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212_地底と遺構と幼い護り手



 パトローネ活火山――であると思われていた、おそらくはただの山――その深部に広がる洞窟迷宮ダンジョンに、突如として姿を現したヒト合成魔族(キマイラ)、ヴェズルフエルニエ。


 …………もとい、トーゴ。




 「だーから。この先の奥に何があるってんだよ? あんたが『敵じゃ無ぇ』ってんならソコんトコ教えてくれたって良いじゃねーか」


 「断る。当号における現行程は、あくまでも貴様達と利害の一致があったからに過ぎない。同行は断じて一時的なものであり、貴様達と馴れ合う心算つもりは毛頭無い」


 「とーご。とーご。わかり、やすく」


 「…………仲間では無い。だから、教えない」


 「んへえー」



 突然現れた彼は、曰く『この山の奥底に封じられているモノ』に用があるとのことであり……『不死鳥フェネクス』の手掛かりを求め深部へと向かわんとするヴァルター達に対し、同行を申し出たのだった。



 当初こそ彼自身の得体の知れなさ、またその潜在能力の高さを感じ取り警戒もあらわに距離を取ったヴァルター達だが……どうやらノートの知己であったらしいこと、またそのノートに絡まれる一方で邪険に扱えない――いわば『尻に敷かれている』とでも言えそうな――微笑ましくもあるその様子から……ものの数分で『あっ、こいつ実はそんな怖く無いな』との印象を抱かせてしまっていた。


 当然トーゴ自身はそんなつもりは全く無く、彼自身は未だに威厳たっぷりに振る舞おうとしている様子である。

 似たように意地っ張りで見栄っ張りな幼子の扱いに手慣れていたヴァルター達は、トーゴ本人には気取られること無くいい感じに自尊心を満足させながらも、勝手知ったる様で微笑ましげに取り扱って見せた。



 一対の視線は……相変わらず刺すような鋭さでトーゴを凝視し続けていた。






………………………………………………………





 「なぁトーゴ、結局ココって火山じゃないんだよな?」


 「その名で呼ぶな。…………まぁ……以前がどうだったかは知らぬが、定義上の『火山』には当て嵌まらない」


 「じゃあこの()は……一体……」


 「……フン。教える必要が何処に有る」



 ヴェズ……トーゴとの合流以降、粛々と歩みを進めるヴァルター達。道中性懲りもなく襲い来る()()()魔物を蹴散らしながら進み、更に更に地中深くへと潜っていく。


 ちなみに魔物の対処に当たっていたのはヴァルターとノートの二名。なんでもアーシェは『備えが必要』とのことで戦闘行為を控え始め、一方で新たな同行者に協力を求めたところ『当号は指揮運用および技術支援型である』とかなんとか言い出し、早い話が『戦闘は不得手だから』と協力を拒否して見せる。

 かと思いきや曲がりくねった地底の洞窟を勝手知ったる様子で先導し、一団の進行ペース向上に大いに貢献してのけた。



 協力的なのか非協力的なのか判断に悩む魔族を伴い、どんどん深度が増すにつれて。

 その深度に比例するかのように、いつしか周囲の温度はどんどん上がり……火山ではない筈の()()()()の洞窟とはもはや思えぬ程に、周囲の空間そのものが高温となっていった。


