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それは呪いか祝福か  作者: さうろんぼ
5/5

それは呪いか祝福か

本話でラストです。

 さて、物語は終局でございます。 

 トゥオーリンとアルレシアは、戦争を止めさせました。

 彼、彼女の持つ力は、強大などという言葉が陳腐に思えるほど、むしろ言葉では表現しきることは難しいほどに、大きなものでした。

 まあ、それもそうでしょう。

 ふたりとも、太古の昔、神がヒトに与えた、たったひとつの力によって、ヒトの枠を超えてしまった、世界最古の超越者だったのですから。


 神は世界をお創りになりました。  

 その最後に生み出したのが、ヒトだったのです。ただ、ヒトはそれまでに生み出された数々の命――それは例えば龍であったり、巨人であったり――に比べて、それはそれは脆弱な存在でした。

 世界を創造した神には、もうあまり力は残っておりませんでした。ヒトを龍や巨人に比する存在にすることは勿論、野の獣と渡り合う力を与えることすらできませんでした。

 ヒトの世では末っ子ほど可愛がられるものです。

 我々がそうであるように、神もおそらくは同じ心持ちだったのでしょう。

 弱い存在であるヒトが、どうにかこの世界で生き抜いてゆけぬものかとお考えあそばされた末に、たったひとつだけ、残された僅かな力を我々にお与え下さいました。


 それが、祈りです。


 ヒトに限らず、神に依って生み出されたものは皆、大なり小なり其の身に神の欠片を宿しております。

 とりわけ大きな欠片を宿しているのが巨人や龍。

 ヒトが宿すのは、本当に、本当に小さな――砂粒に満たぬほどの欠片なのでした。

 その、ほんのちょっとだけ分け与えられた神の欠片。これを、ヒト同士が集団を作って、寄り添い、地に満ちることで、やがて大きな力へと昇華させる。そんなことを可能にする、鍵として与えられた力が、祈りだったのです。

 龍や、竜、それに巨人らは、個で完結している存在といってよいでしょう。対してヒトは、集にして個、個であって衆となることで、ようやく神の末子として、存続できるだけの力を得たのです。

 あの、こんなことを申し上げますと、正教会の方々から異端と呼ばれるやもしれませんが、いま現在、魔族と呼ばれる面々も、実はヒトの括りに入っているのでございますよ。

 その身に宿した神の欠片が、ほんのちょっとだけ、違うだけなのです。そう、色や形、匂い。精々がその程度のことなのです。神の視線をお借りするならば、人も魔族も血を分けたきょうだいといえるのですが――これ以上は横道にそれるので止めておきましょうね。

 

 祈りは、いまでも我々の力です。

 ヒトの――その種としての存続が危ぶまれた創世紀に誕生した希望。

 それがトゥオーリンでした。

 国という軛もなかった頃でございます。青年は、生きとし生ける、全てのヒトの祈りを一身に受け、超越者――英雄となったのです。

 絶望に抗うべく、その希望を背負い、神の祝福と言う名の絶大な力を以て、降りかかる災いを打ち払う剣となりました。

 しかしそれでも巨人や龍には叶わぬのでした。

 故にヒトは求めました。

 新たなる英雄の存在を。

 ここまで申せば、なんとなくご想像がお付きになるのではありませんか。

 そう、七英雄でございます。

 皆様も、お祖母様やお母様から寝物語に聞かされたでしょう、あの七英雄のことです。


 聖者ローランド

 黒騎士モルドール

 狂戦士ジャナ

 幻想絵師アエリエス

 混沌たるウォールラック

 そして、最後が村娘アルレシア。


 おやおや、何を不思議な顔をなさっておいでですか。

 ほう、何人か知らない名前があると?

 トゥオーリン以外でご存知なのは、なるほどローランドとモルドールだけなのですね。双子の兄弟だった彼等は、よく物語の題材になりますものね。まあまあ、そこは流れの吟遊詩人が語ることでございます故、どうか少々の差異は捨て置いてくださいまし。

 少女は青年と将来を誓いあった仲でございました。

 しかし青年は英雄の宿命を背負い、遠く手の届かないところへといってしまったのです。

 悲嘆に暮れる少女。しかし少女は青年と結ばれることを諦めませんでした。

 その足跡を追い、荒野を馬で駆け、生い茂る森林をくぐり抜け、険しい山脈を超える。さてさて、そこはいったい何をどうやったものか。ここが一番重要だというのに、禁書であっても記述は曖昧なものばかりなのです。ただの村娘だったアルレシアは、トゥオーリンに追いついたのです。その代償としてでしょうか、彼女もまた、ヒトで無くなっておりました。

 そうしてトゥオーリンの側に寄り添い、他の英雄らとともに龍を退け、巨人を追い出し、ヒトの世を勝ち取ってゆくのですが、その最後の最後。ここは皆さんご存知のお話と同じで御座いましょう?――知恵ある最後の龍との決戦において、七英雄は相打ちとなったのです。


 彼女らの功績によって、人の世が訪れました。

 少女は果たして、寄り添い、ともに戦えただけで満たされたのでしょうか。それとも老いが二人を分かつまで添い遂げたかったのでしょうか。

 ただわかっていることは、半神格化した彼、彼女等の魂は、神のさだめた輪廻の枠を超え、幾度となく召喚・転生を繰り返すようになったのです。 

 ちなみに――今でも、私達さえ其の気になれば、新たな伝説級の英雄を産み出せるのですよ。創世紀と違って、人の世のあれや、これや、単に国という線引きが人々を別つ故に、できないだけであって。


 ふう。

 色々と寄り道をしてしまいましたところ、夜も更けてまいりました。

 今宵のお話は此処までといたしましょう。

「それは呪いか祝福か」、如何で御座いましたでしょうか。

 次の新月まで、わたくしはこちらに逗留しております。


 七英雄のお話はまたいずれかの機会にでも。

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