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暁の黄泉鴉  作者: 雅移 悟李羅
東饗──『偽りの太陽』編
57/69

56.霞みゆく光明

「ぐッ……うぅ……!!?」


「100人分以上の屍気を吸収した陰摩羅鬼と殺し合って、お疲れだったと思うけどね。だからと言って僕が加減を求められる(いわ)れはないんだ」


「ッ──!!」


 左腕を落とされ、激痛に悶える鴉。

 血を撒き散らしながら床の上でのたうち回る彼を見下ろしながら、月兎(げっと)は淡々と語った。

 口を塞がれ拘束されている加山も、鴉と覚の身を案じると同時に月兎の腕を振り解こうとする。しかしそれは許されなかった。


「ガッ……あああッ!! げっ……とォ……ッ!! 何が目的だぁッ!? なぜっ……加山を……!?」


「なに、少し利用させてもらおうと思ってね。この霊力……東饗(とうきょう)、いや日本中探してもここまで高い人間は見つからないだろうさ。まさに奇跡の存在。僕の側に置いておくに相応しい」


 鴉の質問に月兎はそう答える。

 彼はとにかく加山を自分の近くに置いておきたいのだという。しかしその理由は一切明かさず、相変わらず月兎自身の顔も加山の背後に隠れているために明らかにならない。

 全てが煙に巻かれてしまう。


「鴉、僕はこう見えて君のことは評価しているんだよ。結構ね。瑞子鳴河(みずこめいが)に狩られなかったのは君が初だろうし、玉藻に目をつけられてここまで生き延びられ、そして彼を楽しませられたのも君だけだ」


「はぁっ……はぁっ……! なん、だと……」


「だから僕は君を、できれば殺したくない。僕は玉藻と同じで楽しいのが好きなんだ。君ほど()()()鴉とは、もう二度と出会えないかもしれないとすら思ってる。君を生かして、然るべき時になったら……それはそれは楽しい時間を過ごせるはずだ」


「ワケのわからねぇことをッ!!」


 淡々と、しかし声色はやや(たかぶ)りを含んでいる月兎。

 鴉はそんな彼を黙らせたいかのように怒鳴った。

 まるで子ども。捕まえた虫と虫を戦わせて、どちらか一方がバラバラにされるのを楽しむ少年にも似た妖怪。それが鴉の月兎に対する印象であった。

 彼自身、身長はほぼ170cmの加山と同程度。少なくとも外見は確実に"大人"にも関わらずである。


「普通の人間が片腕を落とされて放置されれば、まあ出血性ショックは(まぬが)れないだろうさ。だが君たち鴉なら軽く気絶してすぐ再起する。君にはこれ以上は何もしない……」


 月兎は加山の背後からそう言う。

 だが彼の目線は玄関で倒れる覚に向いており、「鴉は生き延びるは彼はどうだろうか?」と含みを持たせた言い方をしていた。


「ンンっ! むうぅぅっ!」


「おっと! 加山さんも、そろそろ大人しくするのが辛くなってきたかな? それじゃ鴉、僕たちは失礼させてもらうよ」


「待てっ、やめろ!」


「待たないよ! それじゃ、良い夜を──」


「んんッ! うぅ──!」


 背後に再び黒い(もや)が出現し、月兎と加山はその中へと消えていく。

 鴉はそうはさせまいと力を振り絞って刀を投げつけようとするが、月兎は加山を盾にしたことで思わずその手を止めてしまう。

 加山は最後まで抵抗していたが、自分を掴む腕を振り解くことはできずそのまま闇の中へ沈むように、月兎に連れ去られてしまった。


「……ッ!! クソおおおおおおおおおッ!!」


 悔しさに満ちた鴉の叫び声が部屋中に響き、空気を震わせる。

 彼は妖力を感知しそれを辿って妖怪の元へ向かうことはできるが、月兎は移動は点から点に移るというもの。妖力は途切れ、二人の居場所を突き止めることはできなかった。


「かっ……鴉……! そこに、ある……スマホ、を……」


「……!」


 背後から覚が声をかける。

 鴉が振り向くと、彼は床を()って彼の方へ向かってきていた。喀血(かっけつ)しており、胸に空けられた傷口と口から垂れる血をフローリングに塗りたくりながら、加山と月兎がいた場所を指差して。


