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暁の黄泉鴉  作者: 雅移 悟李羅
東饗──『偽りの太陽』編
78/86

77.ガラスの時代

「壊れゆく時代(とき)のなかぁで、きぃみを迎えに行くよ〜〜」


 『NTC』本社ビルの37階。

 玉藻の広い社長室で、饕餮(とうてつ)の歌声が響いていた。

 巨大なスクリーンに歌詞と、背景にローラースケートを履いたアイドルたちが踊る映像が流れており、これは月兎がプロデュースした『(おぼろ)GENEI(ゲンエイ)』の曲だった。


「僕らなしぃじゃ輝かぁない、ガラスのじ・だ・い〜〜……」


「オイ! オイ!」


「……」


「……チッ、クソ……うるせぇな……! せめてもっと上手く歌えよ……!」


 タイトルは『ガラスの時代』。

 世間では切ないラブソングとして人気であるが、『四大財閥』の本質を知る者からすれば、なんとも傲慢(ごうまん)で皮肉の効いた歌詞である。

 気持ちよさそうに歌う饕餮だが、その歌声は不必要なビブラートが入っていたり彼特有の間延びした喋り方が影響しており。

 檮杌(とうこつ)がかけ声を出しながら渾沌(こんとん)と共に手拍子を入れて盛り上げるのに対し、窮奇(きゅうき)は耳を塞ぎながら不快そうに悪態をついていた。


「ふぅ〜〜、気持ちよかったですねぇーー。次に歌う人は〜〜?」


「オレっ! 俺が歌うぜぇ!」


「……そろそろ切り上げてくれよ。君たちにはやってもらうことがあるんだからな」


 饕餮がマイクをかかげてカラオケを続行しようとしたところで、デスクチェアに座っていた玉藻が制止する。

 「ちぇっ」と舌を打った檮杌は、饕餮からマイクを奪い取るとそのまま握り潰してしまった。

 マイクなどカラオケセットは玉藻の私物であり、だから彼は破壊して見せたのだ。

 玉藻はそんな檮杌の行動に対し、ため息を吐くだけに留めてそれ以上は言及もしなかった。


「……。どうやらマスコミがうちに押しかけてきているらしい。今連絡が入ってね。君たちにも、対処をお願いしたい」


「マスコミの対処ですかぁ〜〜? それはまた」


「殺していいのか!?」


「なんで俺たちがンなことを……」


「……」


 玉藻からそう告げられた四凶たちは、四者四様の反応を見せる。

 渾沌だけは言葉を発さず、身ぶり手ぶりもせず、ほぼ無反応であったが。


「彼らはすでに一階のエントランスまで来ているそうで、私の説明を欲しがってるそうだ。一緒に来てくれ」


 玉藻はおもむろにチェアから立ち上がり、社長室から出ていく。

 取り残されている四凶たちを一瞥(いちべつ)するようなこともせず、淡々と退室してしまった。

 饕餮たちは顔を見合わせ、首をかしげる。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()、特定の誰かというわけではない。全員である。



───────────



「あっ、玉藻社長!」


 エレベーターを使い一階まで到着した玉藻は、広く豪奢(ごうしゃ)なエントランスホールに足を踏み入れる。

 そんな彼を視界に収めた記者の一人が、声を上げた。

 それを合図に他の記者たちも一斉に顔やカメラを玉藻に向け、自分たちを制している警備員を乗り越えんとする勢いで続々と言葉を投げかける。


「玉藻社長! 今朝の『おめざめテレビ』での報道について何か一言!」


「あのような悪質なデマに対し、今後どのような処置を取られるのでしょうか!?」


「番組をジャックした犯人は、神宿(しんじゅく)警察署に勤務する刑事五名だと判明していますが! 彼らとの関係は!? 警察と何かしらの関わりがあったのでしょうか!」


 『フシテレビ』を襲撃した、警察の長濱一派の身元はすでに割られていた。

 月兎による七百人のスタッフが殺されたテレビ局の惨劇も、昼から出勤してきたスタッフや芸能人たちによって明るみになっていた。

 他テレビ局の報道関係者や、新聞記者はその事実を(もと)に玉藻に取材しに押しかけて来たのである。


「……警察官がテレビ局を襲撃したという話は、私も耳に入れています。彼ら五名とは、私は何の関係もありません」


 記者たちは玉藻を取り囲み、矢継ぎ早に質問をぶつける。

 これに対し玉藻は、毅然(きぜん)とした態度で淡々と答えていった。

 報道された警察は自分と関係ない。デマには厳正に対応する。警察との関係は、地位や立場上での関わりしか無い。

 そのようにコメントしながら、玉藻は記者たち一人一人に目をやっていた。

 探していたのは、生放送、配信をしていると思われるカメラである。

 

