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暁の黄泉鴉  作者: マサイのゴリラ
東饗──『偽りの太陽』編
39/50

38.四匹の厄災

 赫津鬼会(あかつきかい)と鴉による『一目連龍水道』襲撃作戦から二日が経過した。


 一階〜三階までが破壊し尽くされた一目連龍本社ビルは未だ復興途中であり、通常業務も生き残った社員たちが慌ただしく勤しみようやく進んでいる状態。

 東饗中の水道インフラを掌握しているだけあり、その影響はほとんどの都民に及んでいた。

 下水処理場、浄水場の稼働に滞り、生活用水の不足や飲食店では営業停止を余儀なくされることも。


「クソっ……こんな時だってのに、一体何の用だ玉藻の野郎……!!」


 瑞子は怒りを滲ませながら、とあるビルの廊下を足早に進んでいた。

 彼のいるフロアはかなりの高層であり、ガラス張りになっている右手側からは眩しい日差しが差し込んでいる他、この建物より背の低いビル群を見下ろせる。

 しかし瑞子はそんな景色になど目もくれず、ただひたすら玉藻に招集をかけられた集合場所を目指していた。

 

(だが……ちょうど良い。鬼共も呼ばれてるってなら、()()()()そろった状態でバラせるってわけだ。鴉とあいつらが組んでやがるということを……!)


 先日交戦した鴉と鬼童丸。息の合った襲撃と、鬼童丸が鴉を助けていたところから、間違いなく両者が手を結んでいる間柄と確信していた。

 結局この時までに茨木童子を問い詰めることはできなかったが、逆に四大財閥の全員が集まるこのタイミングは瑞子にとって都合が良い。


「見てろ、茨木童子……。てめェらはもう終わりだぜ……!」


 約束の時間は目前。

 瑞子は集合場所である宴会場(ホール)の扉の前に到着する。

 彼は意気揚々と両手を扉につき、そして押し開けた。

 


「おや」


「ん……」


「…………」



 扉の先に広がるのは、奥行き、幅ともに三十メートルを超える巨大ホール。ただしテーブルや椅子は一つもなく、天井の無数の橙色の照明がただ室内全体を照らしているだけ。

 そしてその中央には先着していた三人の姿があった。

 瑞子が扉を開けると同時に、三人は彼の方へ顔を向ける。


「……なんだ。玉藻の野郎はまだ来てねェのか?」


「ああ。言い出しっぺが遅刻とは、感心できないよねぇ。何やってるんだか」


 瑞子は三人の方へ歩きながら、そのうちの一人である月兎(げっと)にそう投げかけた。

 月兎も月兎で、両手を上げて肩をすくめながら玉藻の愚痴を口にする。だがこれ以上会話が広がることはなかった。

 瑞子の視線は残る二人の方へ、ギロリと向けられたからだ。


「よう、茨木童子。先日はどォも」


「瑞子殿、えらく上機嫌だな。鬼童丸と運動したのが良かったのだろうか? 言ってもらえれば、また貸しますぞ」


 嫌味な態度を隠すことなく皮肉を言い合う二人。

 茨木童子の隣に控える鬼童丸は相変わらず何を話さないが、彼も瑞子に対し何か思うことのあるような視線を送っている。眉間にシワを寄せ、睨みつけていた。


「……てめェ一体どういうつもりだ。鴉と鬼童丸けしかけて、まさかあれで俺を殺せるとでも思ってたのか? んなワケねェだろ」


「ああ、そうだったな。流石に貴公を侮りすぎたと思ってる。鴉を利用した形になったが、まさかあいつがここまで使えないとは。祢々(ねね)は殺せても四大財閥のトップはやはり無理だったか……」


