表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

五百文字の小説

君の知らない場所

作者: 銭屋龍一

 テレビの画面を眺めながら、機械的にポテトチップスを口に運んでいた息子の手が急に止まった。私は鼓動が早まっていくのをはっきりと感じた。

 気配を殺して妻の顔を盗み見ると、目をみひらき息子を凝視する顔がそこにあった。

「ねぇ、僕、ここに行ったことがあるように思うんだけど」

 息子はテレビの画面を指差し、私と妻を交互に見やった。その目は真剣だった。

「気のせいよ。卓ちゃんはあそこに行ったことはないわ」

 あわてて作り笑いで言ったものの妻の顔はあきらかに強張っていた。

 あそこ……。妻もやはり忘れようのない場所なのだ。

「きれいな場所なのにママは嫌いなんだね」

 息子は目を伏せると、手にしたままだったポテトチップスをカリッと噛んだ。そしてそのままの姿勢で、

「ねぇ、パパとママ、本当に別れちゃうの」

 と呟いた。

 妻はテレビのリモコンに伸ばしかけた手を止めた。

 私は息苦しさを覚えながらテレビの画面に目をやった。

 私が妻にプロポーズをしたときと少しも変わらない風景がテレビの中で揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