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第109親衛空挺師団   作者: 火日精進
プロローグ
8/14

序章⑥

掲載から2年経ち、ここまで進まない作品があっただろうか

スラヴァの軽妙さにすっかりと毒気を抜かれたイヴァンは、もうお手上げとばかりに天を仰いだ。


「いやはや、なんで君らはそんな泰然自若でいられるんや……」


「自主休講という魔法の言葉(マジックワード)を唱えることができる年齢だからっすね」と宣(のたま) うスラヴァに呆れと少しばかりの羨望が混じり合った視線をイヴァンは向けた。


「明日、仕事がある身になってくれへんか。一刻も早くログアウト、即就寝せんと起きられへん」


確かにイヴァンが言っていることは正しく、この事態は明日のニュースの一面に躍り出てもおかしくないことなのだが、ゲームから出られないという現実離れした状況に実感がわかないスラヴァだった。黙っていたスラヴァに代わり、カルシウムが答えた。


「まあ、イヴァンさんが言うように、いくら明日が暇だってこのままログアウトができないのは、まずいですね。とりあえず、サポートと連絡を取って現状を伝えないと」


「それなんやけど、GMコールも機能してないし、俺等だけじゃなくてカルちゃんのも反応してないとなると、これはWoWにいる全員がGMコールを使えん可能性があるな」


イヴァンの推測に想像力を刺激されたのかカルシウムが不安げに言う。


「アップデートの不具合でしょうね。GMコールだけならまだしも、ログアウトできないとなると後々集団訴訟とかに発展しそうで」


「確かにな。ログアウトできない現象が何時間続いているか分からんけど、長引くようなら大問題や。それこそ2,3日、ログアウトできない状態が続くと死人が出てもおかしくないで」


今更になってことの大きさを理解し始めたスラヴァは乾いた笑い声をあげた。

「ははっ、VRで腹上死ならニュースで見たことありますけど、VRで餓死は史上初かもしれないっすね」


ふん尿まみれで餓死している自分の姿を想像してしまったのか、気分が悪そうなスラヴァにイヴァンが訂正を挿む。


「いや、スラちゃん、人間そう簡単に餓死はせんから安心していいで。ただ、水が飲めんかったらすぐに死ぬけどな。水が飲めへんのは相当苦しいぞ」


イヴァンのありがた迷惑な助言に、顔をしかめながらスラヴァはおどけて言った。


「有益な情報ありがとうございます。安心しました。腹が減る前に死ねるなんてね!」


「まあまあ、お二人ともそう悲観的になっても問題が解決する訳でもなし。我々が動けば解決することもない。気長に待ちませんか」


「せやかて、カルちゃん、こんな大事態にただ待っとくなんて性分やないんやわ」


駄々をこねる子供を説得するかのようにスラヴァとカルシウムはイヴァンを諭す。


「まあまあ、動かざること山の如しですよ」


「孫子曰わくっすよ。ここはじっと待ちましょう、イヴァンさん」


いつものように宥めすかされて、ふてぶてしさを残しながらもイヴァンは譲歩するだろうと思っていたスラヴァであったが、イヴァンの表情は以前よりもまして真剣味を帯びたように見えた。


「俺は孫子でもジューコフでもない。机上の空論より実践の人間や。それに動かんと見えんこともある。実際にやってみんと分からんこともある。この状況やって何が切っ掛けで解決するか分からん。第一に、ログアウトできひん状態が俺等だけの問題やったら、大事にせんと目を瞑って、借りは色付けて返してやってナスビさんに言っとけばいいだけや。でも、これがクラン外でも起きてて、全プレイヤーがログアウトできひんのやとすると、WoWだけやなくてVRそのものが問題視されるかもしれへん。でなくとも現状を鑑みたら、WoWは確実にサービス停止になってしまう。クランは解散、ナスビさんやって職を失うことになる。そうなったとき、これをしとけばとか、あれができていればみたいな下らん後悔をするのは性に合わん。だから今できることを全力でやるべきやないんか」


初めはいつにないイヴァンの様子に驚いたものの、スラヴァは先ほどの態度を反省し始めていた。それはカルシウムも同じだったようで2人の視線が交錯した。


「確かにそうっすね。いやあ、ちょっと受動的すぎだったのかもしれないっすね。我ら第109親衛空挺師団、«達成できぬ任務はない!»」


「その意気や、スラちゃん!」


「しゃあああああ、やるっすよおおおお」


「うおおおおおおお」


先ほどの空気は何処へやら、異様にテンションが上がった2人を見て、カルシウムが闊達に笑った。


「ははは、お二人は本当に仲がいいですね。三人集まれば文殊の知恵と言いますし、私も仲間に加えてください」


「きび団子はやらへんぞ、カルちゃん」


「お代はナスビさんからいただきます」


悪童のようにイヴァンはにやりと笑い言った。


「なら結構。そしたら、行動すると決まったわけや。だが、あいにくとVR技術には疎くてなあ」


「右に同じっすねえ。まあ、イヴァンさんが何も知らなかったってことは、行動しようって言い出した時から、そうじゃないかって感づいていたんですけどね……」


「私も文系学生なのでVR技術は全くの門外漢なんですが、ピランデッロさんなら詳しいんじゃないですか」


「ああ、あの兵器オタクの」


「え……誰なん、知らへんのやけど。うちのクラメンなんか」


「ええ、そうです。いつも開発局にいますから、ログインしていたらそこにいますよ」


「なんで開発局なんかにおるんや。青写真ぐらいしかないやろ、あそこ」


「だからなんっすよ、イヴァンさん」


「彼は根っからの兵器オタク、それも多砲塔戦車オタクなんです。それで、日夜それの開発に勤しんでいる訳で」


「多砲塔戦車って、まあ、うちらのクランは空挺にスタッツを極振りで、戦車とか艦船とかの技術が遅れてるっても、そんな旧世代の遺物が役に立つことなんてないやろ。それにAIが勝手に現実にある兵器を自動で再研究(・・・)してくれるのに」


「まあ、彼がしているのは厳密に言えば、改造ですね。既存の戦車を多砲塔に魔改造できるから、このゲームを初めたって言っていましたね。まあ、彼の場合は一点ものが多くて、兵器というよりは芸術品ですよ」


イヴァンは手を顔に当ててため息をついた。


「なんでこのクランには変人しかおらへんのや……」



次回の投稿は7月以降になります

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