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246_超大型土人形と路傍の石



 大小様々な『大地』の破片が渦巻く、非常識極まりない『大地の嵐』を身に纏い……これまた非常識な巨体を誇る土人形ゴーレムが、一歩一歩と前進する。

 下は高密度に巻き上がり視界を閉ざす砂埃から、上は直撃すれば命の危険を伴うほどの岩石まで。十や百では収まらない『大地』の破片が、次々と唸りを上げて旋回する。


 生身での突入は、考えるまでもなく自殺行為。

 表層硬化リジットないしは身体全強化リィンフォース等の防御魔法で身を固めていようとも……高質量体が衝突した際の衝撃までは、そう易々と殺し切れない。


 暴風や砂塵ならばまだしも……常識的に考えて、自分よりも重い物体を受け止められる筈が無い。



 「…………どうすりゃ良いってのよ」


 「んい……んひぃ…………んんん、まーふあ(形を)ふぉーあ(成せ)! 『りひと(光矢)』、いる(在れ)!」



 あの『嵐』に踏み込まずに攻撃できる、唯一持ち合わせた攻撃手段――『剣』による光魔法『光矢リヒト』――それを砂埃色の壁の向こうに居る敵目掛けて射掛けるが……手応えは極めて軽い。

 光そのものの速さで飛翔する破壊の魔法であったが、飛び交う岩石と立ち込める砂埃によってその光はことごとく遮られる。大幅に威力を減じたそれが辛くも土人形ゴーレムに突き立つも、やはり一撃で消滅せしめることは叶わない。

 巨体を構成する土砂の一部を吹き飛ばすも、そこまで。周囲に際限無く飛び交う()()を用いてたちまちのうちに修繕し、何事もなかったかのように進軍を続ける。



 百戦錬磨の考古学者も、白兵戦では向かうところ敵無しの真白い少女も、さすがにこの光景を前に手をこまねく他無かった。


 こちらの攻撃の有効圏内に入るためには、巨岩の飛び交う嵐の中へと踏み込まざるを得ない。

 しかしながら……絶え間なく飛来する質量弾を掻い潜りながら嵐の中を突破し、更に馬鹿みたいに巨大かつ自己修繕能力さえ備える土人形ゴーレムを機能停止に追い込むなど、それは決して容易いことではない。



 分厚い防壁である『大地の嵐』と、堅牢強固な『土人形ゴーレム』本体。その双方を相手取るにあたって、可能性が残っているとすれば…………遠距離からの超高火力魔法攻撃、『嵐』の守りごと本体を狙うことだろうか。





 「済まぬ! 待たせたの!」


 「!! んゆうう……にとー!!」


 「お嬢ちゃん! メル!」



 攻めあぐねる少女二人の下へ、渡りに船とばかりに心強い二人(一人と一翼)が戦線に加わる。

 巨大な猛禽の姿を駆る高位魔族……制空権を抑えていた魔王の従僕と相対していたはずの、少女ニドと飛竜メリジューヌ。強大極まりない敵を相手取っていた彼女等であったが、細かな擦り傷や汚れこそあれど五体満足の様子であった。


 土人形ゴーレムの足止めを試みていた……『決め手』に欠けていた二人に、その不足していた要素がここへきてようやく補われる。

 先の二人に欠けていた『遠距離高火力』……竜種の持つ最大火力、竜砲ブレスを全面に押し出し、攻略作戦が練り上げられていく。

 悠々と歩を進める『大地の嵐』を前に、知恵の回るニドとテルスの方針が一致を見せる。




 「…………行けると思うか? 学者殿」


 「あなたの負担が一番大きいじゃないの……無茶するわ」


 「呵々(かか)! 年寄りの務めよ。……良いな御前ごぜん。今度は仕損じるで無いぞ」


 「…………ん。にとー……きをつけ、て」


 「任せよ。……其方も頼むぞ、メルよ」


 「……あなたたち随分打ち解けたじゃない。少し妬けるわね!」



 口ではなんのかんの言いながらも、相棒との意思疎通で負けるつもりは毛頭無い。賭けじみた攻略作戦に臨むべく、テルスは己の半身へと指示を出す。

 意識の奥底、魂と呼ぶべき部分で繋がった竜種の視覚と頭脳を借り受け、土砂嵐の向こうに居るハズの敵を捕捉する。

 生粋の狩人にして、生態系の上位に君臨する空の覇者……類稀なる能力を誇る、その双つの眼。それによるとどうやら、渦巻く魔力の奔流である『大地の嵐』を隠れ蓑に、何やら良からぬことを企んでいる様子。



 「ちょっ……冗談でしょヤバいわよアレ!! 『戦略級』魔法でも構えてるっての!?」


 「焦るで無いぞ御前ごぜん。……行けるの?」


 「んい。……がんばる、ます」


 「と云う訳だ。音頭を頼む、学者殿」


 「お嬢ちゃんら肝が据わり過ぎでしょ……!」




 大規模攻撃魔法の準備段階と思しき敵の行動に、一同はもはや猶予は無いと判断を下した。朧気おぼろげに固まりつつあった作戦を強行すべく、四人(三人と一翼)は作戦を開始する。



