3:深甚(B面)
私は、アパートの玄関前で考え込んでいた。
あの彼女がここに住んでいるのは間違いない。だって、あの後こっそり、つけてたんだもん。その辺はぬかりない。
でも・・・何号室なんだろう?
そう、インターホンは部屋番号を入力するタイプ。まぁ、6件しか入っていないから、片端から押しまくれば当たりは出るだろうけれど・・・そんなところで目立ちたくもない。
一応は怪しい行動しているという認識はあるのだ。
私は仕方なく道路の反対側へ回って、そこから出入り口を見張ることにした。
いつかは出てくるだろう。今日は無理でも明日とか。
なんたって土曜日だもん、彼と出かけたりするんじゃない?
・・・あーそっか、喧嘩になっていなければ、だけど。どうなったのかな。
30分ぐらい粘っていると、この前とは違ってラフな格好で目的の人物が出てきた。私はいそいそと近づいて声を掛ける。
「こんにちは。」
「あ、一昨日の。こんにちは。」
相手は、すぐ私だと分かったらしい。それほど警戒心もなく接してくれる。
やっぱり私のこと覚えてたか。ああいった印象深い登場だと、意外と記憶に残っているもんだよね・・・なにより3日前ってこともあるけれど。
「この前はごめんなさい、邪魔しちゃって。」
私は精一杯、かわいらしい年下の少女を演じる。控えめで、かつ行動力があって、憎めない・・・。
「特に気にしてないから、大丈夫。わざわざありがとうね。家、この辺なんだ?」
「ううん、違うの。けど、偶然おねぇさん見かけたから、どうしても伝えておこうと思って・・・。」
「何?」
彼女はにっこり笑って首をかしげる。私はその表情をよく覚えながら、セリフを口にした。
「あの時、パパはしらんふりしてたけど、本当はちゃんと知ってるの。」
「俊と知り合いだったの?」
「だって私のパパだもん。これ本当。今まであんたに黙ってたんでしょ?ひっどいよねぇ。信用おけないっていうか。別れた方が良いんじゃない?」
あ、言葉遣い悪くなっちゃった・・・。
「・・・本当 ?」
そんな私の口の悪さに気付かないのか、彼女の表情が少し硬くなっている。
長年(かどうかは知らないけど)の恋人と、素直で嘘のつかなそうな少女。どちらの方を信じるのか?面白いなぁ。
さて、何て言ってやろうかな?
♪♪おぉ~~~ぃ はに・・・ ピッ
私は大慌てで音を止めた。な・・・何だぁ、今の着信はっ!!
おそるおそる、目の前の彼女の様子を覗うと、キョトンとした顔がみるみる弛んでいく。
「・・・はに丸?・・・なつかしー。」
くああっ恥ずかしー!!!
携帯蓋上のメッセージウィンドウには『メール:兄』と表示されている。
あーのーやーろー!また人の携帯の着信音を勝手にいじったなっ!!
私は頭の中で兄の顔をボコボコにしながら、携帯を開いた。顔が真っ赤になっているかもしれない。でも無理もないでしょ、せっかく緊迫感漂う良い感じだったのに。
『件名:』
『知らん男の人が来て母さんと話してるぞ。お前何かしたんじゃないの(・ε・)ン?』
ふぅん、俊さんは気がついたわけだ。
意外と早かったなぁ。ていうか、顔文字むかつく・・・。
「と、とにかくっ、そういうことだから、よーく考えた方がいいよっ!」
とりあえず撤収だ。なんか気がそがれた。
私は、彼女の方を振り向きもしないで走り出した。まったくもう、兄きの奴!!