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3話

さて、周りを見た感じ、日本の森ではないな。

アマゾンとか、そんな感じだろうか?若干熱帯っぽい気がする。

とりあえず一旦外に出てみるか。

あれ?ってかこの小型ポッドからどうやって出ればいいんだ?

え、わかんないぞ。

あれ?ここか?違うな。え、どこにレバーとかあるの?

あ、これか、ここを回してこっちのレバーをあげるのか。


パシュー


あ、開いた。

出口から出ると、どうやら結構高い木の上に引っかかっていることがわかった。

高いと言ってもたかが2~3mくらいだとは思うが。

さて、どうしようか。


考えてみたが、とりあえず、救難信号みたいなものを出すべきだろうと思った。

小型ポッドで操作できそうなところを探し、なんとかしようとしてみるが、全然よくわからない。

湿度とか冷暖房の操作だとか、どうでもいい機能ばかりだ。

あ、でも緊急ボタンってのが椅子の下にある!

これだろ。

ポチッ


ウィーン…


椅子の下が開いて、携帯食料と水、酸素ボンベ、万能ナイフ、工具セットなどが入った緊急用リュックサックが出てきた。

うん。ありがとね。

でも今求めているのはこういうのじゃなくて、もっとこう、助けを呼ぶための無線とか、そういうのなんだけど…。

あ、でもなにか資料が入ってる!!


…これ小型ポッドが故障した時の簡易修理マニュアルだ。

冷暖房やディスプレイが映らなくなった時の対応が書いてある。


いや、うーん。目立った故障してないしな。たぶん。

ディスプレイはちゃんと映るし、動く。

まあ宇宙に関して何も知らない素人のお客様用の情報しか映らないけど…。


…どうしよう。

とりあえず救難信号を発する方法は無さそうだ。

ここで救助を待つべきだろうか?

携帯食料は2日分、水は4Lある。

まあガチれば一週間は死なずに持つだろう。


ここで待つべきだろうか?

うーん…。

でも、そういえば昔テレビで飛行機の落下事故で生き残った少女の特集を見たな。

確かアマゾンかどこかに落っこちて、あきらめずに数日間川伝いに移動したら街に出て助かったみたいな話だったはず。

その場で待っているよりは動いた方が生存率が高いみたいな話だったはずだ。

移動しよう。まず川を探そう。


ということで、小型ポッドからおりることにした。

2~3mの高さの木に引っかかっているので少し怖い。

ゆっくり、木を伝って降りる。

問題ない。俺は運動神経はいい方だ。


と思っていたら手が滑った。

おふぅ…

ちょっと落ちたけど、まあケガはない。



いつもの私服にリュックサック、これしか持ち物はない。

とりあえず、川を探そう。


そう思って歩き出した。

立ち止まっていると不安が襲ってくるしな。


この森は、最初は熱帯のジャングルのようなイメージだったが、意外とそこまで植物の密度は高くなかった。

ジャングルのような印象を受けたのは、見たことのない細長い木や、珍しい形をした植物が多いからだろう。


とりあえず適当にあるいていた。

最低限同じ方向に進むように気をつけてはいたが、途中で方向がくるってしまっているかもしれない。

などと不安に思っていると、獣の唸り声のようなものが聞こえた。


「グルル…」


そういえばまったく考えていなかったけど、猛獣がいる可能性あったよな。

うわ、どうしよ、考えなしに動くんじゃなかった。

周りを見回すが、姿は見えない。


ひとまず、しゃがんでやりすごそう。

見つからなければどうということはない。

と思っていると、前方の茂みから2mはありそうな動物が歩いてきた。


「グルル…」


熊だ。熊です。熊。

色は茶色く、なんか目が赤い、血走ってるの…?

良く見ると身体に赤い筋のような模様が入っている。

え、どうしよう…怖い怖い怖い。


熊って、ゆっくり目を合わせたまま後ろ向きに下がっていけば、追ってこないんじゃなかったっけ?

そうだよね?そうしよう。

熊の真っ赤な目を見たまま、ゆっくりと後退する。


お?大丈夫そうか…?


「ガアアア!!!」

「ひぃいいいいいい」


襲ってきた。

突進を横に飛びのいて慌ててかわす。

死ぬ!死ぬ!


俺は全力で走る。

後ろから熊が追いかけ始めたような音がする。

振り返る余裕もない、とにかく逃げるんだ。

デカイ図体なら小回りも効かなそうなので、木の間を縫うようにジグザグに走る。

いつ後ろから熊の突進の衝撃が訪れるかとひやひやする


体感的にはかなり走った。

いつもより脚が速い気さえする。

熊の気配がなくなったような気もする。


後ろを振り返ると、静かな森が広がっていた。

…逃げ切ったのか?

