第2節 『たまごかけごはん』の定義
本節では、本稿で対象とする『たまごかけごはん』を明確に定義にする。
最初に「ご飯」という言葉についてだが、本稿では「炊飯された白米」のみを対象とし、それを『狭義ご飯』または『ごはん』と呼ぶ。「ご飯」の定義に関して厳密な議論に興味のある読者は「補論:『狭義ご飯』と『広義ご飯』」を参照されたし。
なお、「生卵」と「醤油」に関しては、一般的な定義に従う。
次に注意いただきたいのだが、『たまごかけごはん』は『たまご欠けごはん』ではない。それは只の『ごはん』だ。
本稿で取り扱うのは、卵を掛けた『ごはん』であり、以下においてその厳密な定義を与える。
博学な読者諸氏ならば、卵かけご飯には様々なヴァリエーションが存在することはご存知であろう。
本稿においては、中でも最もスタンダードである「生卵と醤油を『ごはん』にかけてまぜたもの」を『たまごかけごはん』と呼ぶことにし、それのみを考察対象に限定する。(註2)
「いや、私は醤油よりポン酢派だ」、「少し出汁を加えた方が美味しくなる」などの意見があることは、筆者も重々承知している。しかし、卵かけご飯が持つ無限の可能性ゆえに、なんらかの制限を設けない限りは建設的な議論は不可能であることを、どうかご了承いただきたい。
ここで、卵かけご飯のヴァリエーションの豊富さを示すために、代表的な卵かけご飯をいくつか紹介する(以下はあくまでも例の一部に過ぎない)。
1.醤油以外の調味料を用いたもの。上述のポン酢や出汁醤油の他、ラー油、麺つゆなどが主に代用される。
2.トッピングを加えたもの。ネギ、ごま、おかか、チーズ、明太子、チョコレート、生クリーム等、『たまごかけごはん』に合うトッピングは枚挙に暇がない。
3.生卵ではなく、加熱した卵を用いたもの。ゆで卵、目玉焼き、炒り卵など。炒り卵の場合は鶏そぼろを加えると尚良し。
4.卵の代わりに納豆を用いたもの。納豆かけご飯とも呼ばれる。
5.『たまごかけごはん』に水を加えて、煮込んだもの。たまご粥とも呼ばれる。
6.『たまごかけごはん』をフライパンで炒めたもの。具なしチャーハンとも呼ばれる。
7.鶏肉と玉葱を麺つゆで煮たものに生卵を混ぜて、少し加熱した後、ご飯に掛けたもの。親子丼とも呼ばれる。
8.ご飯以外の炭水化物を用いたもの。生卵はうどん・そば、焼きそばに掛けても美味しい。
9.卵の代わりにカレーを掛けたもの。カレーライスとも呼ばれる。
10.お湯を注いで、3分間待って出来上がるもの。カップ麺とも呼ばれる。
これらはたまご掛けご飯のヴァリエーションではあるが、その定義によって、本稿で取り扱う『たまごかけごはん』の範疇には入らないので注意されたし。
なお、『たまごかけごはん』は卵かけご飯の出発点であり、スタンダードであるので、本稿の議論を『たまごかけごはん』に限定したとしても、その作り方において何ら一般性は失われないことは、後の議論から明らかである。
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(註2)
「卵、醤油、ご飯」の分量については、議論の本質ではないので、非負であること以外の条件を設けない。
なお、「厳密に正」ではなく、「非負」の条件にしたのは、極限を取り扱う数学的困難さ(これもまた本稿の目的からは本質ではない)を排除するためである。
しかし、いずれかの分量がゼロであるものは『自明なたまごかけごはん』と呼び、本稿では取り扱わないことにする。