第5節 『たまごかけごはん』を食べてみる (1)
5ー1 問題の解決策
第4節で挙げた2つの問題を同時に解決する(少なくとも理論上は)簡単な解決法がある。
誰か他の人が作った『たまごかけごはん』を一度食べてみれば良いだけである。
ひとつ注意を加えておく。
このとき大切なのは、信頼できる相手が作った『たまごかけごはん』を食べるということだ。
間違っても、以下の様な相手に頼んではならない。
1.両親。
もし、あなたが今まで『たまごかけごはん』を食べたことがないならば、あなたの両親は「『たまごかけごはん』を子どもに食べさせる」という保護者としての最低限の義務すら果たさない相手である。最近流行りの毒親である。
自分の親はそんなクズだったんだと諦め、今後一切関わり合いにならず、前向きに生きていくことをオススメする。
2.あなたを恨んでいる人
当然ではあるが、あなたを恨んでいる人に、このような重大事を頼んではならない。
頼んだところで断られるからではない。その程度で済めば御の字だ。
きっと相手は、あなたの頼みを快諾してくれることであろう。満面の笑みを浮かべているかもしれない。
そして、とっても美味しい『たまごかけごはん』を作ってくれることであろう。
だが、これで安心してはならない。悲劇はその数時間後にやってくるのだ。
初めて食した『たまごかけごはん』のあまりの美味しさに感動しながら、ひとり自宅でくつろいでいるあなたを突如今までに経験したことのない、発汗、寒気、めまい、頭痛、心悸亢進、胸焼け、流涎、灼熱感、疼痛、狭窄感、腹痛、嘔吐、下痢、痙攣、瞳孔散大、体温低下、血圧低下、不整脈、意識混濁、多臓器不全、呼吸停止などが襲ってくるであろう。
トリカブト、青酸カリ、ヒ素、農薬、テトロドトキシン等々、この世には素敵なスパイスがいっぱい存在するのだ。
誰かに恨まれるような生き方はしていない。
自分でそう思うからといって、油断してはいけない。
人間は生きているだけで、誰かの恨みをかっているのだ。
買ったばかりの消しゴムを大事に使っていたのに、貸したら角が欠けた。
これだけで、人は簡単に殺意を抱くのだ。
加害者からすれば、「そんな些細なことを」とすっかり忘れた気になっていても、被害者はそれを忘れず数十年にわたって恨み続けるのだ。
つーか、○藤○也。テメーだけはぜってえに許さねえ!!!
3.メシマズ。
世の中には、メシマズと呼ばれる、どんなに素晴らしい食材からも生ゴミを生み出せる特殊スキルの持ち主が存在する。
料理の彩りを良くするために絵の具を加えたり、傷んだ食材を殺菌するために洗剤を投入したり、と常人には思いつきもしないトンデモ料理方法を駆使して、こちらの肉体と精神に深刻なダメージを与えてくる。そのくせ、「えー、お腹いっぱいだからいらないー」とか言って、自分では食べないのだ。
本来ならば、この様な人々にこそ、本稿を読んでいただきたいのだが、どんなレシピにも独創的なアレンジを加えて化学兵器にしてしまうのがメシマズという人種だ。
飲食店や食品メーカーに雇用されていないだけまだマシ、と思って割り切るしかないであろう。
4.十数年ぶりに連絡を取ってきた同級生
卒業以来、それどころか在学中もほとんどつき合いがなかった同級生が、SNSなどを通じて十数年ぶりに連絡を取ってくるということがあるだろう。
「急に懐かしくなって」とか、「転勤で近くに越してきたから、久々に会いたい」とか、そう言ってアプローチしてくるであろう。
だが、元同級生だからと、ホイホイと信用して、『たまごかけごはん』を作ってくれ、などと安易に頼むべきではない。
この手の輩が「旧交を温めたい」という理由であなたに声をかける可能性はゼロである。
そもそも、この年まで『たまごかけごはん』を食べたことすらないようなあなたに、そんな人間的魅力がないことは自明である。
コイツらの目的は、カネ・宗教・政治のどれかに決まっている。
確かに、コイツらに頼めば『たまごかけごはん』を食べることは可能であろう。
しかし、その見返りとしてあなたが支払わなければならない代償はあまりにも大きすぎるであろう。
とにかく、上記のような信用ならない相手ではなく、もっと身近で信頼できる相手に頼むべきである。
ただこれは理論上は極めて簡単な解決法であるが、実践するには著しい困難を伴うであろう。
なぜなら、一般の人は身近に信頼できる相手など存在しないのが普通だからだ。
極一部のリア充を除いて、信頼できる身近な相手など都市伝説レベルの存在である。
本稿読者のように不遇の人生を歩んできた方ならば、今まで散々騙されてきた経験から「他人を信じるな」という確固たる信念をお持ちの筈だ。
さらには、自分すらも信じられないと思っているであろう。
筆者もそうである。「明日から頑張る」という自分に何度裏切られてきたことか。
では、なにを信じれば良いのか?
それを次に論じてみたい。