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4:想起(B面)

 大体からいって、本当のお父さんお母さんでないことぐらい分かっていた。

おそらく、仏壇に写真のあるあの女の子がそうなんじゃないか、ぐらいは。薄々と。

けれども、気軽に話題にしてはいけないことぐらい知っているし、愉快な話でないのもわかっているので、気付かないふりをしてただけだし。


 中学卒業と同時に、昔、お父さんとお母さんが住んでいたという家に戻ることになって、正直わくわくしてた。一度引っ越しっていうものをやってみたかったんだ、違う町に住むのも楽しみだ。

 それに、昔住んでいたと言うことは、もしかしてあの写真の子について知る手がかりが残っているのではないかな、っていう期待もあったんだ。そこは持ち家で、お父さんの引っ越しで離れただけだって聞いていたから、きっと何かしら残ってる。


 そうしたら案の定、小さな部屋の片隅に机や椅子がひっそりと置いてあって、中から昔の教科書や写真が出てくる出てくる。宝探しみたいじゃない?


 早速、日記を読んでみた。

 え~と、「俊君とつきあい始めて1年、もー一年vはや~!高校も一緒のとこにしたいなぁ~♪勉強教えてもらう約束して―(プライバシーの観点より略)―」

 

 ・・・なんだろう、この浮かれっぷりは。読んでいるこっちが恥ずかしくなる。

 プライバシー以前に、恋愛まっただ中の日記ってこんなにハイなのか・・・最初の方しかまともな事かいてないじゃん。全部読んだけど。


 お、プリクラ手帳っと・・・おお、この人か。もうウザいくらいハートフレームばっかじゃん。これが俊君、へぇ。あ、年賀状も出てきた。ふぅん・・・。春木 俊・・・ね。


 段々、興味がわいてくる。


 どんなおじいちゃん・おばあちゃんで、どんな所に住んでいるのか、好奇心で家の前まで行ってみた。丁度、家から誰かが出てくる・・・あれが・・・俊、さん?お父さん?すっごい偶然!すっごい奇跡!


 そのまま後をつけたのも好奇心。どこに住んでいるのか知りたかったから。だって、この機会を逃したら一生会えない気がしたんだもの。別に名乗り出るつもりはない。だからいいでしょう、このくらい。


 家を知った。地下鉄の最寄り駅も。朝、どこで降りるのか。会社はどこか。



 でも、どんな彼女か、までは知りたくなかった。



 ああ、仲良く歩いて行く。どんどん遠くに。


 私はいないことになっている。だから、お父さんと、これから先もずっとずっと、あんな風に一緒に歩くこともできないし、話だってできない。・・・いや、赤の他人としてなら2~3言話せるかな。


 けど、一応血の繋がった親と子でしょ・・・そんなのってなくない?!しかも、そういうので悩んでいるのってこちらだけ。向こうはちっとも気にしない。向こうにだって関係あることなのに。




 だから 私の存在を教えてやった。



 皆に、みぃんなに!



 後悔はしていない。




 

 「椿、お前やっぱ何かしたろ。」

 「なんの話でしょうか?お兄様?」


 家に戻ってから、兄きがずっと私の部屋に居座っている。

ま、兄と言っても双子だから、こっちが姉名乗ってもいいようなもんだけど・・・それよりさっさと自分の部屋に戻ればいいのに。PCでもいじってればいいのよ。


 「ふぅん。ま、いいけど。また今度来るって言ってたぞ。オレさ、焼肉おごってもらう約束したんだ~。」

 「え、焼肉?!ずるい!なんで兄きだけっ!」

 「だってお前いなかったし・・・向こうも子どもはオレ一人だと思ってたみたいだし。ま、今回はあきらめるのだな。」

 「んなワケないでしょー!!だって散々存在をアピィ・・・」


 あ!


