EP:2 師匠との出会い
2025/10/13大幅改稿。
家のベッドで目が覚めると暖かい夕日の光が顔を照らし、ゆっくりと瞼を開いた。
徐々に体を起こし、最初の視界に映ったのは疲弊しきった顔をした母だ。
――「ギルちゃん...」
その悲痛で弱々しくも慈愛に満ちた声は
俺の胸を締め付けた。
「お母さん...」
守ると決めたのに母を泣かせてしまった。
原因は俺。情けない。
「本当に心配したのよ...!」
するとリビングから木の床が軋む音。父の歩幅だ。
顔を向け、確認しようとした――刹那、涙と怒りで顔を歪ませた父からの強烈なビンタ。
「ッ...」
最初に伝わったのは、父の手の震えだった。
怒っている——いや、怖かったのだ。
俺が出ていった矢先、森から聞こえる轟音そして爆炎。
父は全部想像してしまった。
「ギル、急に飛び出していって何をした!村の連中が”王都に報告するか”とざわついていたぞ!」
痛みと羞恥心の中、耳鳴りのように父の言葉が響いた。
俺は頭を下げることしかできなかった。
「すみませんでした。父さん、母さん...」
涙で顔がくしゃくしゃになった両親が強く抱きしめてくる。
両方から伝わる体温で安堵し、俺の震えを和らげた。
――だが、長くは続かなかった。
リビングから聞き覚えのない声。次の瞬間、見知らぬ老人が立っていた。
「お、起きたのか」
「それはそうと、アイザック、マリナ、息子を放してやれ」
床板は一度も軋まなかった。この老人は何か気配が違う。
そして途端に両親は俺を放し、涙を拭き、姿勢を正す。
「ゼノン様...!」
異様に長い灰色の髪、何かを悟ったかのような眼差し。
だが、何故か背筋は真っ直ぐでドッシリしている。
何なんだ、この爺さん。
「お主、いや、ギル」
「はい、あなたは...?」
俺に用があるのか。
しかし、この爺さんがただものではないのは確実だ。
「そうか。お主は気絶しておったな。歳を取ると忘れっぽくなっていかんな」
「ワシの名はゼノン・グラウヴィッツ。ユニス王国”元”宮廷魔術師じゃ」
まさかの、宮廷魔術師だった。
元とはいえ、何故こんな片田舎の農村に居るんだ。
疑問は次々浮かぶが、こちらが話す隙を一切空けず、
ゼノン様は話し続けた。
「気絶していたお主を家まで運んだのはワシじゃ」
「そうだったんですね、ありがとうございました...」
ゼノン様は俺が返答すると、
すかさずポケットから魔力測定石を取り出した。
村の儀式で使われてた物と同様のようだ。
「ギル、手をかざしてみろ」
これで俺の魔力が少ないのがバレてしまう。
だが、仕方ない。
言われたままに測定石へ腕を伸ばし、手をかざした。
「アイザック、マリナ、見ての通りコイツは二属性持ちだが魔力は極めて微量じゃ」
「なのに何故、お主らの息子は昨晩、あんな魔法を放てたと思う?」
何のことかさっぱり分からないのか、
両親は顔を見合わせ、首をかしげた。
「知らないのも無理はない。あれはオーバーフローと言われる現象じゃ」
昨晩、俺が気を失う前に放った魔法のことか。
「オーバーフロー...ですか?」
ゼノン様は続けて説明を始めた。
「そうじゃ。オーバーフローとはその名の通り、限界以上の魔力を引き出すことじゃ」
「大体は精神状態が不安定な状況で二属性以上の魔力を練ると起こりうる」
「だが、普通はオーバーフローを起こすと体内の魔力回路が焼き切れ、死に至るモノじゃ」
それを聞いた両親はというと、
戸惑いと恐怖に隠せずに震えていた。
「嘘...」
何故なのか考えると俺はすぐに転生前での神との会話を思い出した。
まさか、あの異様に高かった運が関係しているのか?
そしてゼノン様はため息をつくと首を振った。
「正直に言うと、ワシほどの知見を持っていても何故ギルが生きているのか説明できん」
「だが、原因が何であれ奇跡的に生き残った以上、この力を放ってはおけん」
「と言いますと?」
「ギル、お主はワシの弟子になれ」
突然すぎる提案に部屋の空気は凍りつき俺も両親もほとんど言葉を発せなかった。
「え...?」
元とは言え宮廷魔術師が、農村に居る体が弱くて魔力も微量の8歳を弟子にするという、
あまりにもありえない話に両親は完全にフリーズ。
ゼノン様はそれを気にも留めず、会話を普通の調子で続ける。
「ん?なんじゃ、おかしいことを言ったかの?」
最初にフリーズが解けたのは父だった。
次に震えながら口を開いた。
「き...き、気持ちは大変ありがたいのですが、ギルはまだ8歳ですよ!?魔力も微弱で体も病弱だし...」
「ん?それがどうした?」
聞く耳持たずかよ。
間を入れずに話すゼノン様に母は俺を再び強く抱きしめ抗議した。
「”どうした?”じゃありません!ゼノン様のような方にギルちゃんを預けるには早すぎます!」
そして、ゼノン様は俺の方を鋭い目でみた。
さっきまでの表情の柔らかさはない。
「ギル、正直に言ってお前のその力は凶器そのものじゃ」
続けて低く冷静な声で俺の芯を突く。
「その力で昨晩両親を怖がらせたのも事実だろう?」
何も言い返せない。
見事に図星を突かれた俺は息を飲み、俯いた。
「はい。その通りです」
視界がクラクラし、前世での記憶が蘇る――
俺は違う形でも結局”破壊”する道に行ってしまうとでも言うのか...
