EP:6 本物の力と迫る陰
――あの惨劇から目覚め、強くなると誓ってから、1週間。
両親は守れたが、毎日ガルヴォルグを倒すイメージを夢の中で練っていた。
師匠もケガが完治したので、今日から修行再開だ。
――本物の強さを得るために。
「師匠。腕、大丈夫ですか?」
「なあに、あの程度擦り傷じゃ」
いやいや、思いっきり爪刺さってたじゃないか。
あれは本当に申し訳なかった。
正直、師匠が来てなければ俺は死んでた。
あの”背中”を目指して頑張ろう。
「いえ、師匠に迷惑をかけたのは事実です」
「今日から改めてよろしくお願いします!」
挨拶するや否や、師匠は以前にも増して、
やる気だ。
『バキッバキ...』
さっきまでの森の暖かい空気が嘘のように、
一瞬で凍り付いたものに変わった。
「よおし、バッチリじゃ」
「いつでも来い!」
何だこの構えは。
好きな所に、打ち込んでください。ってか?
それじゃお言葉に甘えて。
『バシッ』
ストレートパンチを放ったが、案の定と言った所だ。
たやすく、力強い拳で受け止められた。
「ほう、思ったより力強いではないか...」
「本当ですか!」
「...だが、油断大敵じゃ」
『サッ』
そのまま腕を掴まれて受け流された。
視界が回って、酔いそうだ。
「うっ...」
背中から地面に叩きつけられ、
土煙が舞った。
そして全身に衝撃が走る。
「痛ってぇ」
ここが石のタイルとかだったら、
確実にマズかった。
「ほっほっほ、まだまだじゃ」
痛みで顔が歪んでる俺をいざ知らず、
意地悪げな笑みを浮かべた師匠は
手を伸ばしてきた。
「はよ、立て!」
「ありがとうございます、師匠」
腕を引っ張られ立ち上がった俺は、
ふと思い出した。
何故、近くの森に魔獣が出たのか。
「ふぅ...突然ですが師匠」
「何でこの森に魔獣が出るんですか?」
師匠はというと、
急すぎる質問にポカーンと
口を開け、呆然。
「...本当に急じゃな。だが、ワシも少々気になっておる」
「この前の”現場”に行くとするか」
(えぇ、行くんだ...)
俺から聞いておいて何だが、
あんたも中々、急だよ。
とツッコミたい気持ちだ。
「分かりました。僕の家の方面ですね?」
「そうじゃ」
師匠は完全に構えるのをやめ、
道の方へ向けて歩き始めた。
「一旦修行は中断じゃ、行くぞい」
(早いって)
「待ってくださいよー!」
――しばらくして現場に到着した。
今でもあの時を鮮明に思い出す。
「ふぅ...」
最初の視界に入ったのは、
俺が魔獣に突き飛ばされ、激突した木だ。
「そうか、俺はあの時ここで...」
しかし両親を守れたのは、本当に大きかった。
樹皮についた生々しい跡を見る限り、
以前の俺ならおそらく死んでいた。
「師匠。何か手がかりはありますか?」
そう呼びかけ見てみると
何やら顎に指を当て、難しい顔をしている。
「ふむ、空気中の魔素が以前より濃い」
魔素が濃い?
具体的にはどれくらいなんだ。
「それって例えると?」
「毒の沼地の3割程度じゃ」
「へぇ~...」
とはいえ、あの沼地が
何故魔素が濃いのか俺は知らない。
「なんじゃ?分かってなさそうな顔じゃな」
(やべっバレた)
「あはは、実はそうです」
「はぁ、しょうがないのお」
呆れた顔で師匠は語りだした。
「実は昔のあそこはな、無毒で普通の沼だったんじゃ」
え、どういう事?