 「何かやったな?」


 兄きが、してやったりの表情でこちらを見ている。

 くそぅ、肉につられた・・・!!よく会話を考えれば、つられるはずのない所を。


 「・・・だってさ、なんかむかつくじゃない。私たち、いるのにさ。普通の生活送っちゃって。だから存在アピールしました。いいじゃん別に。ちょっとは罰の悪い思いしたっていいでしょ。」


 逆切れも想定内なのだろう、何気にしてんのばりに、軽くいなす。


 「そんなこと言ったって、知らなかったんだろ?しゃーないだろ普通に生活するよ、そりゃ。それに日記見る限りだと、ミチル母さんが勝手に産んだみたいだし。」


 「・・・何ソレ、他人事?」

 勝手に産んだって・・・思った以上に冷たい声が出た。なんという物言いだ。


 兄きは、ちょっと考えて


 「ん、まぁね。オレ的には、本当の親がどうとかっていうのは激しくどうでもいいもん。それにさぁ、世の中にはちゃんと育てる人と育てられない人の2種類がいるけど、多分、あのまま結婚してたらさ、ちゃんと育てられないグループに入ってたんじゃね?あの2人。」


 …言いやがった!


 「ふん、そんなことないよ!大体、お母さんが産むって頑張ってくれたから、今ここに私達いるんでしょ?だったら、ちゃんとやってくれたに決まってる。お母さんがあきらめてたらどうなってたと思ってんの!」


 「そうだなー。そうなったら、今のオレはいなかったなー。でもさ、別のどこかで生きてたかもしれないだろ?アメリカとかでジョニーとして人生やってたかもしれないし。あ、まて、やっぱマイクがいいな。ジョニーだとちょっとチャラっぽいじゃん?」


 なんでもいいよ。・・・ったく、この人と話していると、微妙に話が軽くなる。おまけに早口だから、反論しようと思ってもタイミングがつかめなくて、そのうち内容をわすれちゃうのだ。


 もういいや、相手しない。


 「とりあえずブッチャー、話は終わり。さっさと部屋に帰れ、この馬鹿。」

 「ブッチャーはないだろ、マイクだって!・・・まぁいいけどさぁ。椿、お前、会って話したんだろ?」


 私が特に返事をしないのを見て、ちょっといらついたらしい。兄きは、いつも以上に早口でまくしたてた。


 「オレだって言いたいことあるよ?そりゃ。お前だけじゃない、オレの親でもあんだから。でもさ、言ったところで状況変わんねーじゃん。ぜってぇ良い方になんて変わんねーだろ。もし、本当の親父が結婚してたらどうする?オレらのせいでぶち壊すのか?

 ・・・オレはやだね。ただでさえ、良いイメージなんかないのに、更に疎まれんの。」


 「だって、ホントの親じゃない。私は、私はいるって伝えたかっただけ。それだけでしょ。それでどうなろうと関係ない、それは向こうの話でしょ。」


 兄きはずるい。悪者になりたくないから行動起こさないだけなのに、それを正しいと思っている。子どもは親に会う権利はあるはずだし、それに文句を言われる筋合いはないはずだ。


 「本当の親父かもしれないけど、オレたちにはさ、そいつの生活を変える権利はないと思う。誰もいねーんだよ、人の生活変えていい奴なんて。」


 「私達はいいじゃん、関係者なんだから。なんでダメなのさ!」


 「最初に、当事者同士で結論だしていたから。

 オレ達がどう思おうと、それで話はついていた。だから、母さんだって、産むことになった時もミチル母さんが死んだ時も、ずっと、相手に知らせなかったんだと思うぞ。」


 お母さんを盾に出してきたか…。

 納得できないけれど、特に反論も思いつかない。頭の回転が鈍いとこういう時、損だ。


 でも、それじゃぁ、私はなんなの?


 まるで、不幸の元みたいじゃん。会おうと思っちゃいけなかったっての?

おとなしく、影に隠れて生きていろってわけ?そんなのってない。


 「別にお前が悪いって言ってねーかんな。じゃ、マットさん行くわ。よーく考えなさい。」


 マイクじゃなかったのかよっ!


 ・・・ついつい、反射でツッコミを入れる私を尻目に、兄きは部屋を出て行った。



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