「だが、ワシならお前のその危険な力を制御する知恵を教えられる」
前世の”過ち”と”後悔”を思い出した俺は真剣な顔で、
その言葉に縋るように即答。
「ゼノン様、俺をあなたの弟子にしてください」
さっきまでの凍り付いた顔から一変、満足そうな顔でゼノン様は俺を見て微笑んだ。
「よし。決まりじゃ」
父が慌てて立ち上がる。
「ま、待ってください!ゼノン様!それでも息子は!」
ゼノン様は声を荒げて父の言葉を遮った。
「やかましいっ!」
「ギルが決意したことじゃ!この子はお前らの子供だろう?」
「ならば、信用してやれ!”可愛い子には旅をさせよ”とも言うじゃろう」
何も言い返せない父と母は静かに俺を抱きしめて呟く。
同時に不安、心配、恐怖、様々な感情が肌を通して
俺に伝わった。
「ギル、無理をせず頑張るんだよ」
そう言って両親は覚悟を決めた顔でベッドから離れていき
頬に再び涙を浮かべ、お辞儀をして退室していった。
「ゼノン様、俺はこれからどうしたら...?」
「ギル。様はもう要らない。お主はもうワシの弟子じゃ、師匠で構わんぞ」
くよくよするのはもう、終わりだ。
俺は姿勢を正し、師ゼノン・グラウヴィッツの方を向き
弱い体ながらも精一杯、力強く返事をした。
「はい!師匠!これからよろしくお願いします!」
師匠は再び柔らかい表情に戻り、笑顔を浮かべたが
宮廷魔術師として、その目の奥には真剣な鋭い光が輝いていた。
「よし、お主にはまず、最初にする修行を把握してもらう必要がある」
「まずは、体力を上げる所からじゃ」
妙だ。引っ掛かる。なぜ魔法の練習じゃない?
師匠の予想外の言葉に俺は戸惑った。
「何をそんな、戸惑ったような顔をしておる?」
「魔力を制御するにもまずはお主のその病弱とされる身体を”人並み”にする所からじゃ」
――見透かされた。
師匠は俺の肩を持ち、目を細め、優しい表情で語りかけた。
「なに、心配せんでもいい、一度騙されたと思ってワシの言った通りの”薬草”を採ってこい」
正直、引っ掛かることは山ほどあるが、
この言葉を聞いた俺は興奮が隠し切れない。
「分かりました!師匠!その薬草はどこに?」
この病弱な身体に翻弄される生活から解放されるのか。
これは願ってもないことだ。
「ほっほっほ。そんな興奮するでない、まぁ落ち着いて聞け」
「その辺に生えてる雑草を採ってこいとワシが指示する訳がなかろう?」
嫌な予感がする。
初日から俺に何をさせるつもりなんだ。
そう、自分の身の危険を察知し顔が震えだした。
「ギルよ、急に顔色が悪いな。どうした?」
「いえ、何でもないです...」
「そうか。じゃあ単刀直入に言おう」
「お主がこれから採ってくる物は古代種に分類される少し特別な薬草じゃ」
「それは村からちと、離れて強力な魔獣が居る”毒の沼地”じゃ」
よりによって実戦ではじめるのかよ...!
本当に何なんだ。
「あ、安心しろ!さすがに一人で行けとは言わん!ワシも同行するぞ!」
魔力も少なく弱い身体だが、行動しないとまた前世と同じく
何もかも失ってしまう...それだけは嫌だ!
「分かりました。師匠。出発はいつでしょうか?」
「明日からじゃ。朝食を食ったら昨晩倒れた所に来い。お主の修行はそこから始まる」
「あと勝手にオーバーフローを使うんじゃないぞ」
「そう何度も“奇跡”は起きんからの」
意味深なセリフが気になるが、師匠は満足げに笑い、
ドアを開け、背を向けて手を振って出ていった。
明日から俺はこの家を離れる。
恐怖もある。けれど不思議と俺は冷静だ。
俺は拳を握り、窓の外の星を見上げた。
――絶対に強くなる。明日から薬草採取だ。
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今後のモチベになるので大変助かります。
2話も最後まで読んで頂きありがとうございました。




