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君がいない一日は約333時間。

作者: きつつき
掲載日:2026/06/22

楽しい時間は早く過ぎ、楽しくない時間は遅く過ぎる。これは人間の心理であり、科学的にも説明できる現象だ。


高校の四限目が終わり、昼休みに入ろうとする時間だった。今日の昼休みは、いつもとは比べものにならないほど特別な時間になる。


理由は今朝の下駄箱にあった。


そこには意味ありげな手紙が入っていたのだ。いわゆるラブレターというやつだろうか。もちろん、そんな経験は今まで一度もない。楽しみで仕方がなかった。こうして期待に胸を膨らませている時間でさえ、あっという間に過ぎていくように感じた。いつもより何倍も速く時計の針が回っているように見えた。


手紙には、いかにも女子高生らしい丸みを帯びた文字で、


「中庭のベンチに来てください」


とだけ書かれていた。


勇気を振り絞って書いたのだろうか。紙にはうっすらと手汗の跡が残っていた。まだ跡が消えていないということは、ついさっきまでこの手紙を握りしめて迷っていたのかもしれない。そんな光景まで鮮明に想像できてしまった。


そして、指示されたとおりに中庭へやって来た。


まだ相手の姿はない。


それなのに、腕時計の秒針はいつもよりずっとゆっくり進んでいるように感じた。


五分ほど経った頃、その人は現れた。


本当に驚いた。


目の前にいたのは、容姿端麗なクラスメイトの女子だった。


名前くらいは知っている。月留美緒。


今まで一度も話したことはないし、目が合った記憶すらない。だからこそ、ひどく緊張した。


――いや、待て。


冷静になれ。


目の前に月留さんがいるからといって、この人が手紙を書いた本人だと決めつけるのは早計だ。


俺は勇気を振り絞って尋ねた。


「これを書いたの、月留さん?」


月留さんは口元に笑みを浮かべ、少し上目遣いになりながら答えた。


「大正解」


その瞬間、不思議と緊張も動悸も消えていた。


きっと、うれしいという感情がほかのすべての感情を押しのけてしまったのだろう。


これまで青春なんて自分には無縁だと思っていた。毎日を適当に過ごしていくものだと考えていた。


なのに、この瞬間だけで世界がひっくり返ったような気がした。


月留さんは少しだけ首をかしげながら続ける。


「返事は?」


それはきっと告白だった。


ラブコメ漫画は好きだから、こういう場面での返事のパターンくらい頭の中にいくらでもあるはずだった。


なのに、口を開いても声が出ない。


焦りながら、ようやく言葉を絞り出した。


「よろしく」


言ったあとで思う。


――これ、どの漫画で見た返事だったっけ。


そんなことを考えている自分が少しおかしかった。


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