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第4節 『たまごかけごはん』を食べたことがない人 (2)

4ー2 『たまごかけごはん』を食べたことがない人が直面する問題


 『たまごかけごはん』を知ってはいても、今までに一度も食べたことがないという人も一定数存在するであろう。

 食べたことがない理由としては様々なものが考えられるが、『たまごかけごはん』を食べたことがない人が共通して直面する2つの問題がある。『たまごかけごはん』作りにおいて大きな障壁となるこの2つの問題について、以下にて説明を行う。


 1つ目の問題は「『たまごかけごはん』を作る困難さ」である。

 一般的に、食べたことがない料理を作るのは困難である。


 筆者の高校時代の話である。

 今でこそ全力で引きこもり中で、他人との接点といえば、ネット通販で買ったものを届けてくれる宅配便のおっさんか、コンビニバイトのおばちゃんだけ(註6)、という筆者であるが、その頃はまだ半ドンの土曜日に同級生たちと連れ立って友人宅でゲームをするくらいの社交性は持ち合わせていた。


 ある夏の土曜日だった。その日もいつものように、一台のゲーム機を囲んで、殺伐とした雰囲気の中『ド○ポン3・2・1』で友情破壊に勤しんでいた。

 その場には、いつもの4人以外にもS君がいた。帰国子女だったS君は、あまりゲームに詳しくなかった。だから、参加こそしなかったものの、俺達がゲームする姿をそれなりに楽しそうに眺めていた。


 そして、どんどんと険悪なムードが高まっていく中、悲劇が起きた――。


 昼食をたらふく食べたとはいえ、いくら喰っても腹が減って仕方がない年頃だ。

 おやつ代わりにみんなでカップ麺を食べたのだが……。


「ちょ、おまえ、なにやってんだよっ!!!」


 部屋中にTの絶叫が響き渡った。

 ゲームに熱中する俺達に変わって、ギャラリー役だったS君がみんなのカップ麺を用意していた。

 しかし、ここでひとつ問題があった。

 S君は帰国子女で、カップラーメンは食べたことがあったが、カップ焼きそばは初めてだったのだ。

 Tが食べる予定だった『ペ○ング』に、S君はソースを投入してしまったのだ――お湯を入れる前に!


 その三分後。薄くソースに染まったお湯がシンクを流れて行く。

 Tは「味しねーよ」と文句をタレながら、それでも残さず全部食べきった――。


 このように、「食べたことがない料理を作ること」が如何に困難を伴うか、解っていただけたであろう。

 初めての人間にとっては、『ペヤ○グ』ですらまともに作れないのが当たり前なのである。


 上記の例とは対象的に、世の中には「レシピさえあればなんでも作れる」というな女子力の高い人も存在するのは事実だ。

 だからといって、「旦那さんになる人が羨ましいなあ」や「素敵なお嫁さんに成れますね」等の発言はセクハラになりかねないので、「容姿に自身のない人」及び「自分を客観的に見れない人」は控えるのが賢明である。(註7)

 さらには、「レシピさえあればなんでも作れる」かつ「イケメン」という集合に属す者も存在するが、その様な者は「爆発」もしくは「氏ぬ」ことを推奨する。


 議論が横道に逸れたが、「レシピさえあればなんでも作れる」ような人は本稿の対象読者ではない。

 その様な人は、こんな雑文を読んでいる暇があったら、第2節にある『たまごかけごはん』の定義「生卵と醤油を『ごはん』にかけてまぜたもの」に従って、さっさと食べやがれ!


 2つ目の問題はより本質的である。

 すなわち、その人が『たまごかけごはん』を作ったとして、それが正しい『たまごかけごはん』なのかどうか、食べたところで本人には識別できないという問題である。


 東郷平八郎に無茶振りされた料理長も、自分がビーフシチューを作れたのかどうか定かではないだろうし、苦心して作り上げた自分の作品が後世に肉じゃがと呼ばれ、「得意料理は肉じゃがって言っておけば男受けがイイ」と勘違いしたクソビッチ、もとい、女性を量産することまでは微塵も想定してなかったであろう。


 この問題が不可避である以上、いくら本稿で失敗しない『たまごかけごはん』の作り方を提示し、その通りに間違いなく作ったとしても、今まで『たまごかけごはん』を食べたことがない人は、それが本当に正しい『たまごかけごはん』かどうか、本人にすらわかり得ないのだ。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

(註6)


 該当店舗の名誉を損なわないために弁明しておくが、別に筆者行きつけのコンビニが一部の特殊性癖を持った客層をターゲットに絞るため、もしくは店長の趣味で、中年女性だけを採用しているわけではない。他店同様に若いバイトも多数雇用されている、極めて一般的な店舗である。


 これは単に、筆者側の問題である。

 一回り以上も年下の若造にヘラヘラと見下すような接客をされたり、うら若き女性に蔑んだ視線で空中お釣り落としをされたりする屈辱に、筆者は耐えられないのである。

 それゆえに、おばちゃんバイトが入っているシフトを把握し、その時間帯だけ利用するようにしているのだ。

 おばちゃん特有の「自分の興味のないものはまったく眼中に入っていない」という自己中心的な性質は、筆者のような人間にとっては、むしろ、癒やしですらある。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

(註7)


 「自分を客観的に見れない人」は、そもそも自分が「自分を客観的に見れない人」なのかどうかを客観的に判断できない。

 この矛盾はラッセルのパラドックス同様、素朴集合論においては不可避である。

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