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249_荒野と地下と戦後処理



 パトローネ山近郊での『魔王軍』襲撃を、辛くも退けた『勇者』ヴァルター。

 彼は現在、激戦の痕も色濃い荒野の一角……土人形ゴーレムが大爆発を起こした爆心地の跡にて、えも知れぬ緊張感に苛まれていた。


 あの巨大な土人形ゴーレム撃破の功労者にして負傷者であるらしいニドを、拠点に緊急搬送するにあたり……ヴァルターは自分以外の少女達に飛竜メルの背を譲り、自身は『周囲を警戒しながら徒歩で戻る』と別行動を取っていた。

 往路と同様、一名が飛竜メルの脚にしがみついていれば一度で輸送できるのだろうが……テルスならびにネリー曰く『なるべく早く安静にしてやるべき』とのことであり、ならば脚に荷物をぶら提げていてはメルにとっても飛び辛いだろう。


 拠点まではそれなりに距離があるとはいえ、身体強化の恩恵に与れるヴァルターにとっては走破できない距離でもない。

 周囲に危険が無いかを確認しながら日没までには戻る、というていで離脱したため……今現在ヴァルターの周囲には、彼の行動班員パーティーメンバーは誰一人として同行者は居ない。




 『……ほう。ちゃーんと()()()()を守ったか。褒めてやろう』


 「…………()()の間違いだろうが」



 強張った表情で振り向く『勇者』ヴァルター、その視線がより一層の剣呑さを帯びる。

 擂鉢状の陥没穴クレーターの底にて巨大な足を一歩一歩踏み出し、砂埃まみれの漆黒の巨人『魔王セダ』が悠然と現れる。

 そのすぐ後背には、かつてパトローネ山地下遺構にて行動を共にした……ノートが自身の『弟』と主張する魔族、トーゴことヴェズルフエルニエが粛々とはべり、恐らくはこの周囲一帯に『魔王』一派の存在を秘匿する魔法を展開しているのだろう。



 「くも逃げずに現れた。……弱者が」


 『……フン。相も変わらずの間抜けヅラだ』


 「……っ、……これはこれは。盛大なお出迎えで」



 魔王に引き続き……目付きの鋭い壮年の男性と、全身甲冑に身を包んだ小柄な人影が姿を表す。

 トーゴを除いた全員に大なり小なり戦闘の跡が見られるが……奴ら全員に襲われれば勝ち目は無いということくらいは、ヴァルターどころか戦に不馴れな素人でも理解出来ただろう。



 漆黒の巨躯を誇る魔王と、その従僕が三柱。

 今代の『勇者』であるヴァルターが、いずれは下さねばならぬ相手である。




 「……で? わざわざ魔王サマご一行が何のご用で? 生意気な『勇者』でも早々に排除しておこうってか?」


 『強がるな。足が震えているぞ。冗談だが』


 「……ッ!!」


 『っくははは! 無様ブザマだなァ『勇者』とも在ろう者が!』


 「喧しい。口を挟むな出来損ない」


 『あ? 指図するなよ鳥頭が』


 「貴様こそ場をわきまえろ奴隷人形」


 『一々(いちいち)騒ぐな馬鹿共が。()()()が必要か?』


 『…………』「…………」



 軽口を叩いていた配下を一喝して黙らせ、魔王はやれやれと肩を竦めて見せる。

 敵の幹部連中に囲まれた状況、傍目にみればどう考えても絶望的な状況下であったが……この場で戦闘が勃発するわけでは無いということくらいは、ヴァルター自身にもある程度想像がついていた。