そうだったの?というのが俺の感想だ。
「だが沼の性質が変わるほどの“魔法戦”があったのじゃ」
「人間と魔人が本気でやり合うと、土地ごとこうなる」
この世界でも戦争があったのか。
やはり人間はどの世界でも愚かだな。
「さらにあそこには怨念が染み付いておる」
...は?
そんな場所に修行一日目で俺は連れていかれたのか。
修行に戻ったら、絶対一発入れてやる。
「なるほど...」
「分かったかの?」
「ええ、少し分かりました」
俺の返事を聞いた師匠はというと、
何やら手を宙に突き出した。
「次は何をやっているんですか?」
「魔素探知じゃ」
すると師匠はそのまま、
毒の沼地の方へと足を進めていった。
「魔人が何か仕掛けた可能性が高いかもしれん」
「あの沼地から3分も歩けば魔人の国じゃからな」
これは知らなかった。
だが魔人とは平和協定を結んだと、
聞いた事がある。
「師匠、魔人が仕掛けたって具体的には?」
師匠は手を下ろして、俺の方を向いた。
「魔素を増やす魔法陣じゃ」
「人間を嫌っておるヤツも多いからの」
つまり嫌がらせをされたと。
この世界の闇も深そうだな。
「それって問題にならないんですか?」
また戦争になったらシャレにならないだろう。
ただでさえ俺は神の尻拭いをやらされているのに、
せめて故郷くらいは平和であってほしいものだ。
「魔法陣が見つからん限り何も言えんわい」
「うーむ、これは調べるのに時間が掛かりそうじゃ」
そこまで言うなら、本当に大変なのだろう。
何もないことを祈りたい。
「そうなんですね...」
「まあそういう事じゃ、そしてついでじゃ」
「アイザックとマリナに顔を見せに行ったらどうだ?」
確かに、あの日以降、両親には顔を見せてない。
そして本当に心配をかけてしまっている。
「たしかにですね」
「ワシはまだ調べておる。一人で行ってくるんじゃ」
しかし、家に帰るのは本当に久々だ。
同時になぜか緊張で足が震える。
「分かりました!行ってきます」
――少し歩いた後、家の畑で作業をしている、
父の姿が見えた。
「父さーん!」
俺の声に気がついた父は驚くかと思いきや、
麦わら帽子を脱ぎ、安堵した表情で俺を
見た。
「...帰ったか」
同時に玄関から母が出てきた。
「...ギルちゃん!」
着くと、すぐに両親が
俺の方へと駆け寄ってきた。
「心配かけるんじゃありません!」
「ゼノン様が来ると思ったし大丈夫だと思ってたけどな」
「ごめんなさい」
この家族の温もりに、甘えそうになる。
けれど、今はまだダメだ。
「父さん母さん、顔も見られたし僕は師匠の元に戻ります」
「早いじゃないか。でも、そうだな」
父は少し不満そうに眉をひそめたが、うなずいた
「ギルちゃん、これ」
母から渡されたのは、あの時に届けた
ハンカチだった。
「次はもっと強くなってから返しに来てね」
「ありがとう!父さん母さん!」
俺は手を振って後にした。
次は絶対強くなって帰るぞ。
「頑張ってきます!さようならー!」
ハンカチをポケットにしまい、
振り返れば、両親が手を振っているのが
見えた。俺は森の方へと足を速める。
「ふぅ...」
少ししてすぐに師匠が見えた。
何かあったのか難しい顔だ。
不穏だ。
「遅かったの。挨拶はできたか?」
「はい。もしかして何か見つかりました?」
師匠は俺がオーバーフローを起こした部分を指さした。
もしかして影響があったのかと不安だ。
「結論から言うと魔法陣があったであろう形跡があったのじゃ」
「ギル。ここの匂いを嗅いでみろ」
(どれどれ)
「何か生臭いですね」
何だこの臭い。
今までに感じた事がない物だ。
「魔素を増やす魔法陣はな、代償として指を捧げる必要があるのじゃ」
「だが、ヤツらは欠損した部分でも新しく生える」
何でもアリじゃないか。
それだと魔人と対峙したときどうなる。
「弱点とかって?」
「安心しろ。生えると言っても、かなりの時間が掛かる」
にしても何故ここに魔法陣を作ったのか。
まさか俺のせいなのか?
