第一話 種の芽吹き
――どうしてこうなった。
目の前には、銀色の鎧をまとった兵士たち。
白い石畳の上で、私たちは完全に包囲されていた。
槍の穂先が、まっすぐこちらへ向けられている。
周囲には村人たちが集まり
ざわめきは小さいが、その視線には明確な敵意がある。
……そもそも。
どうして、こんなことになったのか。
なぜ、ここにいるのか。
原因は数時間前のあの発言までさかのぼる。
――――――――――
この世界は"崩壊"とよばれる現象によって、生存領域が限られた世界だ。
崩壊が起こると、黒く変色し地盤がもろくなり、人が住めなくなる。
そのため人間は崩壊が進んでいない土地を囲むように生きている。
七つの区。
中心にあるのが心区。
そしてその周囲を、六つの区が囲んでいる。
それぞれの区は役割を持ち、
人類は互いに支え合いながらこの世界を維持している。
そしてもっとも大事なのが、世界に12個しか存在しない「開花の種」。
無限のエネルギーを放出しており、そのエネルギーは加工可能。
それ加え「開花の種」は、常識を超えた力を持つ。
人間が命の危機に瀕した時に、「開花」と呼ばれる現象で覚醒することがある
身体能力。
思考。
あるいは、常識では説明できない能力が生まれる。
それを作り出しているのが「開花の種」と言われている。
その開花現象を人工的に行おうとしている場所、それが
学校。
私は、その学校の職員の一人だ。
今は研修という立場で授業を受けている。
先生「⋯ことです。庭師さん?話を聞いてますか?」
庭師「あ、あぁ」
私はゆっくり頷く
庭師、これが私の名前だ
教室で数時間の授業を、毎日繰り返し受けている
先生「では今日の授業はここまでにしましょうか」
先生は黒板の文字を消しながら話す
先生「庭師さん、今日の授業はどうでしたか?」
庭師「ふむ、相も変わらず分かりやすかったぞ。やはり、知らないことを知るのは楽しいな」
先生「いえいえ、あなたの直感と着想が素晴らしいんですよ。その感覚を忘れては行けませんよ」
先生は黒板を消し終わり、ゆっくりこっちへ振り向く
いつもならすぐに解散なのだが
今日は少し違うようだ。
先生「さて、勘のいいあなたならもう気づくでしょう。授業が全て終わりました。」
授業が、終わった
あの言い方だと、次のステージあるのだろう
先生「ここで二択を選ぶ権利があります。一つは課外授業、つまり遠足に行ってもらいます。もう一つは私と特別授業してもらいます。私としては特別授業のほうが嬉しいんですけどね」
庭師「遠足か授業⋯」
遠足で何をするのかは分からない
ただ、この変化がない教室にも飽きてきたところだ
もちろんここは、
庭師「遠足」
先生「でしょうね、分かっていました」
先生はうっすら笑みを浮かべる
先生「では本部に伝えておきますので。…後から変更はダメですよ」
庭師「無論だ」
研究員が先生に耳打ちをする
先生「もうそんな時間ですか。では、解散といたします」
庭師「そうか、ではな」
先生「ええ、もし辛くなったら私のところへ逃げ帰っても構いませんよ」
庭師「ふむ、そんなことはありえんと伝えておこう」
私は窓付近の椅子に腰を掛ける。
その瞬間、自宅の椅子の座っているのだ。
最初は驚いたが、これは「能力」によるものらしい。
能力:
開花した者の中には、特殊な力を得る者がいる。
生存本能が刺激されたとき、心の奥にある「願い」や「生き方」が形となって現れる現象。
私の自宅は街はずれにある。
区の中心にある巨塔も、企業の本部も見えない場所。
舗道は途中で途切れており、土の匂いが強い。
私は気分転換に庭に出て、育てている植物を見る。
この庭の花は、ほとんど咲いていない。
私は、水をやる。
土をならし、枯れた葉を取り除く。
