EP:1 テロリスト、異世界で再誕
19XX年某日 アメリカ アークムーン州立刑務所
俺は全米を震え上がらせた最低最悪のテロリスト、アキラ・タカハシ。
鉄格子を覗くと、朱色の夕焼けが見え、
それは禍々しいものに感じる。
「これが人生最後の日没か...」
――やがて、死刑執行の時間になり刑務官達が近づいてきた。
「囚人番号482739番。時間だ」
間もなく独房から連れられ、執行室に連行。
そして人生で最も長く感じた廊下を歩き終え、電気椅子に拘束された。
本当に俺はどこで道を間違った。“小さな日常”を守りたかっただけなのに。
今はこの有様だ。
「電極のチェックは済んだな?」
セットが終わり、前方のカーテンが開いた。
ガラスの向こう側、遺族の膝には古びた写真立てがある。
――そして目があった。俺に対する強い殺意がヒリヒリと伝わる。
なぜカメラで撮影されてる...。俺の最期は見世物か。
まぁ、大罪人にはおあつらえ向きだ。
(あぁ、終わるんだな...)
心の中で今更懺悔するのも束の間。
刑務官はゴミを見るかのような鋭く、無情な視線を向け、
俺に最後の言葉を問いかける。
「アキラ・タカハシ。最後に何か言うことはあるか?」
「...さあな」
結局、大切なものを“守る”ことすらできなかった…。
俺の顔はマスクで隠され、次の瞬間、電源が入る。
『ビリッ』
全身を貫く電流。それは俺の肉体に染み付いた憎悪を焼き付ける激痛。
「おい!ヤツは意識を失ってないようだぞ!?」
「電極の取り付けはどうなっている!」
無様な姿を晒し、処刑は失敗。
「もういい!ヤツの息の根を止めるのが優先だ!急いでレバーを引け!」
何度も通電を繰り返され、人だった”何か”に変わり果て、絶命した。
――次に意識が浮上したのは俗に言う「神」との対話だった。
そこは明るくも暗くもない特異な空間。
「ここは、どこだ...?」
「俺は見世物にされて死んだはずだが?」
「アキラ・タカハシよ。お前は死んだんじゃ」
《ステータス》
【名前】unknown
【体力】5(平均以下)
【魔力】5(平均以下)
【運】999(限界値以上)
目の前に半透明のステータス画面が表示された。
まるでこれまでの俺を反映したかのような”平均以下”の
出来損ないのステータス。
「なんだこれは、俺の能力値か?」
「前世で最期に懺悔しておったの」
……全部お見通しってか。
「よって、最高の運をやろう」
「だが運は福にも罠にもなる。よう見極めることじゃ」
結局、訳アリじゃねぇかよ。
「しかし問題があってな、実は深刻な手違いがあった」
「おい、なんだよそりゃ」
俺の言葉を聞かず、神は語り続ける。
「我々も処理に慣れておらん。——言い訳じゃがな」
「連続殺人鬼に最高のステータスと才能を与え転生させてしまったのじゃ」
は...?
この言葉を聞いた瞬間、俺の全身が煮えくり返った。
「我々もこの失敗は重く受け止めておる」
「いろいろおかしいだろ。クソジジィ!」
「無礼な!...だが怒りは分かる」
「だからお前は転生し、彼を討ち、そして”贖罪”として、世界を救うんじゃ」
”毒をもって毒を制す”ってか!
