EP:3 修行開始 ~初日から死にかける弟子~
鳥のさえずりで目が覚め、窓の外を見ると
いつもより早い時間から農作業をしている父”アイザック”と
その父を手伝う母”マリナ”が見えた。
「ふぁ~...」
昨日の弟子入りの話が嘘だったかのように、穏やかな朝だ。
...その時までは
「おーい、我が弟子!さっさと朝食を食って約束の場所に来い!」
外から師匠”ゼノン”の声が聞こえ、俺の胸がキュッとした。
飛び起き、窓を開けた。
(全く、朝から驚かすなよ)
「師匠ーなんで、家の近くまで来てるんですかー!」
「一昨日の俺が倒れた場所で待ってるんじゃないんですかー!?」
「ワシも弟子をとるのは初めてでな~楽しみなんじゃ!」
「分かりましたからー!朝食を食べたら、すぐに森に行きまーす!」
修行初日から元気すぎるだろう。
さすがに先が思いやられる。
勘弁してほしいものだ。
「よーし、待っとるぞ~!」
――俺は急いで着替え、
リビングに行き、作り置きしてあった朝食を食べた。
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終え、食器を片付けようとしたら、何やら紙が落ちた。
「ギルちゃん、ゼノン様との修行頑張ってね。ママより」
お母さんからのメッセージだ。昨日あんなことがあったんだ。
気まずい状態で送り出さないように、両親は気遣ってくれてたようだ。
「母さん...」
こんなに俺を大切に思って行動してくれる家族がいるんだ。
この”小さな日常”を守るためにも絶対強くなるぞ。
俺は改めて強い決心をし、食器を片付け、外に出た。
――清々しい朝だ。朝日のほんのり暖かい日差しが俺の身体を照らす。
「ギルバート君!今朝は早いね!お出かけかい?」
「おはようございます!ハロルドさん!」
「はい!これから師匠の所に行ってきます!」
「師匠?ギルバート君は身体が弱いんじゃないのかい?」
そう話すのは、この村の駐在兵”ハロルド”さん。
同時に父の昔からの酒飲み仲間だ。
「僕も、男なら強くなりたくて!」
「そうかい!君ももう8歳だしね!あまり両親に心配かけずに頑張るんだよ~!」
ハロルドさんは、にこやかな表情で手を振って俺を送り出してくれた。
「はーい!行ってきまーす!」
俺は手を振り返し、小走りで森の奥へと続く道に向かっていく。
と、その前に、ついでに掲示板でも見ていくか。
「えーと”薬草品薄により1000ヌーミア値上げ”」
うそでしょ。
なおさら体調管理しないとな。気を付けよう。
次は...。
「王都に現れた英雄候補ア...」
端が切れてて名前が分からない。
気になるが、まぁいいか。
急ごう。
――そして道中、すれ違う村人達に声をかけられた。
「どこ行くんだい?」
「まだ狩りには早すぎるぞ~」
「今日は気持ちがいい朝なのでちょっと散歩を」
(絶対、狩りより過酷だけどな)
少しして森が見えてきた。
見慣れた景色なのに以前とは大きく違って見える。
「もうやらかさないぞ」
これから過酷な修行が待ち受けていようと、
俺は師匠の元でこの憎き病弱体質に別れを告げるんだ。
――茂みを抜け、約束の場所に到着した。同時に師匠が俺に鋭い視線を向ける。
「遅い!」
「お主は本当にやる気があるのか!」
朝の親しみやすい雰囲気とは真逆の威厳ある厳しい師匠に俺は腰が抜けた。
「すみません。これでも少し走ってきました」
「やれやれじゃ、これじゃ目的地に着く頃には日が暮れるわい」
「ギル、ちょっと背中をこちらに向けろ」
「はい。分かりました。」
(何をする気だ?)
前世で散々裏切られ貶められた俺は怪しみながらも背中を向けた。
次に感じたのは師匠のジンワリと熱い手の感覚だった。
「風よ、我が弟子の身を軽く、束縛を解き放て《ウィンドリベラ》」
(何だこれ..身体が軽い...!?)