日記をつける。
何が咲かなかったか。
何が枯れずに残ったか。
——今日も、また何も変わらない。
庭から自身の部屋に戻り、本を読む。
そうして、私の一日が終わる。
――――――――――
学校のとある部屋
研究員「アフラ先生、本当によろしいのですか?あれはまだ不安定じゃ」
先生「ふむ、君は何か勘違いしているようだ。庭師は洞察力、思考力ともに人間を超えている。それに生物の特有の欲求が必要ないんだ」
研究員「ですからって、身体能力も未完全ですし」
先生「大丈夫だよ、信じてあげるのが大事なんだ。それに、庭師には"あの子"がついているからね」
――――――――――
次の日、授業時間の始まる十分前に準備をし、
教室へ向かうための椅子に座る。
だが、移動しない。
昨日の先生から放たれた言葉
「遠足」
が関係しているのだろう
そのときだった
庭から足音が、重なって聞こえた。
一人ではない。
複数。
ばらばらなリズム。
振り返ると、庭の端に人影があった。
驚きはしたが、慌てるほどではない。
十人ほど。
年齢も、背丈も、雰囲気も違う。
共通しているのは、同じ服を着ていることだけ。
誰だろう。
そう思うより先に、背後から声がした。
職員「……ここが、集合場所だ」
声に温度がない。
先生と同じ学校の職員の一人だろう。
職員「庭師さん、到着を確認しました。開花の種探索遠征。あなたには管理役として同行していただきます」
遠征。
管理役。
何のことか、よくわからない。
遠足にしては何かがおかしい。
職員の後ろにいる十人は、私を見ようとしなかった。
視線を合わそうとすると、逸らされる。
最初から、いないもののように扱われる。
その中で、一人だけ。
まっすぐこちらへ歩いてくる影があった。
赤みの強いレッドブラウンの髪。
制服の着こなしは完璧。
年齢は18歳くらいだろうか。
???A「あなたが……庭師?ですか?」
張りのある声で、急に顔を近づけられる。
驚きのあまり小さく頷くことしかできなかった。
少女は、ほっとしたように息を吐く。
???A「……よかった、危ない人かと思ったよー」
背後から、吹き出す声がした。
???B「やばいヤツかと思ってたのに、普通じゃん」
笑ったのは、酒瓶を飲んでいる少女だ。
こちらを値踏みするように見て、興味を失ったように背を向けて言う。
???B「じゃ、行こ。立ってるのもだるいし」
それを合図にしたかのように、生徒たちが動き出す。
おびえる者。
無言で歩く者。
苛立ったように地面を蹴る者。
多種多様といえばこのことだろう。
???A「ねね!みんな待ってるからさ、早くいこ!」
返事ができなかった。
職員「詳しくは、バス内で説明します。移動中、体調に問題があればすぐ申告してください」
その言葉に、生徒の誰かが小さく笑った。
皆に合わせて、バスに乗る。
中を見ると驚いたことに教室だった。
昨日まで授業をしていたはずの教室が目の前にある。
職員「着席」
その一言で先ほどまで話し合っていた人たちは席に座る。
縦に二列、横に五個ずつ椅子と机が置いてある
その一番後ろにぽつんと椅子がある
ここが私の席なんだろう、多少不貞腐れながらもそこに座った。
職員「出席、一番メロディア・ノロジー」
メロディア「は、はい…」
おどおどしている少女が手を上げる
職員「出席、二番レアンス・クアレブル」
レアンス「はい」
きりっとした声が教室を響く
教室内は私を含め、十二人
一人は職員
つまり、私が管理するのは残りの十人だろうか
職員「出席、三番マリア」
マリア「はーい」
先ほどお酒を飲んでいた少女だ
今は飲むのをやめているが、顔は赤い
気になっているのことは生徒のうち複数が武器を持っていること
遠征と言っていたように、戦いが想定されている?
