序章⑪
短め
「まあ、ログアウトする方法も分かったことやし、明日も早いからここで落ちますわ」
そう言って、イヴァンは目をつぶり現実の体を動かそうと力を込めた。
「ふぬぬぬぐんぬぬ!!!!!」
しかめっ面で現実世界の体を必死に動かそうとするイヴァンを見て、ピランデッロは快活に笑った。
「はは、イヴァンさん、そんなに力まなくても直ぐに同期不順は起こりますよ。ほら、もう現実の手は動くでしょ」
イヴァンは顔をしかめて首を横に振った。
「いや、ちっとも動かん」
イヴァンの不機嫌そうな顔を見つめて、ピランデッロは訝しげに言った。
「そんなはずはありません。意図的に現実への出力を始めれば、個人差はあれど0.6秒以内に同期不順が生じるというのが研究で明らかになっています」
再びイヴァンが現実の身体を動かそうとするが、同期不順が生じた様子はなかった。
「イヴァンさんは、不器用っすからねえ。まあ、僕が先にログアウトしてイヴァンさんの家族に連絡して直接コネクターを抜いてもらいますよ」
「同期不順が起きない人がいるとは……。これまでの研究を覆すことになりますよ。是非ともイヴァンさんには、実験体として研究に参加していただかなければ。連絡先を教えていただけますか」
スラヴァとピランデッロの心無い言葉に不機嫌そうなイヴァンが苛立ちを隠さずに唸った。
「俺は要介護老人でもモルモットでもないぞ」
この4人の中で最もイヴァンと付き合いが長いスラヴァは、イヴァンの不平にも取り合うことなく、同期不順を起こそうと力を入れた。
「まあ、まあ。それでは皆さん、お先にっす!ほおおおおお!!」