 あの『魔王』は……こんな騙し討ちのような勝ち方を良しとする存在では無い。



 『まァそうだな。()()()に無駄な負担を掛けるも非生産的だ。勿体振らずに始めるか』


 「…………」「我が名……」


 『他でもない。あの『迷宮ダンジョン』の処遇に関して、な。貴様ら人族ヒト共に何処まで()()するか、予め伝えて措こうと思うてな』


 「な…………」



 壮年の男の睨むような視線と、トーゴの悲壮な表情には目もくれず……魔王はあっけらかんと招集の理由を言ってのける。

 あのパトローネ山の地下構造を改編して出現させるのだという『迷宮ダンジョン』……その処遇。

 ()()()()()()()()()という口振りから推し測るに……まさかとは思うが、あの『迷宮ダンジョン』内の調査発掘(という名目の攻略……いわゆる略奪)それを許可するとでも言うつもりなのだろうか。



 『そうだ。内部の魔物もその素材も、時折出土する()()()の遺物も、盗掘者共の好きにするが良い』


 「な……!? だ、だから読心」


 『だから。貴様の顔色が解り易いだけだ』


 「…………」



 迷宮ダンジョンによってもたらされる様々な利益……魔物を狩ることにより手に入る各種素材や、魔道具の動力源や非常用の魔力回復手段として有用な魔核、更には時折出土する魔道具そのものに至るまで。それらの権益を人族ヒト共の盗掘者に委ねることを、魔王はあっさりと了承して見せる。


 相変わらず何を考えているのか解らない。考えるだけ無駄だというのは理解しているつもりだが、だからといって不安が払拭できるはずもない。

 奴ら魔族の橋頭堡であるという迷宮ダンジョン、そこを好き勝手に荒らされることに対して……他ならぬ魔族の長は、思うところは無いというのだろうか。



 『無いぞ。ことあの場に限って言えばな』


 「待て待て待て、マジでか? そんなに解り易いか俺」


 『気にするな。確かに常人よりかは顔に出易いようだが……俺はそもそも洞察力が頭抜けているからな』


 「…………さようで」


 『まぁ貴様の顔は今は()()()()()()。……繰り返すが、あの迷宮ダンジョンに限って言えば本質は()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()迷宮ダンジョンであり、その炎の怪鳥は他ならぬ勇者によって滅され、今となってはヌシ不在の……ただの美味しい遺構に過ぎぬ。()()()()()()だ』


 「……()()()()()()か」




 そもそも……思い込みと正義感の強い()()()()テルスが、あの山の地下遺構に興味を持ってしまったのが運の尽きであった。

 彼女の追求をかわすため、掘り返されても痛くない環境にあの場を整えるための突貫工事が、今回の『魔王』強襲の経緯である。


 先日拠点を襲撃した『不死鳥』フェネクスとその眷族ベンヌ……奴らの手懸かりを求めてあの山の地下へと足を踏み入れたことは、ライアの開発拠点の人々を始め多くの人々の知るところだろう。

 その際に迷宮ダンジョンボスが討伐された()()()()()にしておき、あの遺構は()()()()()()だと――今やボスの居ない迷宮ダンジョンなのだと――そういう情報を意図的に拡散する。


 物理的に繋がりを断たれた――しかしながら()()()()に位置している――地底の『管制室』の存在を隠すため。

 ()()を占拠し、ただ一人()()に座し、今なお地熱より生み出され続け長年溜め込まれた膨大な魔力、その出力先を制御コントロールしている、あの迷宮ダンジョン()()()()……壱号橋頭堡(ロッジメント・ワン)土人形ゴーレム』の存在を、秘匿し続けるため。

 土人形ゴーレムならびに彼女の制御する『流量管理設備』が撃破されなければ、ただのガワである迷宮ダンジョン部分をどれだけ荒らされようと、全くもって痛くも痒くもないのだ。



 魔王にとっては、魔王城の動力源となり得る膨大な魔力を継続的に得ることが出来。


 ヴァルター達人族(ヒト)にとっては、人知れず迫っていた山体の大爆発を防ぐことが出来る。



 『ソチラにとっても……悪い話では無いと思うが?』


 「…………飲むしか無いよな。さんざん譲歩してくれてんだろ?」


 『当然であろうな。貴様ら人族ヒトはあまりにも弱い』


 「…………返す言葉も無いな」



 たった四柱の魔族のみであろうとも、本気で侵攻を企てられれば人族ヒトに勝ち目は無いだろう。長年に渡り平和を享受し続けていた人々は()()()()()()()……それでは()()()ことなど出来やしない。