職員「…理役、庭師さん。…庭師さん返事をしろ!!」
庭師「あぁ、すまない」
そうか、私も呼ばれるのか悪いことをしてしまった。
メラトス「俺の名前はメラトス。今回の遠征の補助係として任命された。一応、先生として配属されているから質問があったら聞くといい」
ルーティル「はいはーい!!早速質問!!」
メラトス「えーっと、五番のルーティル・コミメットか。なんだ?」
さきほど、話しかけてきた赤髪の少女だ。
ルーティル「遠征の目的ってなんですか?」
メラトス「ああ、今から言おうとしていた。今回の遠征の目的だが。開花の種の回収だ
メラトス「一般市民には公開されていない情報なんだがな、願いの種を十二個集めると
…願いが叶うらしい」
教室内が少しどよめく
メラトス「ま、その性質を知るのは俺ら、学校の機関だけだ。だからこうして遠征隊が組まれたってことだな」
レアンス「先生、質問です」
メラトス「おう、レアンス・クアレブルだな」
黒色の髪に、きりっとした声
真面目君と言われる奴だろう
机には大きな盾がかけられている
レアンス「レアンスでかまいません。開花の種は国家が管理するようなもの。…私たちが回収できるとは思えません」
メラトス「確かにそうだな、だから死ぬ気でやれ」
レアンス「…はい?」
メラトス「俺に与えられた言葉は二つ。開花の種を十個回収すること、生徒が全て死ぬまでは帰ってくるな」
レアンス「…」
メラトス「レアンス、お前は頭がいいと知らされている。もうわかるだろ?」
消耗品、そう言いたいのだろう
メラトス「生徒諸君、生き残りたきゃ死ぬ気でやれ。もうお遊びじゃねぇんだ。」
鋭い針のようなもの体にささる、殺気だろう
誰も言葉を発さなかった
そのとき、一人の少年が手を上げる
セオン「セオン・ホルテニアだ。遠征には限りなく時間がかかると予想される。衣食住はどうなるのだ?」
植物の繊維で縫われた帽子を深くかぶっている、隙間からは紫がかった白髪がちらちら現れる
よく見えないが腰には刀を差しているようだ
メラトス「俺の能力は、"空間操作"だ。この教室から出るとお前らの部屋に移動する。戻ってくるときも部屋から出ればいい」
セオン「能力持ちでしたか、これは失敬」
メラトス「食料も衣服もすべて部屋に入っている。ただ、あくまでこのバス内だけだ。村に入ってるときは宿を探せよ、金は出す。他はあるか?」
沈黙が続く
メラトス「これから俺たちは"肝区"へ向かう。それに加え、開花の種がある場所までは数日かかるだろう。それまではゆっくりするといい」
メラトスはそういうと、教室の外に出て消える。
重い空気の中、チャイムだけはしっかりと鳴っていた。
■ 崩壊
土地が黒くなる現象
ゆっくりとだが周りを侵食する
地盤がもろくなり、黒い大地へと変化する。
■ 心区
人口 約8億3000万人を超える区
人口が一番に多く、この世界の 政治・経済の中心である。
中心部には開花したものが多く住み、
外縁部にはスラムが広がり未開花者が多い
■開花の種
種からは常にエネルギーが放出されており、
このエネルギーは 加工が容易で単純な性質 を持つ。
12個すべての種を集めることで、
世界そのものに影響を与える願い を叶えることが可能とされている。
■ 開花とは
命の危機に直面したときに発現する現象。
発現すると
思考力
身体能力
が一定水準まで向上する。
多くの人間は生まれた時点で開花しているが、
稀に開花していない状態で生まれる者も存在する。
■ 能力とは
生存本能が刺激された際、心の奥にある
「願い」
「生き方」
が形となって発現する現象。
■ 庭師
身長:173cm
髪色:深い灰緑
髪型:無造作ミディアム
本来必要なはずの
食事
睡眠
娯楽
などを 必要としない。
しかし本人は
それを不自然だと思っていない。
■ 学校
心区に存在する機関の一つ。
能力教育機関 として運営されている。
主な活動は以下の通り。
能力教育
開花支援
就職斡旋
能力者を育成し、各組織へ送り出すことを目的としている。