 先程まではことあるごとにちょっかいを掛けてきた魔物たちも、既に出没しなくなっている。

 それも当然のことだろう。ネリーの耐熱皮膜によって体感気温自体は通常レベルまで下げられているが……ソレが無ければ人族ヒトが活動出来るような温度では無い。

 なるほど……トーゴはコレを狙っていたのか。賢いというかなんというか。



 こうして……僅かな間に高温環境へと様変わりしてしまった洞窟内を更に下ること、しばし。



 違和感でしかない()()は……洞窟の行き止まり最深部に、突如として姿を表した。




 「…………嘘だろ」

 「何だよ……コレ……」

 「ぴゅーぃ……?」



 岩の隙間の細い通路と、削顎蚯蚓ジャイアントワームの地下坑と、幾度と無く枝分かれした地下洞窟と、一気に周辺温度が上がった深層の……その最深部。


 トーゴに導かれるがままに辿り着いた、洞窟の行き着く先は……




 「……とび、ら?」


 「肯定する。厳密には接近感応式魔動隔壁である。……動力バイパスの生存を確認。稼働状態と推測出来る」


 「………………は?」




 深い深い地の底に、突如として姿を表した人工物……トーゴを除いた誰もが知る由も無かった、迷宮最深部の自動隔壁。


 『勇者の剣』による探知魔法を用いたのだろう、ヴァルターの顔があからさまに引きつる。

 その扉の向こう側には、未だ目覚める様子の無い()が――エネクの火焔によって焼き尽くされ、今や再誕を控える『不死鳥』が――身じろぎせずに待ち受けていた。






 ………………………………





 立て続けに振るわれる剣先を器用に避け、ときに器用に打ち払いながら、お返しとばかりに太い腹が指向される。

 嫌な予感を感じたのだろうか、剣盾を握る男が攻め手を緩め防御の構えを取ると同時。八本脚で姿勢を安定させた腹の先端・糸腺より、幾条かの粘糸が一度に放たれる。



 「どぅわ!? え、ちょ、ちょ!?」


 「き。き」



 放たれた糸の幾らかは盾によって防がれたものの……腕や脚に粘糸を浴びてしまった男が、人外の馬力を秘めた八本脚で引かれるがままに体制を崩す。

 引き寄せられた哀れな獲物に止めを刺すべく、両手に握った槍を腰だめに構え……



 「そこまでだの」


 「き」


 「どああああっとっとっと……」



 ニドの号令により訓練用の槍を手放し、飛んできた男を両の腕で抱き止めると……子蜘蛛アルケニーの少女は受け止めた男を丁寧に立たせ、得意気に小さな胸を張る。

 垂れ目気味の(複眼)は弓なりに。触覚をふょんふょんと揺らし喜びを表現する、生まれたばかりの小さな魔族。


 勇者の従者(ネリー)より授かった名前は……ウルン。




 「いやー参った参った。糸もそうだけどよ、体捌きもありえねぇって。やっぱ安定感が違ぇのか」


 「確かに……ヒトには有り得ぬ動きだったの。二本脚であの挙動は無理であろ」


 「き。き」



 訓練用の木剣を収めながら、模擬戦を引き受けてくれた男が苦笑する。(上半身部分の)見てくれは幼い女の子相手に手玉に取られたことは事実だろうが……その顔を彩るのはどちらかと言えば、心強い護衛仲間が増えたことに対する安堵の表情だろう。



 普通の人族ヒトであれば倒れていたであろう程に、後ろに横にと上半身をぐりんぐりんひねられる。二本脚の直立姿勢では保てない体勢であっても、重心が低く安定した八本脚の下半身で問題なく支えてのける。

 八本の脚を駆使して滑るように走り、種族特権とも言える粘糸で敵対対象の行動を阻害し、上半身両手に握る武器で着実に攻撃を放ってくる。


 敵にすれば厄介極まり無かろうが……味方となるならば心強いことこの上無い。



 「もう一人は御仕事中だからの。仕上がったらまた相手を頼むぞ」


 「了解だ。お手柔らかに頼む。……あぁそうだ。『枕』、ありがとうな」


 「呵々(かか)! ほんの御礼よ。の子らには色々と経験を積ませねばなるまいて……な」



 メアおよびキーの手によって生産される特性安眠枕……アーシェの不在により滞りが生じるかと思われたその生産ラインであったが、新たなる子蜘蛛アルケニーの参戦によりその懸念は払拭された。

 二体の子蜘蛛アルケニーウルンとシェイニは当面の間、戦闘技能訓練と蜘蛛糸真綿の生産を担当する算段となっている。それぞれの業務を交互にローテーションを組み、二体の熟練度を並行して上げていく体制である。


 お陰で然程の遅延も無く『枕』の生産が進められ、拠点内での流通数もそれなりの数になっていた。やはり夢魔メア謹製の呪力付与エンチャントは強力らしく、使用者からは喜びのお便り(お礼)が多く寄せられている。



 「あんなに良い報酬貰っちまったら断れねぇしな! 非番のときはなるべく付き合うからよ、いつでも声掛けてくれ」


 「恩に着る。……ワレひとりでは限界があるでな……」



 間合いの測り方や立ち回りなど『基本的なこと』ならば教えることが出来るが、やはり『武器の使い方』や『武器を持つ相手との模擬戦』ともなると他者の力を借りなければならない。

 自前で訓練を施してやれぬ以上やむを得ないだろうと、件の『枕』を手土産に此処までの道中を共にした狩人ヨーゼフ一行のもとを訪れたところ……『枕』についての噂は既に知っていたらしく、手土産を見せた際の盛り上がりはそれはもう凄まじかった。


 コレが本当の枕営業、ってやかましいわ。



 「弟子を育てる……って程仰々しいモンじゃ無ぇけどよ。蜘蛛ッ子の成長も楽しみだし、この拠点にとってもプラスだしな。楽しんで手伝わせて貰うぜ」


 「……重ねて例を言おう。感謝するぞ」


 「ハハハ! 嬢ちゃんみてぇな可愛カワちゃんに感謝されんのも悪く無ぇな!」



 屈託の無い男の笑みに対し、思わずいつものノリで返しそうになったニドは、なんとか笑みを浮かべるに留めた。

 そんなニドの内心の葛藤を知ってか知らずか……模擬戦相手を努めてくれた狩人男性は二人に軽く手を振ると、夕食の配給を受けに上機嫌で去って行った。



 今の彼女はヴァルターより直々に残留組の面倒見を任され、いわば留守を任された身である。騒動や問題の無いよう周囲の監督に努めるべき立場であろうに、よりにもよって自ら余計な騒動の種を撒くのは……それは賢明とは言い難い。

 ついついいつものノリで――気心知れたオスに向けるのと同様のノリで――『御礼に乳でも揉ませてやろうか』とか言いそうになってしまった。そんなことを口にしてしまったらそれこそ騒動間違い無しだろう。ただでさえ女っ気の無い仮設集落、よりにもよって性的魅力もあらわな少女の『お誘い』などあっては……健気にも耐え忍んでいる男性諸君の欲求が暴発してしまいかねない。

 百歩譲って欲求全てが自身に向くのならまだ仕方の無い事だが……ほんの一割(10%)、ほんの一分(1%)、いやほんの一毛(0.01%)でも他の女性に向く可能性が存在するならば、それは決して焚き付けるべきでは無いだろう。


 理性のタガが外れたオスは、ときとして想像の及ばぬ行動を平然と取ることさえ有る。そんなことは真っ平御免だ、無為に煽り彼らとの関係を悪化させる必要もあるまい。



 (御前ごぜんはのお……此処ココトコの配慮がぃっとばかし足りんのよなぁ……)



 自らを『底意地悪い』と称しながらも意外と理性的な思考を備えた黒蛇の化身は、清廉清純な見た目に反し常識的な思考を備えていない情緒未熟な『主』を思い浮かべ……



 (…………まぁ坊なら別に良いか)



 同行している信頼の置ける雄に、全てを委ねたのだった。

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