 魅惑的な()をちらつかせ、有力な人族ヒトを多数呼び寄せ、魔物を狩らせて経験を積ませ、少しでも実力を高めさせる。

 ともすると人族ヒトのためであると言えそうだが……その裏には『殺すために育てる』という狂気じみた動機が存在することを、ヴァルターは知っていた。



 『良いな『勇者』よ。貴様は()()()()()()()な? ……適切に動けよ。俺はちゃんと説明したぞ』


 「……あぁ。解った。…………感謝する」


 『ククク……魔王に感謝する『勇者』、か。笑わせる』


 「笑うなよ畜生……」



 『勇者』と『魔王』、互いが互いをいずれ滅ぼさねばならぬ間柄ながら……決して他の人族ヒトに気取られる訳にはいかないという前提こそあれど、両者の間には何とも複雑な関係が芽生え始めていた。


 いつかは殺し、あるいは殺される相手であることは確かだろうが……そのときが来るまでは、そこまで理不尽な存在ではないのかもしれない。

 手慰みに人族ヒトを殺めるわけでも、いたずらに魔物魔獣を煽動するわけでも、疫病や飢饉をばら蒔くわけでもない。機が熟すのを待ち、地盤を整えるという活動方針そのものは、非常に理解し易いものだった。



 『まぁそういう事由ワケだ。の施設で得た動力を糧に、俺はしばら()()に没頭する。余程の事態コトでも無ければ、貴様らの邪魔立てはせぬ。……貴重な『凪』の時間だ。悔いの残らぬよう、有意義に使うが良い』


 「……本っ当、強者の余裕って感じだな」


 『クハハハハ! 褒めるな褒めるな。……貴様は貴様の仕事を果たせ。俺の手を煩わせるなよ』


 「……解ってる」




 話は終わりだ、とばかりに低く重い作動音を響かせ、『魔王』は重力を無視して浮かび上がる。

 小柄な全身甲冑の人物は浮かび上がる『魔王』へ右腕を向けると、射出された金属線ワイヤによってその身体が吊り上げられる。

 背後に控えていた壮年の男性魔族の全身を緻密な魔法陣が包み込み、その姿を巨大な猛禽のものへと変貌させていく。

 魔法の光の消失と共に姿を現したその巨体へとトーゴが恭しくよじ登り、一翼と一人は羽ばたきの音と共に舞い上がる。




 『あぁ、そう。気紛きまぐついでだ、好きに使え。……あの迷宮ダンジョン土産みやげとでも言い張るが良い。宣伝に()()()()()だろう』


 「え、ちょ、な、何何何何?!」


 『『土人形ゴーレム』の()……まぁ量産型だがな。警備や護衛には使えよう。起動方法は自分で調べろ。……まぁあの考古学者(ネズミ)ならば知っているのではないか?』


 「……監視の目、ってことか」


 『ククク…………利口になったな? まァ貴様が使おうが誰かに押し付けようが構わぬ。好きに使え』


 「…………一応、ありがとうって言っとくわ」



 手のひら大の黄褐色結晶体を投げ落とし、ヴァルターの返答に満足げな表情を纏わせながら……置き土産を残した『魔王』は――全身甲冑をぶら下げたまま――飛び去っていった。

 巨大な猛禽とその眷族の青年も眼下の『勇者』を一瞥すると、魔王を追従するように去っていき……


 それからたっぷり、四柱が充分に距離を取ったことを確認してから……ヴァルターはようやく、大きく息を吐いて座り込んだ。



 

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[一言] ヴァルターの胃大丈夫?穴開いてない?
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