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97_勇者と目的と並列作戦

 頼りない照明で照らされる、薄暗い通路内部。

 四方を鈍色の金属で縁取られた地中の通路を、団子状に纏まった一団がおっかなびっくり歩を進めていた。

 先頭を行くのは白い外套を纏い、同様に白い剣を携えた青年。彼の袖をくいくいと引っ張り、控え目に存在をアピールする白い少女が後に続き、その更に後ろに長弓を構える青年が続く。後詰めとして空色と茜色の少女を配し、周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいく。


 今現在この場にいるのは…第一班、五名。総勢九名であった人員は二手に分けられ、残る四名――獣人部隊の男衆三人と人鳥の少女――広域警戒と継戦能力に秀でた第二班は、山の麓方面へ……遠征用の荷物を積み込んだ()の回収へと赴いていた。




 ………………………



 ヴァルター、アーロンソ両名をはじめとする臨時行動単位、九名。

 現在彼らの目的は、大きく二つに分けられた。


 一つ。神話級脅威『フレースヴェルグ』の出現を、国許へと伝えること。

 そして……もう一つ。恐らくフレースヴェルグの復活と深く関わっているであろう、この遺跡の情報を集めること。


 先触れとしてアーロンソの眷属が一、伝書を携えた鳩をフェブル・アリア宛に飛ばしている。

 幸いにして脅威フレースヴェルグの出現位置は、リーベルタとの国境付近である。そう遠くないうちに正式な外交ルートを介し、リーベルタと共同して対策に当たってくれるだろう。


 しかしながら……神話級脅威の出現の報、その情報源が伝書の一通だけというのも……いささか信憑性に欠ける。ましてや国一つ、いや国二つを動かそうというのならば、確たる情報と対応の道筋が求められて然るべきであろう。

 追加の情報を持ち帰り対策に活かすためにも、遺跡の探掘調査は必要であるとの結論に達した。

 そのためにも遺跡内部に潜り、情報収集を行うことと並行して……帰路の足となる、麓に置き去りにしてきた馬を回収する必要があった。




 ………………………




 そして……遺跡深部への調査を請け負った、第一班。

 勇者ヴァルターを始めとする、閉所の行動を得意とする五名。

 ……未踏の遺跡を物色できるという魅力に取り付かれた、五名。


 物欲によるものが無い……とは断言できないが、各々なかなかの熱意を帯びて歩を進めていった。



 「あー……あった。二基」

 「了解です。準備出来てます」


 ヴァルターの剣による能動探知ソナーが、僅かな駆動魔力を捉える。

 即座に返された答えに頷きを返し、ヴァルターは少女に引かれる腕を静かに振り解く。身体に魔力が巡り身体全強化リィンフォースが展開され、戦闘準備を整えたヴァルターは歩を進める。

 純白の剣――『勇者の剣』を正眼に構え、摺足すりあしで少しずつ、少しずつ……じりじりと進んでいく。




 ……と。


 前方、遥か暗がりの先。天井の一部が微かな音とともに下がり、生じた隙間から黒光りする金属製の筒が顔を出すと同時。薄暗い通路を眩く照らす閃光と共に乾いた音が立て続けに響き渡り、赤熱した幾条もの矢が尾を引いてヴァルターに迫る。


 「…ッ、とと」


 身体全強化リィンフォースによって加速された視野と思考速度の中、音速を超えて迫りくる光条に危なげなく白剣を合わせるヴァルター。剣の峰によって軌道を逸らされた光条は遥か後方の壁を穿ち、遠く小さな火花を散らす。


 「矢よ(アーロ)疾れ(ラフ)


 弾丸と光を吐きだし続けることで薄暗がりの中自らの位置をはっきりと曝け出した自律砲台は、ヴァルターの後方に控えていた狙撃手カルメロの矢に貫かれ……小爆発を起こし機能を停止させる。

 続けざまに放たれた二の矢が唸り、――同様に直進性と貫通力強化を施され、向かい来る鋼の弾丸を蹴散らしながら突き進む渾身の一矢により――隣の同僚と同じ行く末を追った。


 ほんの数秒。

 金属の軋む微かな音と、小さく火花を散らす音を僅かに残し……通路に再び薄暗さと静寂が訪れた。




 「……あ、あるたー…だいじょぶ? わたし、まえ、まもる?」

 「ああ、大丈夫。狙いも単純だしこの程度……苦でもないさ」

 「んい……んい………」


 行動を開始してから、既に十数回。

 彼らの行く手を阻むように、招かれざる客を排除するために、一部機能を取り戻した遺跡の防衛機構が襲い掛かった。

 小規模ながら指向性を持たせた爆発魔法で鋼の矢を高密度で撃ち出す防衛機構、天井や壁に埋め込まれたそれらに最初は驚かされ、肝を冷やされた一同であったが……やがて防衛機構の反応・行動・攻撃パターンを把握し、今では適切に処理出来るまでになっていた。


 自律砲台は駆動に僅かとはいえ魔力を用いているらしく、勇者の剣による能動探知で所在は割り出せた。

 『認識範囲に最初に侵入した物体に対して攻撃を仕掛ける』という行動ルーチンらしく、剣を前方に突き出し前進すればそこに砲火を誘導できた。

 一撃あたりの威力ではなく、精度と手数で圧倒する設計らしく、剣の峰で弾丸を弾くには身体強化でこと足りた。

 そして……魔力の込められたカルメロの狙撃で、自律砲台を黙らせることは充分に可能だった。



 適切な攻略方法を見出し、自律砲台を処理しながら進む一行。

 心配するようにヴァルターに寄り添い、泣きそうな顔で勇者を気遣う……真っ白な少女の姿。


 その光景を微笑ましく思いながら、一行は遺跡の深部へと調査の手を広げていく。








 ………………………





 白い少女、魔の王の雛型をその身体とする少女だけが、知っていた。


 各々が独立した思考ルーチンを備える防衛機構は、各々が最初に認識したもの――各々の認識範囲に最初に足を踏み入れた者――によって、その対処方法を変えるということを。


 魔族による防衛拠点、その防衛機構に対して。

 魔族に類する身体を認識させれば……防衛機構は手出しをして来ないということを。


 仮にノートが矢面に立って防衛機構を黙らせれば……彼女に続く『魔族でない者』に対しても、来賓と認識して砲火を射掛けることは無いのだということを。



 前に出ようとしてもネリーとヴァルターに物理的に押し留められ、防衛機構への接近を伝えようと袖を引っぱりアピールするものの軽くあしらわれ、しかしながら防衛機構の仕組みを口頭で説明するための語彙を持たず、結果として的確に処理していくヴァルター達になんとも申し訳ない面持ちで追従していくしかない……なんとも歯がゆい気持ちを。



 以前にも増して丁重に扱われる、『天使』と呼ばれる少女。


 彼女だけが……知っていた。

【攻略情報】

パーティーリーダーを『ノート』に設定することで、エンカウント率を0にすることが出来ます。

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