とはいえ、怖いからこのまま歩いて熊のいたほうから離れ続ける。


それにしてもなんだったんだあの熊。

目が赤いし不気味だったな…。

あんな種族いたっけ?

目が赤い熊なんて聞いたことないけどな。

ひょっとして、ここやっぱ地球じゃなかったりする?

いや、そんなわけないよな。

きっと目の病気にかかった熊だったんだろ。


喉が乾いたし、腹も減ったので、リュックに入っていたカ○リーメイトと水を摂取する。

てか、4Lもある水を背負って走ってたのに、良く逃げ切れたなおれ…。


栄養の摂取が終わると、またさらにしばらく歩く。

全然水辺の気配がないけど、この辺川あんのかなあ。


1時間くらいは歩いただろうか。

俺は立ち止まった。

疲れたからではない。いや、確かにちょっと疲れてはきたが、それが理由で立ち止まったわけじゃない。

目の前に、赤い果実がなっている木があるからだ。

手に取ってみてみると、思ったより外皮がブヨブヨしていて、見た目はリンゴに似ているが、少し違う感じだ。

食べられるのかな?こんな果物聞いたことないけれど。

そう思って考えていると、茶色い可愛い鳥が飛んできて、この偽リンゴをついばみ始めた。

…。たぶん食べられるだろう。知らんけど。

こういう時に思い切りがいいのが斎藤雄二という男である。

思い切ってかぶりついた。

うわ、まずい。ん?でも少し甘い。

外側のブヨブヨした部分は渋くて、ミカンの皮のような感じだったが、中身は透明でグレープフルーツのようになっておりなんともいえない甘い味がした。

結構いけるな。食料確保じゃないか?これ?


結局3個食べたあと、5個くらいいただいてリュックに詰めて歩き出した。

せっかく食料を見つけたのに、場所も覚えないのは考えなしな気もするが、今は川を見つけて、集落があるところまで下るのが目的である。ここに住むわけではない。

考えても仕方ない。とにかく歩こう。



しばらく歩いた。さっきの偽リンゴでお腹を壊したような様子はない。

どうやら毒はなかったようだ。むしろ体が軽くなったような感じすらする。

いつになったら水辺に着くのだろうか、さっきから水を少しずつ飲んでいるせいで、4Lあった水も3.5Lくらいにまで減ってしまっていた。


焦り始めながら歩いていると、トカゲを見つけた。

オレンジ色のトカゲだ。

腰くらいの高さにある大きめの葉っぱの上で下をチロチロ出している。


すげえ、40cmくらいありそうだ。

こんなトカゲ初めて見たよ。

近づいてみていると、トカゲがこちらを向いた。

黒い瞳が俺を見据える。


「どうした、トカゲ?なんか文句あるか?」


…。

声をかけてみるけど、ガン無視

と思ったら、トカゲが口を開け、何かを吐き出そうとした。

慌てて横にステップする。

ボウッ

トカゲが火を吹いた。


…。

どゆこと?

火を吹いたよねコイツ、あれ?気のせいか?

気のせいだよね。地球にそんなトカゲいないし。


もう一度、近づいてみる。

さっきのは幻だろう…。

するとまた、トカゲが口を開け、息を吸い込むような動作をした。

うわ、やべえ!!今回は避けるよりさきに手が出た。

虫を払いのけるように、トカゲの顔を裏拳でビンタしてしまった。


「グギャア!!」


瞬間、すごい勢いで回転しながらトカゲが吹き飛んだ。

は?弱すぎないかこいつ。そんな力いれてないのに…。


5mくらい吹き飛んだトカゲのところまで行くと、トカゲは首の骨が折れて死んでいるようだった。

殺してしまった。申し訳ない…。

まあ、切り替えよう。今はそんなこと言ってても仕方ない。


それにしても、やっぱりここは地球ではないのだろうか…?

いや、でもその割には俺が問題なく息できるくらい酸素はあるみたいだし、草木も地球にあるのとさほど変わらないし、トカゲや熊も少しは違うけど、大体の姿は地球と同じだ。

うーん。まあ考えても仕方ないか。それにしても、俺の裏拳強すぎないか?あのトカゲがいくら弱かったと言っても、限度ってもんがあるだろう。


…ここが地球じゃなかったらどうしよう。もう二度と家族や友人には会えないのだろうか。

トボトボと歩いていると、そんなマイナス思考ばかりが頭をよぎる。

実はこれはマイナス思考じゃなくて、現実的な思考なのかもしれない。心のどこかではここが地球ではないと認めていて、それを受け止めるのが怖いだけなのかもしれない。地球でない別の惑星で、人間が問題なく活動で来て、他の生命体―しかも地球とほとんど同じ―が住んでいるだなんて、大発見だろう。ここが地球でないのだとしたら、俺は歴史的な発見をしたことになる。世界初だ。世界というか、地球初…。