「師匠、どうして魔法陣がここに?」
「それはな、お主の魔力の残り香で隠しやすかったからじゃ」
「何、落ち込むな。ワシも同じ経験があるからの...」
厳しい顔で話していた師匠だが
何やらその目には悲しみが浮かんでいた。
「そうですか...」
俺は何て事をしてしまったんだ。
「まぁ今日は暗くなったし、帰るとするかの」
「行くぞ。ギル」
反省している俺には、
今日の夜風が特別冷たく感じた。
――そして帰ってから一ヶ月経った。
あの魔法陣騒動以降、今日まで地獄の特訓だった。
おかげで今は――
「行きます、師匠!」
「よし、行くんじゃ!」
師匠に比べたら止まって見える。
よし、急所の首へ...
『ドスッ』
「仕留めました!」
ウルフ――この世界でいう『ヴァルク』を
仕留められるようになったのだ。
「良くやった。帰ったら、再び体術修行じゃ!」
「分かりました!今日こそ一撃入れますよ」
――余裕であしらわれた。
水浴びをして帰宅した。
俺は部屋に直行。
「ふぁ~...疲れた、無理だ寝よう」
ベッドの前にくると俺は
修行の疲れで、あっさり眠りに落ちた。
――気づけば、どこか懐かしさを感じる特異な空間が広がっており
見覚えがある、ふざけた笑みの爺(神)さんが立っていた。
「よう、アキラ...いや、ギル坊。生きててなによりじゃ」
「...あんたか。なんで今さら夢で出てくる」
「ちょっと気になっての、ワシの“贈り物”がどれだけ育っとるか見たくてな」
(いや、ただの押し付けだろう)
神が指を鳴らすと、目の前に半透明の板が現れ、そこには少し懐かしい数値が映し出された。
《ステータス》
【名前】ギルバート・スパーク
【年齢】8歳
【体力】5 → 12 (ほぼ平均値に向上)
【魔力】5 → 5 (変化なし)
【運】999(変化なし)
「...上がってる。努力が形になってる」
「ほう、案外やるではないか。まぁ体力以外は変化なしじゃがな」
「このステータスの基準はどれくらいなんだ?」
「あー基準はな、一般的には成人で15、才能あるやつで50といった所じゃ、8歳で12なら十分じゃろ」
神は笑いをやめ、真剣な目で俺の方を見つめた。
何か良からぬことじゃなければ良いのだが。
「あと運じゃが、お前が“誰か”を救う度に分かるじゃろ」
「それとな、お前がこれから倒すヤツはアーサーと呼ばれておる。そいつは体力・魔力共に99じゃ」
いや、無理す...
――次の瞬間、特異な空間が崩れ落ち、俺は息を吸い込んで目を覚ました。
「そうか、俺はちゃんと成長してたのか」
朝の眩しい光に照らされ、
リビングへと移動。
「おはよう。ギル」
「おはようございます師匠」
すぐに俺は師匠の違和感に気づいた。
「師匠、グローブは?」
「なんとじゃ」
なんと?
何か良からぬ事じゃければ良いのだが。
「今日から魔法の修行じゃ!」
思わぬサプライズだった。
ようやく俺は魔法を使えるらしい。
「本当ですか!」
師匠は意地悪な顔で話し続ける。
「本当じゃ!だが魔法の修行は体術より厳しく行くからの」
今日までいくつも死線を潜った俺はもう、無敵だ。
「全然構いません!これからもよろしくお願いします!」
――俺はこのセリフを後悔する事になった。
もし続きが気になったら、ブックマークで見守ってくれると嬉しいです。次回も全力で書きます。