「ギル、今かけた魔法はお前の病弱と称される身体を一時的に補うものじゃ」
「ありがとうございます、師匠!」
「これなら、どこまでも風のように飛んでいけそうです!」
興奮が抑えきれない俺は早速ジャンプすると...
「うわっー!?」
勢い余って頭上にあった、木の枝葉に突っ込み、
そして身動きが取れなくなった。
「師...匠...助け...て...ください...」
「ップ...!興奮しすぎ...じゃよ」
震えながら笑いを堪えてる師匠が
俺の足を引っ張った。
「すみません、ありがとうございます...」
(クソ、このジジィ。わざと仕向けたろ)
案の定という訳か。
師匠は何やらとぼけた顔で俺に付いた枝葉を手で払う。
「すまん、すまん、跳躍力が上がることを伝えるのを忘れておった」
本当にいい性格してる師匠だな。
転生前の神といい、ジジィ全般が嫌いになりそうだ。
「こういう“ちょっとした変化”でも人は自分を見失って暴発する。昨日のお主みたいにな」
再び真面目な顔で師匠は俺に問いかけた。
同時にその目の奥は何やら薄暗く、濁っていた。
「だがな、ギルよ、いくらワシが師匠だからって信用しすぎじゃ」
「急に信用していた、すべてのモノから裏切られることもある」
...?なんの事だ。
「あと、最近は王都に現れた英雄候補だとかが怪しいのう...」
「ああいう持ち上げられ方をするガキは十中八九どこかが歪んどる」
あー、それは掲示板のヤツのことか。
名前は見切れてたけどな。
再び柔らかい表面に戻り、師匠は話を続ける。
「まぁそんなことより、ほら、さっさと目的地に行くぞ」
「着いてこい」
そう言い、いろいろ引っ掛かることはあるが、走り出した師匠に俺は着いていく。
すると、走り出してすぐの茂みの奥に家が見えてきた。
師匠は家に向かって指さした。
「ギル。あれが、ワシの家じゃ」
立ち止まらずに俺と師匠は走りながら会話する。
「へ~そうなんですね」
なるほど、確かにやらかした現場から近い。
だから師匠が一昨日気絶した俺を家まで送り届けてくれたのか。
「一昨日は本当にビックリしたぞい」
「薬の調合中にあんな爆発音が近くで聞こえたら~」
俺は走りながら少しうつむいた。
「その節は本当にすみませんでした」
「気にするでない!そのおかげで今こうしてワシに弟子ができたのじゃ!」
森を抜け、湖が見えてきた。
森より遠くに行ったことがなかった俺には初体験のエリアだ。
「こんな所に湖があったんですね!」
綺麗だ。
優しい太陽の光に照らされ、
湖の水が宝石のように輝いている。
師匠がこちらを振り向き俺の顔を確認した。
「ギル、この湖の端に着いたら一旦休憩じゃ」
「分かりました...師匠...」
(無理をしていたのがバレたか)
湖の端に着いた俺と師匠は石段の上に腰を下ろす。
「ふぅ...ふぅ....はぁ......」
途端に呼吸が乱れる俺。
出発前、師匠に《ウィンドリベラ》をかけてもらったが
元が平均以下の体力の俺にはキツすぎる。
――しばし、休憩したのち師匠は俺の背中をさすりながら語りかけた。
「まぁお主の身体の弱さは知っておる」
「《ウィンドリベラ》を施したとはいえ、ここまで走れたなら十分じゃろう」
対して師匠は呼吸を乱す素振りを一切見せず
続けて話す。
「さて、そろそろ10分経つ頃じゃ、また走るぞ」
「はい。分かりました」
(なぜ、この距離を走って疲れる素振りを見せないんだ...)
師匠は立ち上がり、指さした
「近くの森を超えたら、目的地につく」
「頑張れ、あともう少しじゃ」
その風貌に不釣り合いな師匠の体力に疑問はあるが、
俺と師匠はまた目的の”毒の沼地”に向けて走り出す。
「はい!」
湖があった草原を抜け、再び森の中に突入した。
すると、魔力探知が使えない俺でも気がつくレベルの禍々しい殺気を感じ取った。
「なんか寒気が...」
すかさず、師匠が立ち止まって俺の前に手を突き出し、
静止を促す。
「ギル、待て、魔獣だ」
次の瞬間、俺の前世でいう
”グリズリー・ベア”みたいな魔獣が飛び出してきた。
「師匠!」
俺は叫ぶと、目で追えない速度で視界から師匠が消え去った。
突然の出来事に俺は言葉を失う。
(...!?)
