宇宙へ
20ⅩⅩ年、ついに宇宙旅行が解禁になった。しかもお値段もわずか30万円!たった30万円で夢の宇宙へと行けるのだ!!
こんなの行くしかねえだろ!!
俺の名前は斎藤雄二、今現在高校三年生。今現在、宇宙にいる。
高校生がこんなことしていていいのかって?
まあ大学も無事推薦で決まり、ちょっと暇になっていたところである。
大学の合格祝いで、今までのお年玉が詰め込まれていた銀行口座が解禁になったので、そいつを利用して一人で宇宙旅行することにしたわけだ。親や親せきは一人で行かせるのは心配したみたいだったけど、結局許してくれた。
地球は青かった。とはよく言ったもので、宇宙から見た地球は非常に美しかった。これからこの宇宙船は、木星のあたりまで行って、帰ってくることになっている。
地球にいたときは怖かったが、今はさほど怖くない。ちゃんと訓練されたJAXAの宇宙飛行士兼乗務員たちが俺たち旅行客を見守ってくれているし、まあ心配などないだろう。
オラワクワクすんぞ!って感じだ。
宇宙王に、俺はなる!
地球を発ってから数日経った。そろそろ木星が近いらしくて、明日には見られるらしい。
宇宙での生活は意外と暇だ、無重力だから面白いんだけど、宇宙食はまずいし、窓から見える景色も暗い宇宙のままさほど変わらない。
そう考えていると、キャビンアテンダント?のお姉さんのアナウンスが響いた。
「ここでお知らせがあります。本日、宇宙船が遊泳しているエリアは、比較的、漂流岩などの物体が少なく、安全と言えるエリアです。そこで、15名様限定ではありますが、一人乗り小型ポットでの宇宙遊泳を許可したいと思います。ご希望のお客様は、10時までに会議スペースまでお集まりください。」
一人乗り小型ポッドでの宇宙遊泳!?絶対に行くしかない。小型ポッドというのは、小さい宇宙船みたいなものだ。
本来は細かい作業をする際に使うらしいが、今回のものはそれを観光用に改造しているらしい。
この宇宙旅行プランでは状況次第で実施されるようだ。この旅行の参加者は約100人くらいだから、希望は殺到するだろうが、15名なら参加するチャンスはあるんじゃないか?
そう考え、雄二は会議スペースへと向かった…。
結論から言おう、俺は15名に選ばれた。希望者は90人もいたが、くじ引きに勝利した。
昔から運のいいタイプではあると自己評価していたが、6分の1のくじ引きも見事突破したようだ。最高の気分である。
小型ポットに乗り込む前に、説明を聞いた。ある程度自由に操縦して動き回っていいが、他のポッドや宇宙船本艦との衝突が予想される場合、あるいは宇宙船本艦から離れすぎた場合は、自動操縦に切り替わり、安全が確保されるまで勝手に移動してくれるらしい。
発進も帰還も自動操縦してくれるらしいので、ほんとにありがたいことである。
「斎藤雄二さーん。搭乗準備完了しました。8番ゲートに向かってください。」
係員に呼ばれ、ゲートへ向かう。
小型ポッドというだけあって、その形状は球体を基本としていた。
申し訳程度に、翼のようなパーツがついている程度である。
ス○-ウォーズのような飛行船を想像していたので、若干残念ではあったが、まあ乗ってしまえば外観なんて関係ない。
まるで遊園地のアトラクションのように、シートベルトの確認などをさせられた後あっさり発進した。
こんな気軽にど素人が宇宙に一人乗りの宇宙船で出られるだなんて、すごい時代になったものである。
「すげえすげええ。」
自動操縦が解除されると、自由に操縦できるようになった。
操縦方法などは、非常に簡略化されていて、必要なのはハンドルとアクセルとブレーキだけであった。
最高の感覚だった。星の瞬く銀河の中を、自分一人が漂っている。
「ん?」
しばらく楽しんでいると、突然操縦が効かなくなった。
「自動操縦モードに切り替わった?」
周りを見ても近くに衝突しそうな他の小型ポッドは見当たらない。ということは母船から離れすぎたんだろうか?
しかし、宇宙船本艦からも離れていくような軌道に進んでいるような気がする…。
「え?故障した?何コレ!?やばいやばい…」
急に怖くなってきた。
ハンドルを回してもブレーキを踏んでも全く止まる気配がない。
ふと、正面に緑色の光が見えた。
どうやらこの小型ポッドはそこに向かってしまっているようだ。
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!』
どうやら明らかに母船から離れているので通信が入ってきたようだ。
「あ!はい!!助けてください!!操縦が効きません!」
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!』
「え、あの、聞こえてます!!」
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!至急戻ってください。自動操縦に切り替わっていないのであれば、左上の赤のボタンを押してください!』
「赤のボタン…」
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!至急戻ってください。自動操縦に切り替わっていないのであれば、左上の赤のボタンを押してください!』
どうやら向こうにこちらの声が聞こえていないようだ。いずれにせよ、このままではヤバい。
雄二は左上にあった赤いボタンを押した。
…が、反応はない。なにも変わっていない。
ふと気づけば、進行方向にある緑の光はどんどん大きくなってきている。どうやら遠くからは緑の光の点にしか見えなかったが、どうやら緑色の光をはなつ渦状のなにかだったようだ。
「ブラックホールみたいだ…」
色は緑だが、その形状は雄二が想像するブラックホールの形に近かった。
どうやら雄二の乗る宇宙船はその中心に吸い込まれていっているようだった。
焦りで呼吸が荒くなる。汗が頬をつたった。
「ど、どうすんだよこれ!?え、え!?やめてくれよ!???」
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!』
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!』
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答願います!』
『八号機に搭乗している斎藤雄二さん!応答ねg 、ッ…』
先ほどから聞こえていた母船からの通信も切れた。
「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
作業用小型ポッド八号機は、なぞの光の渦に吸い込まれ消えた。