(……受付に伝えた通りだな。この状況は全国に放送されてはいない。録画だけされている。が、それは少なくとも()()()()()カメラの話)


 取材のアポを受け付けたスタッフには、元々取材を生中継させることは禁止だと伝えるよう言ってあった。

 少なくとも、玉藻の目に見える十数台のカメラは録画だけをしている。

 しかし、記者の群れの中で見えない位置で中継をしているカメラがあることは否定できなかった。映像は撮れないが、それでも音声は伝えられる。

 だが、それで十分である。玉藻にとっては。


「んっ? な、何だ……」

「うわあああっ!?」

「遠ざけられるっ」


「申し訳ない、皆さん。本日はもう……お引き取りください」


 玉藻と記者たちの顔の距離はわずか30cmほどであった。

 ほぼ肌に触れるほどの位置でマイクや録音機を掲げられていたが、それらが突如、玉藻から遠ざけられ始める。

 まるで透明な壁が彼と記者たちを隔て、玉藻から放射状に彼らを押しのけていくかのように。


「「「うわあああああっ──」」」


 玉藻を中心に、半径3mの透明なドームが出来上がる。 

 押されていく記者たちの体は折り重なり、悲鳴を上げながら潰されていく。

 しかし負傷するほどの力で押されてはいないため、怪我をした者は出ていない。

 玉藻は彼らに冷たい目を向けながら、フィンガースナップをした。


「"昏御津羽(くらみつは)"」


 次の瞬間、記者たちの胴体が光り輝き、爆発した。

 水を司る龍神の名を冠したこの技は、魂に直接干渉する能力を応用したものである。

 対象の魂の霊力を急速に増幅させ、それに耐えられなくなった肉体が爆裂する。そういった仕組みであった。


「あら〜〜〜〜、派手にやりましたねぇーー」


「おいおいおい、こんな汚しちまっていいのかよぉ? 血まみれじゃねぇか。なかなか落ちねぇぞ、この臭い!」


 エレベーターから『四凶』たちが降りてくる。

 爆裂した記者たちと破壊された機械の残骸が、エントランスに散乱している。その様子を見て、饕餮と檮杌は楽しんでいた。

 赤黒い血肉が飛び散り、鉄と生臭さが混在する空間となったその場所は、もはや玉藻と四凶、人外しかいない。


「いいんだよ。もう我々は、人間として振る舞うようなことはしないからな」


「ほうほう〜〜? それで? 私たちにしてもらいたいというのは? 記者の皆さんは、既に貴方がこんなんにしてしまいましたがぁ……」


 四凶は先程、玉藻からマスコミの対応をしてほしいと頼まれていた。

 しかしそのマスコミは玉藻によって掃除され、四凶は手持ち無沙汰に。

 饕餮は玉藻に、結局何をしてほしいのかと尋ねる。


「少し、訊きたいことがあってね。特に饕餮、君に」


「はいぃ〜〜?」


 玉藻は饕餮の方へ向き直る。


「鴉たちがニュース番組で流していた音声。あの中に、初めて君たち『四凶』と『四大財閥』が会った時の会話が(まぎ)れていた」


「はいはい……」


「あれを録音していた者……それは、君たちでないのは確実だ」


「んん〜〜〜〜??」


 何を言い出すかと思えば、と饕餮は玉藻から言われたことに首をかしげる。

 そのまま首が千切れそうなほど、直角以上に斜めにしていく。


「鬼たちが関わっているのは確実だろう。だが、わざわざ録音機をあの場に持ってくるか?」


「ふーーむ。今日という日をあらかじめ迎えようとしていたのなら、別におかしくないと思うんですけどねぇ」


「私はそうは思わない。そして、私の元には()()()()()()()()()()。『あすこここ』だ。時空間移動……過去に(さかのぼ)れる力がある。それを使えば、ああした音声を集めることもできるだろう」


「……結局、何が言いたいんです?」


「君なんだろ。鬼に、『あすこここ』の力を漏らしたのは」


 玉藻がそう言い放てば、四凶全員が玉藻を睨みつける。

 当の饕餮はというと、その口を不気味に歪ませ、笑っていた。

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