノートは気付いた。



 「この街アイナリーには、リーベルタの穀倉地帯をはじめとした各所より……多くの食糧が(つど)います。山を越える必要があったとはいえ、マルシュの民にとってアイナリーより運ばれる食糧は……無くてはならないものでした」


 声のトーンを落として説明を続けるアーロンソの声は、ノートの耳に入ったかと思えば反対側からそっくりそのまま抜け出ていた。

 現在のノートの興味はただ一点。元気なさげにしょんぼりと俯く、――うなじのあたりで一つに括った深みのある赤色の頭髪と、ぺたんと伏せられた三角形の耳を持った……メアと同じくらいの背丈の――少女。


 ………率直に言って、とてもかわいらしい。



 「憎き魔物ども……『翔栗鼠(ラタトスク)』の群れ。奴等によって隊商の荷馬車は(ことごと)く全滅。人的被害も少なからず上がっております。……商人達の被害はもとより……このままではフェブル・アリアの食料事情も、遠からず脅かされるでしょう」

 「んえ……えっと…………たい、へん」

 「……つきましては」





 語気を強めたアーロンソの言葉と共に、獣人部隊の面々が顔を上げた。

 ノートが注視していた彼女、利発そうでありながらも唇をきゅっと引き締めた少女も顔を上げ……そして目が合う。


 自分達の力不足を悔いているのか、一文字に結ばれた口許は僅かに波打ち、柔らかそうな頬は羞恥ではない感情によって赤く染まっている。幼さを残しつつも責任感の強そうな……潤みながらも強い意思を秘めた瞳に見据えられ………




 「わたった。やる」

 「何卒勇者様に、翔栗鼠(ラタトスク)駆除の力添……えっ?」

 「ゆうしゃ。まもの、くじょ。やる」

 


 かわいい女の子が好きなノートは実にあっさりと……

 非公式な国家間派遣に、首を縦に振った。






 そして当然であるが、

 ノートは話の内容をほとんど理解していなかった。






 ………………






 「……だから、やま。いく」

 「………待ってお嬢。……よくわかんねぇ」

 「ノートの話は……情報が少なすぎる……」



 フェブル・アリア商館での会談の後。

 前金代わりに渡された、首飾りのような金属細工……公国の客人である証とされる『貴賓手形』を首から下げて服の中へ仕舞い、また翌日改めて来ることを告げて(窓から)商館を後にしたノート。

 『思ったよりもちょっと時間がかかってしまった』などと思いながら宿の扉を開けると……客で埋め尽くされた席と、顔を真っ赤に染めて半泣きになりながら衣装そのまま給仕として働く……少年幼女給(ロリメイド)、メアの姿があった。


 そしてノートも宿の女性従業員にあっさりと捕縛され、馴れない肉体奉仕を強いられていたところに………一仕事終えたヴァルター達が帰還したのだった。




 そうして主戦力が戻ってきたところで、ノートよりなんの脈絡もなく切り出された『お仕事』『遠く』『山へいく』という……決定事項。


 突拍子もない申し出に、当然のように困惑する保護者二名だった。




 「んい………『へぷる、まいあ』? さんかく、かいどう。いく」

 「待って」

 「嘘だろ」



 重ねて告げられた隣国の名に、その目的地が聞き間違いであると祈らざるを得ない……保護者二名だった。

重要な案件は勝手に一人で判断してはいけません!!!!

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