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147_少女と騒都と狂竜退治



 『に゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああう!!!』




 二体のおおきな魔物と、多くのちいさな魔物と、そしてそれ以上に多くの人々がいる大通りじゅうに……可能な限り遠くまで。

 敵意を集める魔法『あんぐ(害意)』を声にのせて、全方向に放つ(ほえる)


 人と魔物とを選択する余裕はなかったので、慎重に、ていねいに出力を絞った。………はず。

 消耗してる人は気絶するかもしれないけど、しかたない。魔物を一ぴきずつ狙いを定める余裕は無い。健常なひとならちょっと寒気がする程度のはずだ。命に危険があるわけではないので、ちょっとだけ我慢してほしい。



 「………ふい。…………やうす」


 そのかわりに。

 この『聞き分けの無い子』たちは………



 わたしが、なんとかする。





 「あんふぁ、あんるふ……めぃ、くーあ」



 敵意をこちらに集めることには成功したようだ。めのまえの魔竜兵(ドラゴニュート)二騎が、わたしをにらみつける。………は、は? べ、べべ、べつにこわくないし。



 「んい………くりーど、ます……べーうぇ。まーく、ずぃーぐ」



 初擊に蹴っ飛ばしたのが良かったのだろうか。体格に差があるわたしにはじき飛ばされるとは思ってなかったらしく、警戒するようにわたしを睨みながら、じりじりと様子を伺っている。………顔がこわ…………こ、こわくないし?



 「りぃんふぉーす……いる」

 ――――ゴァァァアアアア!!!!

 「ぴぃぃぃぃぃ!!!」



 ほえた。そんなの反則だ。あんな怖い顔であんな怖い雄叫びあげられたらびっくりするに決まってる。いきなり威圧感たっぷりに吠えるだなんて常識がない。非常識だ。まわりの迷惑を考えろ。あほ。

 ………ちょっともれた。ゆるさない。



 「……あーで、りじっと………いる!」


 びっくりを誤魔化すためにも、もう一層重ねる。……これでもうこわくない。

 とりあえず守りを固め、出方を窺う。二騎同時に相手するのは特に問題ないけど、位置取りをちゃんと考えないと戦ってた人たちに被害が出てしまう。

 幸いなことに魔竜兵(ドラゴニュート)たちは、ちゃんとわたしを()と認識してくれている。彼らが余計なことさえしなければ、何もせずともわたしを狙ってくるはず。彼らに危害は及ばないはず。


 何人かは、既に手遅れだったけど………わたしの手の届くところでこれ以上死なれるのは……おもしろくない。

 ………いいかげんにしろよ、あいつら。



 「わたし、ここ! ………あんぐ(害意)! いる(在れ)!」


 改めて『あんぐ(害意)』を振り撒き、行動を誘う。今この場においては先手を取るよりも、後手にまわったほうがやりやすい。

 あからさまに膨れ上がった怒気に、少しだけ背筋が冷える。……だが、それだけだ。魔竜兵(ドラゴニュート)はあくまで見た目が、顔つきがほんの少し怖いだけ。戦力自体はおそるるに足りず。


 きのう闘技場で殺された古顎獣(ゴルゴノス)なんかよりも、よっぽどちょろい。




 「んひ」


 大きく横凪ぎに振り抜かれた腕が遥か頭上を通りすぎる。ただでさえ小さいわたしのからだは、身をかがめると本当に低い。木剣で向かってきた兵隊さんでさえやりにくそうだったのに、更に大きな魔竜兵(ドラゴニュート)の横振りなんて受けるはずがない。


 「ん……ふぃっ!」


 両手を石畳に突いて身をかがめ、そのままの勢いで脚を振り抜く。りぃんふぉーす(身体全強化)りじっと(表層硬化)で守られたわたしのちいさな足が、何倍も太く、重い魔物の足をあっさりと払い除ける。


 腕をおおきく振って重心を移ろわせていた魔竜兵(ドラゴニュート)は軸足を浚われ、地響きとともにあっさりと転倒する。あの見るからに重たそうな重量物が胸郭をもろに打ち付けたので、たぶん痛いと思う。苦しいと思う。これで数秒は稼げるはず。



 そのあいだにもういっぽうの、正面から迫り来る魔竜兵(ドラゴニュート)……こいつの気勢も、削ぐ。

 相方の様子をちゃんと見ていたのか、小さいわたしにちゃんと対策を講じていたらしい。腰を大きく捻り勢いをつけて、ぶっとく頑丈そうな尾を振り抜く。石畳を擦り砂ぼこりを巻き上げながら迫る尾は、さすがに掻い潜るのは無理だろう。



 なら跳べばいいだけなんだけど。



 一騎目の魔竜兵(ドラゴニュート)の足を払った低姿勢から、そのまま跳ねる。尾を振り半身になっている二騎目の………ちょっとだけ怖い頭を両手で掴んで逆立ち近くまで両脚を振り上げ………