なんで俺はこのジジィの尻拭いをしなきゃいけねぇんだよ。
「さあ行け。お前の新しい人生は異世界”メディウス大陸”で始まる」
「おい、待てよ!さすがに不公平すぎるだろ!?」
俺は絶叫しながら、光の渦に飲み込まれていった。
――最初に感じたのは暖かい毛布の感覚。
『オギャア』
それは前世で凄惨な最期を迎えた俺からしたら違和感があるものだった。
『ウギャア』
久しく忘れていた、人の愛情、温もり。
困惑しながらも俺は不思議と安堵。
瞬間、柔らかで包容力豊かな声が響く。
「なんて可愛らしい!あなた~この子が私達の子よ」
「マリナッー!俺たちの子が生まれたのか!」
今度は父親の声だ。母親は”マリナ”というらしい。
お母さんは涙を浮かべながら俺を抱擁。
「どれどれ、これが俺たちの子か!」
「”アイザック”お父さんでちゅよ~!」
両親は深い愛情に溢れた目で俺を見てくれる。
こんなにも愛されたのは、いつぶりだろうか。
そして俺は【ギルバート・スパーク】という名を与えられた。
父親は農夫のアイザック・スパーク、母親はマリナ・スパーク。
窓を見るとそこには、のどかで綺麗な風景が広がっている。
どうやら俺が転生した世界での出発点は穏やかな農村のようだ。
俺は新しい人生を感じながら、母の優しい子守唄を聴き、眠りについた。
――回想
(前世で俺が壊れたのは日常の崩壊が原因だ。
理不尽に家族と友人を奪われた挙句、法律や警察にも見放された。
そして破壊する道を選び、結果、処刑。)
本当はただ”小さな日常”を守りたかった。それだけだった。
この世界では二度と俺の日常を壊させない。
俺は強く決心した。
――母”マリナ”、父”アイザック”に大切に育てられ、しばらくし4歳になった。
だが俺の肉体はあまりにも弱い。
体力のステータスは”5”平均以下だ。
「ゲホッ...ゲホッ」
当然、病弱な俺は少しの風邪でも両親には苦労をかけ、疲労させてしまった。
だが父はめげずに俺が風邪で体調を崩したら、治るまで毎日薬草を摘んできてくれた。
「父さん、忙しいのに迷惑をかけて、ごめんなさい」
「迷惑だなんて、ギル、お前はただ生きててくれればお父さん達は幸せなんだから」
本当に不甲斐ない。
だが両親は深い愛情を注いでくれる。
俺は幸せだ。
「ありがとう、父さん...」
そんな中、ふと前世のトラウマとクソジジィ(神)との会話を思い出した。
得体の知れない殺人鬼が最高のステータスと才能を持って転生したことだ。
「本当に良いんだよ。ギル、8歳になったら魔力が発現するんだ」
「それで変わるかもしれないさ。前を向こう」
――それを聞いた俺は怯えながらも魔力発現を待ち続けた。
8歳になった。
この世界の子供達(獣人も含む)は魔力を発現させるには、
儀式を受ける必要があるらしい。
そして今日は儀式当日。
「よろしくお願いします」
村長が俺の手のひらに魔力測定石を近づけた。
『バチッ』
石は青白い光を放ったかと思うと、バチバチとスパークを放ったプラズマが発現し、石を覆った。
だが魔力量のせいか非常に薄い。
「これは、雷と炎の二属性だと!?」
村長は目を疑い、この言葉を最後に絶句。
どうやら二属性は稀らしい。
「おぉ...」
周囲の同じ年の他の子供達はというと、最初は驚いたが、
薄い光を見て、すぐに俺をバカにした。
「この程度の魔力なのに二属性?」
「結局魔力がないから、ただの病弱野郎だ!」
その言葉に前世で受けた差別と通ずるものを感じ、
俺は自分の無力さに改めて絶望し俯き、帰った。
「ちくしょう...」
家に着くと、いつもと変わらず、料理中の母が俺を迎えてくれた。
「おかえりなさい〜ギルちゃん〜」
「ただいま!お母さん!」
バカにされたなんて言えない。
二人を不安にさせるだけだ。
――少し経ち、夕食に呼ばれた。
「ギル、儀式はどうだった?」
「父さん、魔法は発現したよ。しかも二属性」
「でも...ちょっと外行ってくる!」
気まずくなり、すかさず家を飛び出した。
俺は何をやっているのやら...。
「おい、どうした!ギル!」
「...ギルちゃん!?」
魔力が薄くてバカにされたなんて言えるわけがない。
俺は無我夢中で人目のつかない森の奥に向かった。
着くやいなや、儀式の時を思い出しフラストレーションを爆発させる。
「今世こそ俺が大切な家族を守る!」
これ以上誰も俺のことをバカにさせない。
そして前世の最期に受けた電流をイメージし、
更にテロに使った爆弾のイメージと重ねた。
「クソ、体が熱い」
俺の体内では発現したばかりの雷と炎の魔力が、
前世の最期に受けた電流の感覚を元に一つになり結合。
それは雷と炎が合わさったことで生じる、
この世界では未知の爆発的な破壊のエネルギー。
「できた..」
全く、皮肉なものだ。前世の知識と経験がこんなことで役に立つとは。
俺は手の平からイメージした”破壊”のエネルギーを纏った魔弾を放つ。
『ッドーーーン!』
瞬間、鳥が一斉に飛び、遅れて風が戻る。
同時に耳鳴りと焦げた臭いが俺を襲い、視界にはビリビリとした爆炎が映った。
そして辺りの木は即座に焦げ地面はエグれ、まるで大災害だ。
「魔力"5"の俺がなんでこんな威力の魔法を...」
疑問はある。けど、この力があれば、
――今度こそ大事なものを守れる。
だが、どうしてだ。
足元の感覚が抜け、それに視界が暗転する。
「これは..な..んだ」
――そして俺は意識を失った。
2025/10/12、プロローグとEP1を大幅改稿・結合致しました。