刹那、魔物の背後に師匠が立っていた。
そして手刀で急所撃ち抜き、瞬く間に魔獣を仕留めた。
「ふぅ...”デモルグベア”がこんな所で出没するなんて想定外だったわい」
「しかしワシも歳かのぉ、今の一撃で呼吸を乱すとはな」
いやいやいや。
出発からさっきの湖まで一切呼吸を乱さず走り切ってる上に、
今度は魔獣を瞬殺ときた。
一体何なんだ俺の師匠”ゼノン・グラウヴィッツ"という男は
「助かりました...」
手刀を放った時の狩人のようなクールな表情から一変、
師匠はキョトンとした顔で俺を見る。
「なあに、これも師匠としてのつとめじゃ」
「しかしどうした?ギル、そんな不思議な顔をして」
そりゃ老人が魔獣を一撃で仕留めたら驚くだろう。
俺はすかさず質問をした。
「師匠、あなたは魔術師ですよね?」
「さっきの動きは一体...」
笑いながら師匠は俺の問いに答えた。
「ほっほっほ!詠唱中の魔術師は無防備じゃろ?」
続けて、師”ゼノン”が俺に問い返す。
「後方で戦うのが基本とはいえ、奇襲に遭ったらどうする?」
俺は戸惑いながらも答える。
「普通は倒されますね」
(この爺さんは例外だが)
師匠は自慢げに語りだした。
「あれは”ヴァルハイト式近接格闘”じゃ。ワシの旧友が編み出した」
興味深い。
この世界にも”マーシャルアーツ”は存在するのか。
「な、なるほど...」
師匠と俺は再び歩き出す。
すると茂みの先が見えてきた。
どうやらこの森は狭く、もう抜けるようだ。
「師匠。あの茂みの奥が目的地ですか?」
「そうじゃ。この先はさっきのような魔獣や魔物がウジャウジャおる」
振り返った師匠は真剣な目を俺に向けた。
「だから、気を引き締めろ」
茂みを抜けると、この世の物とは思えない禍々しい沼が辺り一面に広がっていた。
それと同時にありえない激臭が俺を襲う。
「うわ!くっさっ!」
腐ったエッグのような臭いだ。
これには師匠も鼻を塞ぐ。
「うえ~久々に来たが相変わらず、なんて激臭じゃ」
沼地に着いてすぐだが、沼の中央に明らかに異様な”草”が生えていた。
薬草の周りには、さっき接敵したデモルグベアが集団で鎮座している。
「焦っても昨日みたいな魔法を使おうとすんじゃないぞ」
そこまで釘を刺さなくてもいいだろう。
思うこともあるが目標達成が先だ。
「分かっています...そして薬草ってアレですか?」
俺は薬草らしきものに指さした。
「そうじゃ、あれが今回の目的じゃ」
「ギル、薬草の近くにデモルグベアがいるがお主はアレを採ってこい」
(本当にイカれてんのか。このじいさん)
「え、何の冗談で...」
次の瞬間あろうことか師匠は俺の背中を強く突き飛ばした。
「ギル、全力で走るんじゃ~沼は踏むんじゃないぞ~」
「皮膚が焼けるからの~!」
「うわっー!」
(この鬼師匠、覚えてろよ)
俺は言われたがままに全力疾走で沼の中央へと向かい、
薬草を引き抜いた。
刹那、デモルグベアが俺に向かって鋭い爪を振りぬいてくる。
「ちょ、まっ...」
それは弱者が強者に仕留められる、食物連鎖の瞬間。
理不尽だ。この一撃で終わる。
結局、贖罪もなにもできなかったなぁ...。
――俺は死を悟り、目を瞑った。
最後まで見てくれてありがとうございます!
鬼畜で底知れない師匠に振り回されるギルバート君は大丈夫でしょうか(笑)
次回もお楽しみに!




