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EP:5 惨めと贖罪


昨日、ランニング帰りに体術修行を告げられ、

一晩経ち、朝になった。

しかし、師匠の目は本気だったな。不安で睡眠不足だ。


「ふぁっ~~......」


あくびをしながらリビングへ行くと、

そこには何やらグローブをした師匠が腕を組み待っていた。


(うっわ...やる気満々じゃん...)


「ギル!今日から体術修行というのに、なんだそのあくびは!」

「さっさとテーブルにあるパンを食って外に来るんじゃ!」

「分かりましたぁ~...。」


正直、昨日は何かと胸騒ぎがして、

あまり寝れなかった。


「パクッ」


こんな状態で大丈夫だろうか?と思いつつ、

俺はパンを咥えたまま、外に出た。


「ゴックンッ...」


外に出るやいなや、空を見上げると、

一面に厚い雲があり、曇っている。

そして、やたらジメジメしていた。


「師匠、雨が降りそうですが...」

「なんじゃ?怖いのか?」

「いえ、何でも...」

「よっしゃ、やるぞ」


やるぞ。と言った矢先、追えないスピードで

動きだした。本当にこんな修行意味ある?

疑問だ。


「ちょ!早すぎますよ~!」

「まずはワシの体に触れてみろ」


いやいや、無理だって。

とはいえ最初に殴り合いをする訳ではないのか。

と俺は安堵した。


「...えいっ!」

「まだまだじゃ、遅い!」


『バチンッ』


――「痛ってー!」


普通に叩いてきやがった...。

背骨が折れそうだ...!

痛みの余り、視界が暗転する。


「すまん!ギル!痛かったか!?」


(やっぱり力加減を分かってないのか...!)

「ぐぅ~...」


(本当にこの、バカ師匠が)


