序章③
怒涛の更新ラッシュ
『航空基地』は『総司令部』から2区画超えたところにあり、車で20分ほどの距離である。目新しさもない、見慣れた道中の光景であったが、スラヴァはこの道が好きであった。デイリーミッションから敵クラン拠点襲撃作戦など規模の大きさはあれ、この道を通ると自然と作戦前の緊張感とも高揚感ともつかぬ感情が湧いてくる。正面の『航空基地』のメインゲートをくぐると、4本の滑走路と幾つものハンガーが見えてくる。
「イヴァン大佐、スラヴァ少佐、ハンガー1に到着しました」
「ご苦労。別命あるまで、待機」
「了解であります」
「ほな、スラちゃん行こか」
「うげぇ~」
1人は陽気に、もう1人は足取り重くハンガー1に入っていった。バンカー1には、Су-27(Su-27フランカー)が4機収納されており、その内の1機の周りで作業服きた整備兵たちが何か作業をしていた。スラヴァは改めてWoWの作り込みの細かさに感動を覚えつつ、目的の人物を探そうと辺りに目を向けた。
「見当たらないっすね」
「ありゃ、おらんな。カルちゃんなら、ここにいると思ったんやけど」
「カルシウム大佐なら、アラートハンガーにおられますよ」
突然、整備兵の1人が声を掛けてきたことにイヴァンとスラヴァは驚いた。
「おう、そうなんか。おおきに」
アラートハンガーの方に歩き出した2人であったが、2人が2人共どこか腑に落ちないといった表情を浮かべていた。
「スラちゃん、あの人、新たしいクラメンかな」
「あ、イヴァンさんも同じことを考えていたっすか。僕、てっきりイヴァンさんの知り合いかなって」
ばつの悪そうな顔をスラヴァに向けてイヴァンは言った。
「いや、ちゃうちゃう。降下作戦を一緒にするクラメンは覚えとるけど、戦闘機乗りのクラメンとはカルちゃんを除いて、あんまり話さんからなあ。あんまり、顔を覚えてないねん」
「まあ、僕も飛行機乗りの人とは同じクランですけど、接点ないですからねえ」
「あいつらコウモリみたいにクランを変えるからな~、あんまり覚える気せんのやわ」
「まあ、ヘッドハンティングなら仕方ないっすけどねえ」
「その点、カルちゃんは信用できるわ」
イヴァンのカルシウムへの評価に賛同しかねるスラヴァは適当に相槌を打つことにした。
「そうかもしれないっすね~」
そんなスラヴァの気の抜けた返事にイヴァンが噛み付く。
「なんや、まだ、決心ついてないんか」
「いや、まあ……」
イヴァンは初期メンバーの一人でもあるカルシウムを心の奥底から嫌っているのではないと知っていたが、これまでその理由を尋ねたはなかった。クラメンの不和はクラン崩壊の序曲と言ってたクラマスのなすびの顔が浮かんだ。
「煮え切らんなあ。カルちゃんの何処が嫌なん。優秀な戦闘機乗りやし、クラン創設からのメンバーやんけ」
「あの人の戦闘機乗りとしての腕も空戦の司令塔としての判断力も信用してるんですけど、やっぱ、僕はあの人の趣味が駄目っすね」
「なんや、航空団のNPC操縦士を全員女性にしてることか」
「そこなんっすよね。なんかキモくないですか、女性を囲ってウハウハみたいな」
「英雄、色を好むと言うしなあ」
スラヴァはイヴァンに軽蔑の眼差しを向けながら言った。
「イヴァンさん、戦場の雰囲気に拘るんじゃなかったんすか……」
これ以上の舌戦は形勢不利であるとみたイヴァンは話題を素早く逸らすことにした。
「スラちゃん、まあ、細かいことは気にしなさんな。お!ハンガーの入り口が見えてきたで!」
ロシア軍の管轄が分からん。
多分、輸送機すら空軍の管轄?
詳しい人がいたら、参考文献なりURLなり、教えてもらえると助かります。