秋の朝の出来事
朝を迎えた秋の庭園。その庭園を歩く男がいた。
男は庭園を歩きながら、その景色を楽しむかのように見ていた。
「あいつがいなくなって、もう何年だろう。最後に会った時のことは、昨日のことのように覚えてる。いつ会っても、あいつとは色んな話をしたなぁ」
男は懐かしむような声で、一人そう言った。
男には、昔からの親しい友人がいた。男と友人は、よく朝にここに来ては色んな話をするのが定番だった。趣味の話、最近見た映画の話、お互いにハマっているものの話……どれも彼らにとっては有意義な話であり、有意義な時間だった。
しかし、今はその友人はいない。彼はしばらく遠くの場所へ行ってしまった。ここに集まることは二度とないのかもしれない。男はふとそう思って、少しだけ寂しい気持ちになった。
「……正直に言えば寂しいさ。でも、それはお前が決めたことだから、俺は何も言えない。欲を言えば、帰ってきてほしいよ。またここで、好きな話そ/して、綺麗な景色が見たいよ」
男は一人そう言いながら、庭園を歩いて行く。庭園には池があり、いかにも写真撮影に向いていそうな感じになっている。
「ここで写真撮ったりもしたなぁ。あいつは控えめな奴だから、いつもぎこちないポーズで撮っていたっけ。『写真撮られるのあんまり慣れてなくて』なんて言ってたなぁ」
男は思い出す。友人は大人しく、控えめな性格だった。写真も撮られることも慣れてなかったが、それでも男が撮影を求めれば快く受け入れてくれた。そんな友人だった。
男は、晴れている空を見上げる。空は見事な秋晴れで、とても爽やかな気分にさせてくれるような、そんな晴れ模様だった。
「……帰ってこないかな、あいつ」
男がそう呟いた、その時だった。持っていたバッグから通知音が鳴った。スマホの通知音だった。男はすぐにバッグからスマホを取り出し、内容を確認した。
「これ……あいつからの?」
そこにあったのは、友人からのメッセージだった。内容は短く「お元気ですか?」とだけある。男は急いで、友人の電話番号をかけた。
「もしもし!?」
男はスマホに向かってそう言った。そんな言葉に対して、柔らかな声が返ってくる。
「もしもし。私です。お元気そうですね」
「お前、連絡してくるの遅いんだよ! 今まで何してたんだよ、心配してたんだぞ」
「あぁ、申し訳ない。実はそろそろこちらの用事が片付きそうなので、もうすぐそちらへ帰れると思います。突然いなくなってすみませんでした」
友人は申し訳なさそうな声で、そう言ってきた。男は友人が元気そうにしている事実に感激しながら、次の言葉を口にする。
「ったく、そう思ってるなら早く帰って来いよな! いつもの場所で俺は待ってるからさ!」
「えぇ、いつものあの場所、ですね? 存じておりますとも。私もあなたに会えるのを楽しみにしていますよ」
「あぁ、俺もだよ! また一緒に話をしよう! 待ってるからな!」
男と友人の電話はそこで終了した。男はスマホを見つめた後、何かを思いついた様子でスマホの撮影機能を起動するのだった。
「元気そうでよかった。怒られるかと思いましたが……相変わらず優しく対応してくれてよかったです」
男は、書類を片付けながらそう呟いた。机の上には、びっしりと書類が並んでいて、山のように積み上がっている。
「もうすぐ、こんな景色とはお別れです。……いつものあの場所の景色が恋しいですね」
そんなことを呟いていると、男のスマホが通知音を発した。確認してみると、それは先ほど電話で話していた友人からの、写真つきメッセージだった。その写真とメッセージを見た男は、思わず笑みを浮かべた。友人が楽しげに笑いながら、いつもの場所を背景に、こちらへ向かってピースをしている写真だ。メッセージには、こう書かれていた。
「また、ここで会おう。約束だからな!」




