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EP:8 邪法の魔弾


――休息日から一転、今日から修行再開だ。

魔法を使い始めて10ヶ月、度重なる苦難で手の甲は傷痕だらけだが、

そろそろ技を覚えたいというのが本音だ。


「師匠、こんな所まで歩いて本日は何を?」


なぜ今日は庭じゃないのだろうか。

しかし、風が強い。甲の傷が疼く。


「そうじゃな、そろそろ良い頃合いじゃ」

「ワシが弟子を取った目的を果たすとするか」


...何のことだろう。


「というと?」


「ギル、今日からオーバーフローを使うぞ」


「え...?」


待て待て待て、理解が追いつかない。


「最初に会った時に言うたじゃろう?」

「”危険な力を制御する知恵を教えられる”と」

「忘れたのか?」


俺がぶっ倒れて父にどやされた日のことか。


「思い出しました」

「ですが、オーバーフローを使うと死ぬのでは?」


「それも事実じゃ。だがな...」


違うとでもいうのか?

何なんだ。一体。


「同時に邪法として伝承されておった。まぁ詳しい話は後でじゃ」


「何ですか、それは...」


「率直に言おう。お主はオーバーフローを少し使う程度なら死なん」

「だが、制限はあるがの」


いろいろと突然すぎるだろう。

でも、あの魔法がまた使えるなら願ってもない。


「分かりました。教えてください師匠」


「ほっほっほ。よかろう」

「まず、強い思いを抱いて雷と炎を強烈にイメージするんじゃ」


思い出せ。

あの夜、俺は何をイメージした。

電気、爆弾、大切なもの...


(...集中)


――これは、前世の俺...?

白い閃光。

響き渡る悲鳴、そして遠ざかる足音。

指先だけが、まだ冷たい。


「...」


森の空気が震え、鳥たちが一斉に飛んでいく。


「おい、ギル!?」


「はっ!」


瞬間、骨ばった手が俺の肩を打ち、

世界が音を取り戻した。


「師匠...」


「落ち着いたか、ギル。すごい汗じゃぞ」


助かった。理性を失いかけてた。


「すみませんでした...」

「なぁに、もっと落ち着いてイメージを練ってみろ」


「はい」


よし。今度はゆっくり、冷静に。


「冷静にじゃぞ」


イメージしろ俺...


――電気、爆弾、守るための力!


「...力が」


身体が温かい。

底から魔力が湧いてくる。


「よし!成功じゃ!」


「師匠、次は?」


これがオーバーフロー状態か。

何でもできそうだ。


「魔弾を撃ってみろ。ただし、3発までじゃ」


3発か。やはり高負担なのだろう...

俺は腕を突き出して手を開き、構える。

――そして撃つ


『ッドーン!』


刹那、

あの夜に放った”破壊”のエネルギーを宿す、

おぞましくも強烈な魔弾が、目の前の木を焦がし地面をえぐる。


「なんて威力じゃ...」


足は震えるし、視界がグラグラする...!


「...ふぅ」

「大丈夫か!ギル!」

「なんとか...」


今回は倒れない。

だが心臓が張り裂けそうだ...!

くそ!


「名付けるなら《ブレイズヴォルト》と言ったところかのう」


『パキッ』


ん?茂みの方から枝が折れる音が。

村からはそれなりに離れているのに、

まさか誰かに見られてた?


「今のは動物の音でしょうか?」


「大人の気配ではなかったのう。小動物じゃろう...」


であればいいのだが。

それよりも引っかかったことがある。


「師匠、そういえば邪法って何ですか?」


「そうか。答える義理があるのう」

「邪法とはオーバーフローを使う魔法のことじゃ」


それは分かる。


「そして、英雄が使っていた...のじゃ」


「え...」


あまりにも突然な情報に俺はフリーズ。

時間が再び止まった。前世であんな業を背負った俺が?

英雄と同じ?何の冗談だろうか。


「すまんの、これは王都でも重鎮しか知らぬことじゃ」


「...なるほど」


「そして今新しい英雄として噂されておるモノがおる」


誰だ。

まさかヤツなのか?


「名は確か……アーサーという者じゃ」


嫌な予感が当たってしまった。

俺はこんな苦労して、やっと人並みになった。

なのに、ヤツは既に英雄扱い?

あまりにも理不尽だ。


「どうしたんじゃ?ギル」

「そんな苦虫を噛み潰したような顔になって」


「いえ、大丈夫です」


考えても仕方がない。

今は自分にできることに集中だ。


「...まあ、彼が邪法を使ったとは聞いたことはないがの」


俺はこの言葉に少し安堵した。


「最後に。ギル、今話したことは他言無用じゃ」

「誓ってくれるかの?」


重鎮しか知らないということなので、

そんな気はしていた。


「誓います」


「その誓い、しかと受け取ったぞ。では修行の続きじゃ」

「また強力なイメージを練るんじゃ」


よし。手順は同じだ。

雷の感覚を指先へ、そして炎を押し出す。


「《ブレイズヴォルト》!」


同じ轟音が遅れて胸骨を叩く。

やはりこの爆風にはまだ慣れない!