悶絶しながら、のたうち回ってると、何やら周りの木

からパラパラと聞こえる。

――すると、間もなく俺の腕にヌメっとした感覚が走った。

雨だ。


「雨が降ってきたようです、師匠...」


俺に駆け寄ろうとした、師匠も途中で立ちすくみ、

宙を見上げた。


「ほぉ...これは結構降るかもの~」

「一旦中止じゃ。家の中に戻るぞ」


「はい。師匠。」

取り急ぎ、俺と師匠は家の中へと戻り、

リビングで体と髪を拭いた。


「師匠。今日は何をやりますか?」


師匠はというと困った顔で

何やら考え込んでいた。


「...」

「基礎体力は一旦もう大丈夫じゃしな~...」

「うーむ...“実戦”の方を見せてもいいと思っとったが、この雨ではのう...」


『コンッコンッ...』


すると何やら、玄関からドアをノックする音が聞こえた。


「...今日は外出したらダメなはずじゃが誰じゃ」

「どういう意味ですか?師匠...」

「ひとまず、僕が出てきますよ」

「...すまん。ギル、頼むぞ」



――「はーい!どちら様でしょうか...?」


ドアを開けるとそこには父が傘を差し、

何やら鍋を持った母が居た。


「ごめんくださーい!ゼノ...」

「ギルちゃん!?」


師匠が開けたと思ったのか一瞬戸惑う両親だったが、

すぐに俺と分かり、久々の再会に両親も笑みが溢れていた。


「...!父さん、母さん...!」


両親を迎え入れると、

すぐに俺は師匠が居る、リビングへと案内。


「師匠!僕の両親が来ました!」


入るや否や

両親はすぐに改まり、頭を下げた。


「ご無沙汰しております。ゼノン様」

「息子がお世話になっております」


「ほっほっほ!お主らの息子は頑張っとるぞ!」


この面々で集まるのも、俺が”オーバーフロー”で倒れ、

父にドヤされた日ぶりか...。

気がつけば、修行に出て一ヶ月間。

短いようで長かった。


「父さん、母さん、本当に僕は師匠には良くしてもらってます」

「感謝してもしきれません」


実際、体力は見違えたし、本当に俺は感謝している。

だが、ふと思った。

何で両親と師匠が双方の家を知ってたり、

師匠が俺だと分かり、家に送り届けたのか。

聞いてみよう。


「そういえば、何で父さん母さんと師匠は知り合ったんですか?」


今更何?と言わんばかりの顔で師匠は語りだした。


「確かに、ワシがこの農村に居る理由を言ってなかったな」


何やらションボリした顔で師匠は話し続ける。


「まぁ~...事件、いや、色々あり王都に居られなくなって、

旅をするうちに辿り着いたのがここだったわけじゃが...」


――「まぁ具体的な説明はアイザックとマリナの方が出来るだろう」


突然、話を振られると思ってなかった両親は

少し遅れて反応し父の方が口を開いた。


「ギル、ゼノン様はな、ウチの村が魔獣に襲われた時に救ってくれたんだ」

「お前が生まれる前から、この辺の森に本来居ないはずの魔獣が出る頻度が増えたんだよ」

「特に今日みたいな日は...まあ、原因は分からないけどな」


そんな危険な日に来るのはやめてくれよ。

しかし魔獣が森に出る?どういうことだ?

普通は魔素が多い所、この辺りだと、

毒の沼地にしか出ないと聞いたぞ?


「そうなんだ。というか師匠は村の救世主だったんですね」

「ほっほっほ!まぁそういうことじゃな!」


何か誤魔化された気もするが

まあ良いだろう。


「ところで、母さん」

「今日持ってきた鍋って何ですか?」


母はその質問待ってました!と言わんばかりの

キラキラした目でこっちを向いて口を開いた。


「ギルちゃん!やっと聞いてくれたのね!それは...」


『パカッ』


「じゃじゃーん!ギルちゃんが大好きなシチューでした!」


冷めてはいるが、良い匂い...

何と俺が大好きな母特製のシチューだった。

一ヶ月ぶりのおふくろの味。

実際に食べたら涙が溢れるかもしれない。


「ありがとう!母さん!」

「師匠も良ければ今度一緒に食べてください!」


師匠は微笑んだ。


「ほっほっほ、そうじゃな!今度ワシも一緒に頂こうかの」


すると何やら両親は席を立って、

姿勢を再び正した。


「ゼノン様、時間も良い頃合いなので私達はこれで...」


「これからもウチの息子をよろしくお願いします」


挨拶をするとそそくさと

両親はドアを開き、傘を差して帰ってった。


「ギルも頑張れよー!」


寂しいが、次会った時は

絶対に強くなった姿を見せるぞ。

俺は手を振って両親を見送った。


「父さーん!母さーん!今日はありがとう!」

「気をつけて!」


とはいえ、今日は雨だ。

修行はどうした物か。


「はぁ~雨だしな~...」


俺は頭を抱えながら家の中に戻ると、

師匠が薬の調合をしていた。


『ポコポコポコ...』


「師匠、何か家の中で出来る修行はありますか?」

「それが何だが...」

「雨だが走る気はあるかの?濡れた土の上は良いトレーニングになるぞ。」


おいおい。危険な日に外出させるのか。

だが盲点だった。濡れた土道の方が確かに体への負担が掛かる。


「はい!師匠!」

「ところで師匠は?」

「今は手が離せん、先に行ってこい、ワシも後で追いつく」

「分かりました!」


返事をして外に出ようとしたその時、

...?――床に母のハンカチが落ちていた。

ついでだ、今日は家の方まで走るとするか。


「師匠!行ってきます!」

「母の忘れ物があったのでついでに届けてきます!」

「お~行って来い~」

「ないとは思うが魔獣がおったらすぐ戻るんじゃぞ~」


こうして俺は外に出て走っている訳だが、

思いの外、雨が強い...

そして足に掛かる負担も尋常じゃない...


「ふぅ...ふぅ...足おっも...」


これはさすがの師匠も

すぐには追いつけないだろう...


『ッ----------!』


!?その瞬間、時が止まった。

断末魔のような叫び声が森の中に響く。

両親が襲われた?いやいや、さすがにないだろう。

でも...怖いっ急がなきゃ...急がなきゃ!


