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第3節 なぜ『たまごかけごはん』を選んだか?

 幾多ある料理の中で、筆者がなぜ『たまごかけごはん』を取り上げたのか?

 もちろん、『たまごかけごはん』自身が持つ、「美味しさ、栄養価、コスト」といった素晴らしき特性も理由としては十分であろう。

 しかし、ここでは違った側面からも、その理由を取り上げてみる。それは『たまごかけごはん』に備わっている「ポピュラーさ、作りやすさ、購入の難しさ」という3つの要素だ。

 専門的な学術論文ではない本稿において、何かひとつ料理を取り上げるとしたら、この3要素は欠かせないものであろう。




3ー1 ポピュラーさ


 まず、第一に「ポピュラーさ」である。これが何よりも大事だ。

 誰も知らないようなマニアックな料理ならば、料理の魅力を伝えたいのか、ウンチクを自慢したいだけなのか、どっちかよく分からないようなグルメマンガに任せておけばよい。


 『たまごかけごはん』はポピュラーである。ほとんどの日本人が知っているだろう。(もし知らない人がいたら、むしろ本当に日本人であるか疑った方が良いかもしれない。)

 嘘だと思うなら、道行く人々に「『たまごかけごはん』を知っているか?」 と尋ねてみれば良い。

 筆者のフィールドワークによると、怪訝な視線を返されるか、「なんだオマエ」という返事が帰ってきただけで、「『たまごかけごはん』を知らない」という回答はゼロであった。(このようなフィールドワークが可能なのは安全な日本国内だからである。ヨ○ネスブルグやあ○りん地区などの危険地帯でのフィールドワークは絶対にやってはならない。)




3ー2 作りやすさ


 そして、次に「作りやすさ」だ。

 「作りやすさ」は2つの部分要素から構成される。


 ひとつ目は、「素材の入手しやすさ」である。対象とする料理の素材は簡単に入手できねばならない。もちろん、現在の日本においてだ。

 それ故に、ローカルな食材――例えば、ジンバブエの食卓には欠かせないアレとか、火星で最も人気な野菜のソレとか――を用いた料理は除外する。

 同様に、ドードー鳥の肉やティラノサウルスの肉を用いた料理等も除外する。


 そして、ふたつ目は「調理の容易さ」だ。

 素人が気軽に作れない料理をここで詳しく説明しても仕方がない。そういう手の込んだ難しい料理を知りたい方は、専門の料理書かク○クパッドを参照されたし。


 『たまごかけごはん』は作りやすい。

 第6節で述べるように、素材が入手しやすい。それに、調理も容易だ。

 本稿の読者という例外的な人々を除いて、多くの人は作れるし、実際に作ったことがあるであろう。

 勿論、現時点では作れなくても、本稿読了後には作れるようになること間違いなしである。




3ー3 購入の難しさ


 最後に「購入の難しさ」だ。いくら「ポピュラーで作りやすい」ものでも、それが簡単に買えるなら、わざわざここで紹介するまでもない。「じゃあ、買えよ」という話だ。


 『たまごかけごはん』は購入が困難だ。

 近年、卵かけご飯専門店が話題になり、それ以外の店でも卵かけご飯を提供することが増えた。

 とは言っても、まだまだその数は少なく、気軽に食べに行けるという状況ではない。

 特に、筆者のような半引きこもりで、せいぜいコンビニかスーパーくらいにしか行かない人間にとっては、わざわざ電車に乗ってまで卵かけご飯を食べに行くというのはハードルが高すぎる。

 その上、卵かけご飯に数百円も支払うなんてナンセンスだ!

 それくらいだったら、吉○家の牛丼かコ○イチのカレーにするのは自明である。


 非専門家に向けて料理を語る際には、上述の3要素が不可欠であること、そして、『たまごかけごはん』こそ、まさにこの3要素を満たす料理であることは、以上の考察によって明らかであろう。(註4)




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


(註4)


 浅学な筆者としては『たまごかけごはん』以上に適切な例を思いつく事は出来なかった。


 『たまごかけごはん』の存在に気づいてしまえば、『たまごかけごはん』こそ、まさに適例であると思われる。

 しかし、「気づいてみれば当たり前」ということは科学的発見に総じて言えることである。

 実際、「本当の初心者に向けた料理記事」という本稿の着想を得てから、その題材を『たまごかけごはん』と定めるまでが本稿執筆において一番の難所であった。


 というのも、上述の3要素を満たす料理というのは意外と数少ないのである。

 なぜなら、「ポピュラー」で「作りやすい」料理というのは、大抵の場合は簡単に購入できてしまうのである。

 適当に挙げてみるだけでも、おにぎり、お茶漬け、素麺、サンドイッチ、カップ麺、サラダ、ホットドッグ等々、どれもこれもコンビニやスーパーで手軽に安価で買うことが出来るのだ。


 ここまで考察した時点で筆者は戦慄した――我が国における食品産業のマジキチぶりに。

 本気過ぎるのである。やり過ぎなのである。

 日本人の食に対する情熱は半端なさ過ぎるし、それに全力で応えようとする食品メーカーのプライドがヤバすぎるのである。

 おでんの缶詰めが自販機で売り出された時点で、この事実に気づくべきであった。


 一定年齢以上の方ならば、現在手軽に食べられる料理のうちどれだけの割合のものが、子供のときに食べたことがない、下手したら名前すら聞いたことがなかったものであるか、容易に想像できるであろう。

 ナポリの人が食べたことがないナポリタンや、天津の人が食べたことがない天津飯を創り出してしまうような国民性なのである。

 我が国における食文化は今日も日進月歩で進化中であり、手軽に購入不可能な料理を見つけ出すのは極めて困難なのである。

 近いうちに、どこかの食品メーカーによって、完成済みの『たまごかけごはん』が発売され、コンビニやスーパーでお手軽に購入できる日が来ることもまた、間違いないであろう。

 そのことによって、本稿は存在意義を失うかもしれないが、それでも筆者は日夜研究開発に勤しむ食品メーカーに敬意を払い、その来たるべき日を待ち望む次第である。

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