そしてなんて熱波だ。


「よし。あと1発じゃ!」


一発目と同様、大きな負担が俺を襲う。

視界の縁が欠ける。


「...ふぅ」


だが、立ち止まるわけには行かない。


「3発目いきます!」


「...《ブレイズヴォルト》!」


『ッドーン』


瞬間、一気に限界が来た。

衝撃波が伝わる中、足腰が抜けた。

それに指も開かない。


「っくはぁ...」


ダメだ。意識が遠い。

そして顔に地面が近づいてくる。


「よう頑張ったギル」


――温かい感覚が俺の手を伝った。


「一旦休むんじゃ」


師匠が支えてくれたのだ。


「...助かりました」


石の上に座り込み、少しして空を見上げると、

夕暮れ時になっていた。

何かに没頭すると時間は一瞬で過ぎ去るものだ。


「ギルよ、そろそろ立てるかの?」

「はい師匠、大丈夫です」

「ではそろそろ帰るとするかの」


そうして俺と師匠は歩き始めた。

何だかんだあったが、

今日が一番きつかったかもしれない。


「ギル、ついでに魔人の魔法陣調査もやるぞ」


このところヴァルク程度のものなら出るが、

強力なデモルグベアなどの魔獣は出ていない。

念には念を入れよ。ということか。


「分かりました」


すると早速、何やら小さな足跡、

赤いリボンが落ちていた。誰のものだろうか。

一応回収し、ポケットに入れた。


「師匠、そっちはどうですか?」


「ふむ。魔素は正常じゃ」


問題ないらしい。

このまま何事もなければいいのだが。


「そうですか」


『グゥ~』


しかし腹が減った。

今晩は何かガッツリと食べたい。


「ギル、もしや腹が減ったかの?」

「あはは...聞こえましたか...」

「ならばついでに」


ならば?


「狩りでもするかの?」


なるほど、狩りか。


「良いですね!」

「何を狩りますか?」


「スピアボアじゃ」


前世でいうワイルドピッグ【イノシシ】か。

丸焼きにしたら美味そうだ。


「最高です!狩りましょう!」


「よし」

「せっかくじゃし、どっちが先に仕留められるか競争じゃ!」


そう言った師匠は瞬く間に茂みの奥へと消えていった。


「早すぎますよ!」


こちらも負けてたまるか。

空腹でも、脚は勝手に前へ出た。


「待ってろよ」


『ガサッ』


早速、物音。幸先がいい。


「どれどれ」


――「うわっ!?」


なんと、茂みを覗くと、

スピアボアが飛び出してきた。


「待て!」


通り過ぎる瞬間、指先に小さな雷を纏わせ、

首元をめがけて思いっきり手刀を落とす。


『メキッ』


「ふぅ...」


なんとか仕留められた。

そして何やら後ろから足音。

誰だ。


「おぉ、ギルよ仕留められたか!」


振り向くと、師匠だった。


「びっくりした。驚かさないでくださいよー」


「いやぁすまん、すまん」

「今晩は庭で丸焼きじゃ!持ち上げるぞ!」


師匠の背は軽そうだ。

代わりに、俺の肩が重い。


(...少しは並べたか)


――こうして俺と師匠はスピアボアを背負って帰宅。

空には星が輝いている。良い夜だ。


「ギル、薪を持ってくるんじゃ」


「はい。師匠!」


庭につくと早速、薪を組んで脂の乗った肩を串に刺す。

そして火を起こすと、皮が弾ける音が小さく続いた。

同時に香ばしい匂いが俺の食欲を刺激する。


「味付けは塩だけじゃ。シンプルなのが一番美味い」


「はい!」


表面を炙り、肉汁が滲む。

串を回すと俺の指先がまだ微かに震える。

《ブレイズヴォルト》3発の反動だ。


(...やはり重い)


「ギルよ。今日のあの力はな、“救う時”だけ使うんじゃぞ」


「はい」


救う時だけか。

だよな。あの技は反動が大きすぎる。


「何をぼーっとしておる。肉が焦げる。回すんじゃ」

「忘れてました...」


肉を返すと焦げ目の下で、脂がじゅっと泣いた。

そういえば今日の英雄の話まで知っている師匠が何故、

王都を出たのだろうか。


「師匠。前々から気になっていたこと聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?ギル」

「何故、王都に居られなくなったんですか?」


師匠は短く息を吐き、視線を落として続ける。


「昔、王都を原因不明の魔獣の群れが襲ったことがあってじゃな」

「当然ワシは迎え撃ち、結果勝利じゃ」


王都に魔獣の群れ...

そんなことがあったのか。


「だがな、残ったワシの魔力の残り香を目印にな」

「魔人が増魔陣を路地に忍ばせおったのじゃ」


俺が前に森でやったことと同じだ。

「ワシも同じ経験があるからの」って

その事だったのか。


「当然、王都は大騒ぎじゃ、貴族達はワシに目くじらを立てての」


...くそ。

この世界の支配層も腐敗しているのか。

ふざけている。


「それで追放に...?」

「うむ。全てワシが責任を負った――それで追放よ」

「善で王都を救ったのにのう...」


こうして話してるうちに肉が焼きあがった。


「まぁ暗い話は終わりじゃ。ギル、肉をとるんじゃ」


「そうですね。食べましょう...」


噛むと肉汁溢れ、塩の匂いが立つ。

腹が満たされていく。


「...おいしい」


「うまいのう——それと」


師匠の視線が俺のポケットに向いてる。

確認すると赤いリボンが覗いていた。


「拾い物じゃな?」

「はい。森で」

「ずいぶんと可愛いものじゃな。村の子のじゃろう」


(気が向いたら村に顔を出すか)


いろいろ話してるうちに火は細くなった。

そして指先の震えはかなり落ち着いた。


「師匠」

「なんじゃ」

「僕は邪法を極めます」

「うむ。そのいきじゃ」


片付けを終えると、肉の残り香が袖に残った。


(今日は食ったなぁ)


立ち上がって遠くを見渡すと村の灯が微かに見える。

俺が守るべきもの。


「ふぁ~...」


眠くなってきた...

しかし今日は本当に疲れたな。

明日も頑張ろう。


――風下へ、俺たちの匂いが流れていった。

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