 「にぁっ!」


 重力に引かれる勢いを両腕でねじ曲げ、魔竜兵(ドラゴニュート)のこめかみに膝を叩き込む。

 ムリな体勢だし足元(手元)は不安定だしで勢いはあまり乗せられなかったけど、叩き込んだ場所が場所だ。


 あまり大きくないらしい脳を揺すられ、尾を振った勢いに流され……くるくるまわりながら倒れた。

 当然まだ息はあるだろうけど、こっちもしばらくは起き上がれないだろう。



 というわけで………これで一騎目の魔竜兵(ドラゴニュート)とゆっくり出来る。すっきりするのに付き合ってもらう。


 彼には何の罪も無いのかもしれないけど、このあたりはリアおねえさんの服屋も近い。人のいっぱいいるとこで暴れてる以上は、止めなきゃならない。わたしの制止を無視してる以上、実力行使はやむを得ない。

 『魔物だから殺す』というわけではない。止まらないのがわるい。決してやつあたりではないし、最近あるたーに跨がれてないのに対しての憂さ晴らしではない。


 うつ伏せから起き上がり本気切(マジギ)れしている魔竜兵(ドラゴニュート)一号が、怒声を上げながらわたしを睨む。………もう慣れたわ。怖くないわバーカバーカ。



 「んい。………なぐる、よっ」


 向かってくる砲丸のような右の拳を、わたしの右(ぐー)で打ち落とし………そのまま懐にとびこみ、たたみかける。



 わたしに喧嘩を売ったことを………わたしの説得を無視したことを、せいぜい後悔するがいい。





 …………………………………





 「すっ……………げ」



 目の前で繰り広げられる現実離れした光景に、誰ともなく呟きが漏れる。

 先程まで苦戦していた筈の魔物一騎があっという間に制圧され、もう一騎は爪ひとつ触れることなく完封されている。


 興奮し凶暴化する二騎の魔竜兵(ドラゴニュート)、もはや抑えきれぬと途方に暮れていたところに………突如として()()した、小さな女の子。

 まるで場違いともいえる真っ白な少女は、妙に寒気と怖気を伴う――それでいながら妙に気の抜ける――奇声を上げたかと思うと魔竜兵(ドラゴニュート)二騎に飛び掛かり………あっという間にその二騎を蹴り倒した。



 意味がわからない。



 物理的には、質量的には、どう考えても倒せる筈は無い。間違いなく身体強化の類を用いているのだろうが、それに加えて身のこなしとバランス感覚は凄まじい。

 特に二騎目など……たったの一撃で昏倒させて見せたのだ。よほど戦い慣れしていなければ、あんな芸当は不可能だろう。



 場違いな外見と、桁違いの実力を併せ持つ闖入者。彼女の正体に疑問を抱く間も無く、状況は尚も移ろい行く。




 …………………………



 「にっ! ん、いっ! んに……あっ! んふぃっ!」


 気の抜ける掛け声を挟みながら……ノートは魔竜兵(ドラゴニュート)の猛攻撃を凌ぎまくる。

 石畳を軽々割り砕く拳を打ち落とし、樹など容易に薙ぎ払えるであろう腕を飛び越え、羽虫を落とすかのように振るわれた掌は軽々と手を突き衝撃を殺しながら避け、成人男性をもへし折る尾の一撃には己の踵を思いっきり叩き付け、地に沈める。



 「んぇ、あ!」


 振り抜こうとした尾を止められ、動きを止め体制を崩した魔竜兵(ドラゴニュート)の背後から飛び掛かり……頭を掴み身を捻る。

 彼の頭上で逆立ちするかのような無茶苦茶な体勢――足先まで一直線に延びきった……綺麗な逆立ちの形から――一瞬動きを止めてから、前方へと倒れ込む動きに会わせて大きく身体を振るう。

 重力加速と遠心力とりじっと(表層硬化)を乗せた膝を魔竜兵(ドラゴニュート)の胸郭の一点………分厚い甲殻の繋ぎ目、鳩尾(みぞおち)を狙い澄まし………



 「にっ!!」



 思いっきり、叩き込む。


 二重の硬化魔法に守られたノートの膝は、狙い違わず魔竜兵(ドラゴニュート)の内腑へと突き刺さる。甲殻の守りを抜かれた激痛と、心臓を揺さぶられたことによる脈と血圧の乱れ………度を越えた苦痛により、魔竜兵(ドラゴニュート)の動きが止まる。


 「………あーで。まーだー(瞬間強化)、いる」


 もはや気絶寸前、力無く静止した魔竜兵(ドラゴニュート)の目の前に危なげなく着地し、転回。

 左の軸足を効かせ、狙い澄まし、地を踏みしめ踏ん張り渾身の一撃を………



 「ん………いっ!!」



 胸郭のど真ん中、心臓目掛けて叩き込んだ。




 魔竜兵(ドラゴニュート)の胸郭、身体を保護する甲殻は砕かれ、しかしそれでも削ぎきれなかった衝撃は充分すぎる破壊力をもってその奥の臓器に侵入し………



 魔竜兵(ドラゴニュート)の心臓が……爆ぜた。



 ―――ゴ、ブァ……ゴバッ



 命の鼓動を乱暴に、かつ永遠に止められた魔物の巨駆は………


 眼球をぐるんと裏返らせ、牙の並ぶあぎとからは夥しい血を吐き出し、岩のような身体を直立したまま痙攣させ………




 「まーだー、ぐりーめ。………んい。いっちょ、わり」


 得意げに平らな胸を張るノートの背後、地響きと共に盛大に倒れ込み………



 二度と動かなかった。

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