1:視線(B面)
人の後を付けるには、ターゲットの足を見るようにして進むと良いらしい。そうすると、上半身を見るよりもバレにくいそうで・・・
とはいうものの、載っていたのは雑学本だから、本当の探偵がそう行動しているのかどうかは知らない。
いずれにせよ、私は足下を見るつもりなんてまったくなかった。
少しの表情の違いも逃したくなかったし、目に焼き付けておきたかったから。
そう、昨日偶然見つけたのだもの。もっと彼のことを知らなくちゃ。
どんな服を着て出勤し、どこで降りるのか。
どんな会社に勤めているのか。
3日目に至っては、部活を早めに切り上げてまで、会社から彼が出てくるのを待っていた。
通っている高校がすぐ近くなのも幸いしてたかもしれない。だってそうでもなかったら、こんなに集中して行動することなんてできなかっただろうから。
些細なことでも知りたい。彼に関することならば。好奇心のなせる技。
だけど、どんな彼女か、までは知りたくなかった。
考えてみれば、いてもおかしくないけどね。大人なんだから。
だけど、どこかでちょっと願っていたのだ。
いまだ恋人無しで、会社が終わればさっさと家に帰るか、どこかで外食するか。そんな生活であればいいと。本人は味気ない毎日かもしれないが、私的には大いに満足だったのに。
2人は仲良さそうに、ゆっくりと歩き出す。私もあわてて後を追う。
そのままつけていこうかと思っていたけれど、段々腹が立ってきた。この私がいるのに、こんな女の人となんかと・・・。
知らず、早足になって、私は2人の前に立ちふさがった。
「デート?かわいいじゃん。今度私にも紹介してよ。」
ごく自然に口から出る言葉。彼と彼女は怪訝な顔をして私を見ている。
そりゃそうだよね。私だって同じ立場ならそうなるよ。初対面の人間がいきなり友達みたいな話し方でせまってくるんだもん。私なら、無視するか、罵詈雑言浴びせて逃げるかどっちかだ。
「…?誰かと間違ってない?」
戸惑って、けれど、相手を傷つけないようにやさしく問い返す彼。
相手ってのは、つまり私で、話しかけてくれるってことは、今、私の顔を見ているわけで。真っ正面から見つめてくれることなんて、永遠にないだろうなと思っていた願望が、今叶ったわけだ。
これは、うれしい。
うれしい!
「やだ、何言ってんのぉ?」
私は、これを機会にと、さらに相手に自分を植え付ける言葉を探す。
そうだなぁ、これを言ったら彼どうするだろう?彼女と喧嘩になるかな?
「パ~パ☆」
その瞬間、彼女の顔が引きつるのが見えた。彼は私をじっと見つめている。気味が悪そうな目で、かすかな恐怖がにじんだ目で、まだ言われた言葉を理解できていない目で、私を見ている!!
うふふ・・・面白い。
できるだけバレないようにすることなんて、私の頭からすっかり消えてしまった。