 単独での攻撃は『効果無し』であると見切りをつけたテルスは、己の半身である飛竜メリジューヌへと保有魔力の全てを注ぎ込む。

 魔法に明るい長命種エルフの潤沢な魔力を得、騎手と思考を同期させる眷族は、要となる攻撃の準備に移る。

 鋭い相貌で標的を――濃い砂嵐の向こうに佇む、四肢を持ち身動ぐ岩山を――しっかりと見据え、がぱりと開いた口腔内へ全ての魔力を導く回路を形作る。

 狙いを定め、魔砲身を展開し、極限まで魔力を圧縮し、強靭な四肢を大地に打ち込んで身を固定する。


 そのすぐ傍ら。白と黒の少女二人も、こちらも作戦に従って行動を起こす。

 白の少女は直剣を両手で構え、お隣の飛竜同様その切っ先を標的へと向ける。より精密に狙いを付けるべく、まるで弓矢でも引き絞るかのように峰と目線をめいっぱい近付け、刀身の中程に左手を添えて固定する。

 先程よりも太く、ひときわ濃く……強大な『破壊』の力を発揮するために魔道具(愛剣)へと力を注ぎ、少女の唇から洩れる呪言に従い眩い魔力が着々と高まっていく。


 対する黒い少女も同様に……こちらは単純に体内の魔力を惜し気もなく巡らせていく。

 準備は入念に、呪言の一切を省略せずに、持ち得る限りで最高の身体強化魔法をその身に纏う。

 己の技量の全てを注ぎ、『速度』に『速度』を加え、更にそこへ『速度』を加える。目指すのは文字通り()()()()()()程の速さであり……それはさすがに非現実であると理解しながらも、それを目指して最善を尽くすまで。



 「カウント、さん! にぃ! いち!」



 四者四様に同時攻撃の準備が整えられ……タイミングを図ったテルスの号令が、ついに下される。



 「てェ!!」

 「りひと(光矢)まりす(特大)!!」

 「奮エ(多重発現)!!」




 まずは第一波。二人(一人と一翼)分の全魔力が籠められた特大の竜砲ブレスが、飛竜メリジューヌの口腔内魔砲身より一息に吐き出される。

 魔力の扱いに秀でた二人(一人と一翼)が放つ攻性魔力の塊は、大質量の岩石や分厚い砂塵の壁を纏めてブチき突き進む。


 それの行き着く先は……分厚い鎧を纏った、巨大な土人形ゴーレム

 ほんの一瞬で障害物を蹴散らした竜砲ブレスは、その破壊力を減衰させながらも土人形ゴーレム本体に着弾。

 右前肢の付け根付近を盛大に吹き飛ばし、歩行脚の一つを欠損した土人形ゴーレムの歩みが止まる。



 続けざまの第二波――第一波よりほんの僅か後に放たれた、投射型光魔()――それは特大の竜砲ブレスが抉じ開けた『大地の嵐』の風穴を竜砲ブレスに続いて突き進み、先程の一矢とは異なりなんら減衰されることなく土人形ゴーレム本体へと突き刺さる。


 着弾のタイミングは、竜砲ブレスとほぼ同時。名実ともに『光』に近しい『光矢リヒト』はその弾速もまた凄まじく、先に放たれた竜砲ブレスに追い付き追い越さんばかりの勢いで突き立ち、標的の脇腹を易々と貫通した。

 巨大な胴体のほぼ中央部……四肢を持つ身体を構成する上で重要となる部位を貫かれ、さすがに堪えたのだろうか。ほんの一瞬のことであったが、苦痛に仰け反り身を捻ろうとする気配を伺わせる。



 ここへきて初めて弱気な挙動を見せようとする土人形ゴーレムへと、トドメとなる第三波攻撃が迫る。

 三重に付与された速度強化の魔法を纏った黒の少女が、ほんの一瞬とはいえ全ての邪魔(モノ)が取り払われた一本道を最高速度で駆け抜ける。

 とはいえ……貫いた壁は所詮しょせん『嵐』の一部分に過ぎず、少女が駆け抜けている間にも()()()は崩れ始め……渦の流れに沿って無数の巨岩と土砂が迫り来る。


 侵攻ルートの崩壊に急き立てられながらも、さすがは千幾百年も体捌きを鍛え続けただけのことは有るのだろう。人族ヒトの域を逸脱した速力を発揮した少女は、幸いにして無事に終着地点まで到達してのける。


 右の前肢を吹き飛ばされ、脇腹から逆側に風穴を開けられ、苦痛に身を捩らんとする巨大な土人形ゴーレム……その崩れかけの胴体部へ、駄目押しの一撃を叩き込む。




 立て続けに叩き込まれた、()()様の渾身の一撃。

 損傷を修復する間も無い怒濤の畳み掛けに対処しきれず、超大型土人形(ゴーレム)といえどもついに限界が訪れる。



 土人形ゴーレム内部に蓄えられし固められていた膨大な魔力が荒れ狂い、崩された一点から我先にと外部へ逃げ出さんと迸り……




 巨大な『歩く岩山』が……内から爆ぜた。



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