2:心当て(B面)
次の日、私は学校を休んだ。ずる休みだ。お母さんには悪いけど、一度思いついてしまうとどうしても止められなかった。
家から大体30分ぐらい離れたところにある住宅地。この辺は昔、分譲住宅として一気に家が建ち並んだそうだ。ピンク・茶色・ブルーに薄緑。壁の色は違うけど、外から見る建物は似たり寄ったりであまり面白い景観じゃない。
私はぶらぶら歩いて、目的の家の前まで辿り着いた。
先週、この家の前で、彼に出会った(というか見かけた)のだ。
表札確認。「春木」。よし。私はドキドキしながらインターホンを押す。
ピンポーン・・・
『はい?』
「ごめんください。
私、俊さんの知り合いの者なんですけど、お話ししたいことが・・・。」
丁寧に挨拶すると、やがて玄関をあけてくれた。小綺麗なおばさんだ。3時にお茶とかしてそうな感じ。私を見るとやさしく微笑んでくれた。いい人。
「あら、俊にしてはずいぶんと若い知り合いねぇ。それで、お話って?」
私は、かしこまったお役人みたいに、やや顔を下向きにして声を出す。
「実はお孫さんのことで・・・。」
「え、まさか、私に孫なんていないわよ?」
声はそのまま穏やかだけど、あまりにも突然だったので疑惑と驚愕が顔に出ている。うーん、良い反応だ。私はとびっきりの笑顔を向ける。
「だと思った。それ、私なんだ。あなたの孫。」
おばさんは更に混乱したようだ。私は考える暇を与えないように話し続ける。
「今までいなかった私だけど、もういるって分かったよね?おばぁちゃん」
「おば・・・。」
「今日は、挨拶に寄っただけなの。近いうちにまたお邪魔するね。」
そうして最後ははっきりと言ってやった。
「俊 パ パ と 一 緒 に 。」
言葉が出ないでいるおばさんに丁寧にお辞儀をして、私はそそくさと立ち去った。こういう時は、長々と話をしていてはダメ。短ければ短いほど印象に残る。それが思いもしない言葉ならなおさら・・・。
ふふん、きっと、あのおばさんは慌てて彼に電話するに違いない。
なんて言うのかなぁ?“あなた隠し子でもいるの?!”うーん、これはありきたりか。
今日は、かわいめの服を着てみたんだよねぇ。髪だって巻いてきたし。だから“今日、女の子が孫ですってやってきたのよ、かわいい子だったわ~”とかだったら嬉しいかな。ありえないけど。
それに彼はなんて答えるんだろう?
ちょっとした騒動になるかしらん?
クスクスクス・・・。