ミッドナイトブルーの誘惑
閲覧ありがとうございます。
軽い下ネタ発言ありです。苦手な方は閲覧をお控え下さい。
「……ツ、やぶれちゃった……」
トイレから戻ってきた華那子の、蚊の鳴くような声。え、パンツがなんだって。
「股のトコ、穴あいてたの」
これはつまり、なんてエロゲでしょうか。
俺と華那子は、今日が記念すべき初デートだった。二人で出掛けたことは何度もあったが、所謂「恋人」という関係になったのはつい3日前のこと。恋愛経験が浅く、引っ込み思案な、男泣かせの鈍感少女を口説き落とすには随分な時間と労力を費やしたものだ。奢る度に「私にまで気を回さなくていいのに」なんて心底不思議そうな顔で言われた。家まで送ると提案すれば「親が車で迎えに来る」なんてケロリと断られた。「もう誘わなくていいよ、貴方の彼女さんに申し訳ない」と言われた夜は流石に泣いた。
そんな華那子との初デート。失敗は許されないと細心の注意を払っていた。急いではいけない。外堀を埋め、警戒心や恐怖心を煽らぬよう、じっくりと距離を詰めるのだ。
腹ごなしに入ったカフェを後にして、5分程が過ぎた。どうしたら手を繋げるか、断りも無しに触れたらだめだろうか、というか今日はどこまでいけるのか、キスはハードルが高いだろうか。いや、フレンチならセーフか。今後のプランを悶々と練り始めたその矢先、彼女の薄桃色の唇から爆弾が吐き出されたのだ。即ち冒頭の発言。というか、股だの穴だのめちゃくちゃエロいじゃないか。アイボリーのニットにボルドーのミディ丈スカート。気取らない黒のスニーカーにメタルフレーム眼鏡。この純度100%の清楚系からはかけ離れた、節だらな単語。ギャップなんて一言では片付けられない、決して結び付くはずない懸隔。
「いろ、は」
掠れた声で、降って沸いた疑問を吐き出す。首を傾げた彼女に、今度ははっきりと眼を見て告げる。
「何色、履いてるんだ?」
呆けた顔のままの彼女を目に、後悔の念が過る。デリカシーが無さすぎたか。しかし俺に弁明の余地も与えず、さらりと第2の爆弾を投下した。
「黒、だけど」
俺は泣いた。正確には泣いてない、しかし泣いていた。なんだそれ、堪らない。ニットもスカートも、彼女の纏う服を剥ぎ取ったその下の、乳白色の肌と黒の布切れのコントラスト。
「気に入ってたのに……」
仏の顔も3度まで、とはよく言ったものだ。沸き上がる感情は歓喜よりも、寧ろ怒気だった。壊れ物を扱うように、絶対に傷を付けないように、本当に大切にしようと腹を決めていた。理性を保ち、紳士であろうと努めてきた。それが、全部、無駄だったのだ。手を繋ぐ、キスをする、そんなステップ全て飛び越えた、彼女からの誘い。それは間違いなく、俺を「ヘタレ」と嘲笑っているようだった。
もう遠慮なんてしない。映画もやめだ、無理矢理でもホテルに連れ込む。俺は彼女の手を鷲掴もうと自らの手を伸ばした、が。彼女によってそれは憚られる。彼女の指差す先には一軒の下着屋。
「新しいのに替えてくる」
反応というか、脳の整理ができていない俺に更なる追い討ちを掛けてくる。
「何色にしようかな」
正直に言えば、黒がよかった。というか替えないでほしい、扇情的な穴空きパンツを拝みたい。とは流石に言えないから、少しは譲歩しよう。もう一度、頭で彼女の衣類を剥いていった。血管も透けて見えそうな程の白い肌。きっと濃い色がよく映える。赤か、いや、
「なるべく濃い、青系で」
彼女は難色を示したが特にそれについては言及せず、俺を待たせて店内へ姿を眩ませていった。
「お待たせ」
10分くらい経つと彼女は戻ってきた。
「どう、かな。今日の服には合わないかもだけど」
華那子を足元まで眺めて、俺は彼女のらしくない発言の数々を思い返す。なるほど、あれは「パンツ」じゃなくてーー。
「なぁ」
不安げに揺れる彼女の眼を見て、愛しさが溢れて止まらなくなる。
「手、繋いでもいい?」
恥ずかしげに小さく頷いた彼女を、俺はこれからも大切にしようと誓った。
ありがとうございました。
愛用していたタイツが破れたのでカッとなって書きました。
捻りのないネタを失礼しました。