まあ、誰も知ることはないだろうけど。



駄目だ。辺りも薄暗くなってきたし、後ろ向きなことばかり考えるようになってしまっている。

お前らしくないぞ雄二、しっかりしろ。

そう自分を激励しても、心は晴れない。


今日はもう寝よう。

とはいったものの、どこで寝ればいいのだろうか。

気温が寒くもない温度なのはありがたいが、夜はどうなるのだろうか。今はTシャツとパーカーとジーンズしか持っていない。夜に冷え込むと死んでしまうかもしれない。

というかそもそも、あの熊が襲ってきたらどうするんだ。自分がクマに寝込みを襲われ、体を食いちぎられる姿を想像した。

怖すぎるだろ。


結局、寝やすそうな形の部分がある木を見つけたのでその上で寝ることにした。

高さ3mくらいの位置だ。登れるかなと思ったけど、なんか意外とすぐ登れた。

正直登れない気がしたんだけど、俺ってこんなに木登りうまかったかなあ。

上ではなく横に伸びるタイプの木だったようで、寝れそうなスペースができていた。

枝も柔らかいし、あまり痛くない。ちょっと高いけど落ちても死にはしないだろう。

最高のベッドだ!




いや、正直寝苦しい。身体を相当丸めないと寝れないし。

これ寝るの無理じゃないか?




…と思ったら朝になっていた。こんな体勢でもすぐ眠ってしまうほど疲れていたらしい。

日差しが木々の間から差し込み、鳥の鳴き声もして、良い朝だ。

そういえば昨日は考えなかったけど、太陽は一つなんだな。特に地球の太陽と比べて、違いがあるような感じはしない。

まだここが地球である可能性はある。火を吹くトカゲも、俺が知らないだけで案外上野動物園とかにいるかもしれない。


ふと下を見ると熊がいた。熊がリュックサックに顔を突っ込んでいた。


「え、嘘…」


思わず声を出してしまった。

熊がこっち向いた。

どうやら俺がいるのに今気づいたようで、唸り声をあげながら、木を登ろうと木の幹をひっかき始めた。

だが、うまく登れないようだ。


なんで熊いるんだよやめてくれ本当に。

リュックが落ちてるのは寝てる間に落ちちゃったんだろうか。

考えている暇はない、この赤目熊をなんとかしないといけない。


この赤目熊は昨日のより一回り小さくて、立ち上がってもここまでは届かないようだ。

なーんだ、じゃあ諦めるまで待ってればいいか。


木の上でしばらく待った。

この熊全然諦めないんだけど。


「あっち行けよ。俺食ってもおいしくないぞ!」


熊は相変わらず木を引っかいている。だんだん木の幹が削れてきている気がする。

やばいな…コイツ馬鹿なのかなと思っていると突然、赤目熊はあきらめたように去っていった。

ようやくあきらめたか。

と思ったらこっちに走ってきた。助走をつけて木にタックルするつもりか!?


違かった。

赤目熊はジャンプした。助走をつけて、俺に向かって。

ジャンプで届くのかよ…


「う、うわあ」


避けられない。

とっさに腕で身を守ろうとするも、熊の体当たりをもろに受け、俺は木の上から吹き飛ばされた。


3m近い位置からの落下。

肩から地面にたたきつけられる。


「ぐああ!!」


痛い!が、激痛というほどでもない。

かなり痛いけど。

打ち所が良かったのか?アドレナリンか、とにかく俺は立ち上がることができた。


熊が追撃とばかりに、再び突進してきた。

俺は、それをジャンプしてかわし、空中で体をひねって熊の方を向きながら着地した。





え?ジャンプして躱した!?

いま自分らしくないくらい凄い動きした気がする。


赤目熊が突進の勢いを止め振り返り、また近づいてきた。

怖い。

赤目熊が右前脚でパンチをしてくる。

俺は思わず左手で頭をかばうようにそれを受け止めた。



衝撃で吹き飛ぶかと思ったが、意外と受け止めることができた。

痛いし、それなりのパンチだけど、高校の同級生が殴ってきたらこんな感じだろうって気がする。

とりあえず距離をとろうと思って本能的に赤目熊の腹を右足の裏で蹴り飛ばす。


「ギャオン!?」


衝撃で赤目熊が2mくらい後ずさった。

あれ?なんか、この熊弱い?

そんな予感がして、追撃とばかりに、2、3歩助走をつけて熊の顔に飛び蹴りを放った。

熊の顔にスニーカーがめりこみ、靴底に確かな手ごたえを感じる。

数メートル先まで転がった赤目熊は頭から血を出しながら動かなくなった。


俺が…倒した?


その時、俺、斎藤雄二は自分の身体能力があがっていることに気づいたのだった。


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