「いつから組んでた! (あやかし)が鴉と組むなんざどういう了見だ、あァん!?」


「だから、一方的に利用しただけだと言っている。貴公を楽に殺せると、そう吹き込んだ結果だが」


「嘘つけェ! ならどうして鬼童丸が鴉を助ける! 玉藻の玩具(おもちゃ)ぶっ壊した後がそんな怖えのか!?」


 のらりくらりとはぐらかし、瑞子の追及を(かわ)そうとする茨木童子。 

 自身の力の根源とも言える水道の機能を弱められたことと、鬼に舐められたことによる怒りが止まらない瑞子。

 玉藻が怖いかと茨木童子を挑発するように言うが、その刹那彼の脳裏に鴉の言葉が蘇る。



『玉藻に勝てないから、自分より弱い鴉を憂さ晴らしに──』



「──チッ……」


 茨木童子の返答を待たず、瑞子は小さく舌打ちし黙ってしまった。

 その様子を見ていた茨木童子と月兎は怪訝そうな表情で顔を見合わせる。今の瑞子は、二人の知る従来の彼と比べると大人しかったのだ。

 いつもは猛犬のように吠える。

 自分から黙ることなどまずないというのに。


「まあ……何があったかは知らないけど、元気出しなよ瑞子。ところで、今日何のために集まるか知ってるかい?」


「あ? いや……知らねェな」


「瑞子もかぁ。実はさっき茨木童子とも喋ったんだけどね、どうやら玉藻はここに僕らを集めて何をするのか秘密にしてるんだよ。さっぱり見当がつかない」


月兎(おめェ)でもわからねェなら俺にもわかるわけねェだろ。あいつの考えてることはサッパリだ──」



「それはこれから説明するよ。月兎、瑞子」



「「「!」」」


 ホールの奥の扉が開き、男の声が響き渡る。

 四人が一斉に視線を送った先には、あの目立つ金髪と黒スーツが目印の玉藻草司が。

 だがホールに入ってくるのは彼だけではなかった。

 彼の後ろには更に四人、瑞子たちの見慣れない者どもがぞろぞろと続いてホールへと足を踏み入れてくる。


 茨木童子、鬼童丸、瑞子の三名が頭の上に「?」マークを浮かべて四人に警戒する中、月兎だけは何かに気づいた様子。

 手をポンと叩くと、「そういうことね」と笑みをこぼした。


「やあ、久しぶり。四大財閥のみんな」


「玉藻……本当に()()()()()()()()?」


「ああ、前は相談に乗ってくれてありがとう月兎。丸三日かかったが、見事全員連れてくることに成功したよ」


 玉藻が月兎たちの集まりに合流すると、彼らに自身の背後にいる謎の四人組を手で指し示しながらそう話した。


「フフ、瑞子と茨木童子たちは全く状況がわかってないみたいだね」


「あたりめェだろ……。お前ら、また裏で何かしてやがったな」


「あの四人は玉藻殿の新しい部下(おもちゃ)か? ()()()()連中だな。日本の妖には見えない」


「うーん、まず瑞子の質問だがそれは正解だ。とはいえ、月兎には相談に乗ってもらっただけで彼は特に何もしてないよ。そして茨木童子の質問の答えだが──それはNOだ」


「……というと?」


 四人組は玉藻の()()ではないらしい。

 茨木童子が訊き直すと、玉藻は四人に向かって手招きをする。

 するとヤギのようなツノを頭に生やした、胴体が黒いスライムのように流動する不気味な男から順番に、四人組は茨木童子たちの目の前に横並びし始めた。


「紹介しよう。彼らは古代中国史において、その存在を闇に葬り去られた──名を、『四凶(しきょう)』という」


「「なに……!?」」


 四凶。彼らは古代中国のある皇帝により、国の四方に封印された妖である。

 中国では悪神としても恐れられ、その罪状を示すエピソードは日本にも伝わっている。

 そのため、瑞子と茨木童子も彼らの存在は知っていた。知っているからこそ、今目の前にいる本物の四凶に驚きを隠せなかった。


 半ば伝説、作られた存在と思っていた者たちが現実にいるということ。

 太古に数々の術師の犠牲を払って封印された悪神が、玉藻に解き放たれたこと。

 そして自分たちとは違う、感じたことのない妖力を放つその異様さに。


「彼らは私と同盟を組んだんだ! 見事私が君たちに勝利し、世界を掌握したら。彼らを私の支配する世界の王として君臨してもらう。その代わり、私の手足となってしばらくの間動いてもらうのさ」


「それは実質部下としているのでは──」


「しっ、名目上の立場も気にするやつがいるんだよっ」


 茨木童子が率直な意見を述べると、玉藻はすぐさま彼の口を塞いで小声でたしなめる。

 だが本気で焦っている様子は無く、あくまでも形だけの配慮にすぎないらしい。茨木童子はそう考える。


 そんな玉藻と茨木童子の様子を見ていたヤギのような男は、ノロノロと動きながら二人に言葉を投げかける。


「聞こえてますよぉ、玉藻さん。すみませんねぇ、うちも問題児が多いものですから。配慮してもらってぇ」


「いやあ、気にしないでいいんだよ。あ、そうだ。じゃあ一人ずつ自己紹介でもしてもらおうかな。やっぱり必要だろう? ねぇ?」


((どうでもいい……))


 玉藻は四大財閥のトップたちに尋ねる。

 月兎は快く頷くが、茨木童子と瑞子は心底うんざりしていた。二人はその表情を隠すことなく玉藻に向けていたが、そんな思いを彼に尊重されることもなかった。


「よし、じゃあ順番に行こう。まずは"饕餮(とうてつ)"から」


「はいぃ。財閥の皆さんよろしくお願いしますねぇ。私は饕餮。"貪食の饕餮"とも呼ばれていましたぁ。得意なことはどんな物でも食べられることとぉ、好きなことは食べることとぉですねぇ」


 間延びした喋り方が特徴的なこの男は饕餮。

 彼は今日本語を話しており、つい一昨日までは中国語話者だった。四凶は全員玉藻の力によって日本語を刷り込まれており、理解し話せるようになっている。

 

 饕餮は欲望の塊、強欲の化身。

 食べ物も、財産も、他者の命も、全て貪り食い尽くす。無限の欲望と胃袋は一部の地域では魔除けの霊獣としても崇められている。

 実際は醜悪な人面獣心の化け物なのだが。


「ハッ、くだらねぇ。勝手にやってろ」


 

 バサァァッ──!



「あっ、ちょっ──」


 饕餮がゆっくり自己紹介していることに耐えかねたのか、彼の隣にいた、四人の中で特に若い見た目の男が悪態をつく。

 十代後半〜二十代前半ほどの外見と、上裸にベストを羽織った容姿をしている彼は背中に白い翼を生やすと羽ばたき一つで宙に浮かび上がる。そして二回目の羽ばたきによってホールの出口の扉へ高速で向かう。

 

 玉藻が止める間もなく、彼は体当たりで扉を破壊。

 そのまま全面ガラス張りとなっている外壁を突き破り、屋外に飛び出していってしまった。


「彼は昔と変わらずヤンチャですねぇ」


「……まぁ、本人に代わって私が紹介しよう。今飛び出していったのは窮奇(きゅうき)。"疾風(はやて)の窮奇"だ。風の神とも崇められる、戦闘狂……って感じかな」


 玉藻はため息を吐きながら、茨木童子たちにそう説明するのだった。

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