「俺は絶対もう何も失わない!」


足が重いとか、雨が強いとか、

そんなこともう、どうでもいい

ただ一刻も早く早く...!


「っく!はぁ...はぁ...」


――ただ無我夢中になって駆けつけると、

土砂降りの中、木が折れる音と、けたたましい咆哮。

最悪だ。


「父さん!母さん!」


タイガーのような魔獣の前で必死に母を庇い、

応戦する父さんの姿が見えた。


「ギル!?お前は来るな!」


父の服は、派手に切り刻まれており

ここがどれだけ凄惨な場所か思い知らされた。


「父さん!血が...!」


なりふり構って居られない俺は

足元に転がっていた石を全力で魔獣に投げつけて誘導した。


「お前の相手はこっちだ!」

「おい!ギル!」

「父さん、ここは僕が!」


思い出せ、最初に放ったあの魔弾を...

電気...炎...


『ガオォー!』


イメージする間もなく魔獣が突進。

あっけなく吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」


痛い。本当に死ぬかもしれない。

背中に大木の感触がミシミシと伝わる。


「ギル...!」


俺は何をしたかったんだ。

惨めだ。

せめて両親だけは。


「ぐっ...父さん、母さん、逃げてください」


何とか立ち上がったが、血と雨で視界が霞む。

うっすらと見える両親の姿に手を伸ばす。

だが届かない。


「僕は、大丈夫だから!」


僕の言葉を聞いた両親は感情を噛み殺し

無言で去って行った。


「良かった...」


だが、こんな魔獣一匹仕留められない俺が世界を救う?

......バカバカしい。

結局、何もできないまま死ぬのか。


「さようなら..」


――そう嘆いた瞬間、別の足音が迫ってきた。

それはとても力強く、同時に強烈な殺意を放っていた。


「なんだ...また魔獣か...」


魔獣の鋭い爪が俺に襲い掛かる。

助からない。


『グサ』


終わった。視界が暗転し、

飛び散った血がにつく。


「...」


――(痛くない...?)

目の前に偉大な男の背が見えた。

俺がこの世界に来て、はじめて憧れた男。


「師匠...」


「ぐっ...よくもワシの愛弟子を...」

「許さん!」


師匠の腕には鋭い爪が刺さっていた。

俺を庇ったせいだ。


「師匠、腕が...」

「お主は良く頑張った、だからもう、安心せい」

「そして今日は本当にすまんかったのう...」


霞む視界の中、怒り狂った師匠に魔獣が蹂躙されるのが見えた。

それが最後の記憶だった。


――そしてあの惨劇から数日といった所か。

俺は師匠の家で目が覚めた。


「師匠...僕は何日寝ていましたか...?」


横に居た師匠は読んでいた本を投げ捨て

反応した。


「ギル!起きたのか!」

「そうじゃな...あれから3日と言った所じゃな」


そんなに寝ていたのか。

だが、既に体は軽い。

看病してくれていたのだろう。


「3日もですか...」


「それと、お主の両親も毎日様子を見に来とったぞ」


本当に心配をかけてしまった。

そして、どうしたものか目元が熱い。

回復したはずなのに視界が霞む。


「師...匠...」

「お、おれは...」


瞬間、引き寄せられ

体に温かい感触が走る。


「ギル...」


それはどこか不器用だが

深い愛情に満ち溢れていた。


「本当に良く頑張った」

「ガルヴォルグから両親を守ったのはワシではなくお主じゃ」

「だから胸を張ったって良いんじゃ」


最後に涙を流したのは、いつぶりだろうか。

それよりも今は惨めながらも家族を守れたのだ。

俺は腕で顔を拭き、改めた。


「師匠、僕は絶対強くなります」


「うむ。ワシがお主に本当の守る力を与えよう」


羞恥心、不安、悲しみ、

様々感情が渦巻く静寂な空気の中、

強く決心した。


――前へ進もう。

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