「加、山……んが、置いて……ったんだ……。わざと……!」


「これか!? これを使ってどうするんだ!?」


 覚は手で「こちらに寄越せ」とサインを送る。

 鴉は加山のスマホを拾い上げると、覚に投げ渡した。

 スマホは電源がついており、ロック画面も外されている。覚はそれに気づいていたのだ。


「……地図を、開いた……。月兎の、根城……やつの事務所、だ……! まだ動けるだろ……ふた、り……がっ……ここにいるか、わからん、が……可能性は……」


「そうか……! 覚、もう喋るな。後は俺がやる。悪いな、俺は二人を追う」


「そう、しろ……」


 覚はスマホを操作できる。

 マップを開き、月兎の『幻明芸能事務所』にマーキングした。

 この場所にいけば二人に会えるかもしれない。可能性は100%ではないが、今行くべきなのはここである。覚は鴉にそう告げる。

 鴉は胸の傷は塞がりつつあるが、斬り落とされた左腕は放っておいても再生しない。鴉は落とされた腕を拾うと、テーブルの端に置かれたテープを取って、口と右手を器用に使って雑ながらも左腕を切断面にくっ付ける。そうすることで、再び接合するのを待つのだ。

 

「覚……後で必ず帰ってくる。くたばるなよ……」


「誰に……言ってる……」


 鴉は再びコートを羽織り、刀を携帯する。

 そして窓から飛び出そうとする直前、テーブルの脚にもたれる覚の方を振り向いてそう言った。

 その時の鴉の表情は覚でも初めて見るもので。とても、一度死んだ妖怪を連れ戻す"死神"とは思えないものだった。覚はそんな彼を笑って送り出す。


「待ってろ、加山……!!」


 怒りと焦りを(にじ)ませた声で、鴉は呟く。

 窓をすり抜けてマンションを飛び出した彼は、建物の屋上を伝いながら風よりも速く走り皆途(みなと)区を目指した。


「……はぁ……はぁ……」

(俺は鴉と違って……傷が治るのが遅いからな……。血は少し止まってきたが……しばらく痛みに耐えないといけない……。救急車でも呼ぶか……?)


 残された覚はひたすら痛みに耐えていた。

 妖怪である以上、人間を超えた生命力は持ち合わせている。外見は()()()三、四十代男性の彼だが、中身は二百年以上生きた老練の"(さとり)"である。

 妖力を操作して霊力に戻し、再生力を少し早める術は知っていた。


 血を失ったために気が遠のいてくる感覚に襲われる。

 覚は少し寝るつもりで目を閉じ、眠気に身を任せていった──



「おや、鴉はいないじゃないか」



「…………!!?」


 突如、覚の耳に少年の声が飛び込んでくる。

 驚いた彼が目を開けると、鍵を閉じたままの掃き出し窓が全開になっており、そこにボロ布を羽織った黒髪の少年が立っていた。

 鍵を開ける音も、窓が開く音も覚は耳にしていない。眠りかけていたことから聞き逃したかと一瞬考えるが、そんなことは問題ではなかった。

 覚の目の前の少年は、なんと月兎よりも強い妖力を放っていたのだ。


「……なっ…………!?」


「鴉がいると月兎に聞いて来たのになぁ〜〜。まあ、いたとして今回の目的は彼ではないんだけどね」


 黒髪の美少年は独り言を呟いているようで、確かに覚に語りかけている。

 窓から吹いてくる生温い風は逆に覚に鳥肌を立たせた。

 全く知らない少年。であるにも関わらず、覚は彼の正体について理解していたから。


「現代となってはかなり珍しくなってしまった妖、"覚"。私は君に用があって来たんだよ」


「……な、なんだと……」


「君たちは人間を驚かしたり襲うのは好きでも、戦いは大嫌いな部類だと聞いている。だからかな、黄泉からもあまり出て来ていないみたいで、中々目にできないんだよね」


 少年はおどけた様子で、身振り手振りを交えてそう話す。目の前で、その目的の覚が死にかけていることなどどうでもいいかのように。


「…………」


「……そろそろ本題に移れって? 心を読めばいいじゃないか。実は私は──」


「……よ、妖怪を造る、だと……!?」


「そう。戦力的には私に並ぶ予定の、人造の大妖怪。いや、この場合妖工と言うのが正解かな? まあ何でもいいんだが、とにかく強い妖を造る予定なんだ。そこでね」


 少年──変化(へんげ)した玉藻草司は覚に手を差し出して、言い放った。


「君のその目、ぜひとも欲しい。妖力を込めることで心を読めるその眼球が、我が『あすこここ』をより強くするはずだ……」

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